初回で5000人を動員! ハロプロも動かす
2023年の「ジャパン・エキスポ・タイランド」でもコスプレは大人気。会場に大勢集まっていた。
日本の文化をもっとタイの人に知って貰いたい、その第一歩は語学だと思い、ユパレットさんは20年前、日本語学校を設立します。しかし真面目に机に向かってばかりでは若い人たちは飽きてしまいます。
そこで当時彼らが興味を持っていたJ-POPのカバーダンスとJロックカバーバンド、コスプレのイベント「ジャパン・フェスタ・イン・バンコク」を催すことにしました。
2006年に学校の近くにあるショッピングモールの屋外で開催したところ、思いもかけずに約5000千人を動員。これに驚いたモール側から毎月の開催を提案されて引き受けることにしました。そして3年経ったとき、イベントを毎月ではなく年1回の大イベントへと変身させました。初年は5万人を動員する大成功。
「そのうち、J-POPのカバーダンスを一生懸命練習している子を見ていて、“彼女たちを日本の本当のアイドルたちと一緒にステージに立たせて上げたい!”と思うようになりました」
そこでユパレットさんはフェイスブックで「タイへ来て欲しいアイドルは誰」という投票を行ないました。結果、票を多く集めたのが「モーニング娘。」等で知られるハロープロジェクトのアイドルたちでした。
ユパレットさんは投票結果とファンから寄せられたコメントのコピーを持って、ハロープロジェクトの事務所へ赴き直談判。「えっ、タイでこんなに人気があるの!?」と驚かれると共に興味を持ってもらい、アイドルの招聘への道筋ができました。
年1回の大イベントに変身させてから3年目、ついに念願がかなってハロープロジェクトのトップアイドルである安倍なつみさんが参加。その年は7万人を動員。2014年には、ポップカルチャーだけでなく様々な日本文化を紹介するイベントとして現在の「ジャパン・エキスポ・タイランド」と名前を変更しました。
「K-POPの流行」と「コロナ」で二重苦に
しかし大規模イベントにすることはチェレンジでもありました。「ジャパン・エキスポ・タイランド」は当初から入場が無料。スポンサーの確保が重要です。しかし当時からK-POPが流行しておりスポンサー探しが難航するようになります。10数社にお願いをして、うち協賛になってくれた企業は3社だけでした。
「でも私と同じように日本文化にあこがれて育ってきたビジネスパーソンの方々が各企業に大勢いました。彼らが全面的に協力してくれたことで、なんとかイベントを繋いでいき、スポンサーの数も増やしていくことができました。彼らには今でも感謝の気持ちでいっぱいです」
躍進を続ける「ジャパン・エキスポ・タイランド」でしたが、そこに襲ったのがコロナ禍でした。
このような大掛かりなイベントでは1年またはそれ以上をかけて準備を少しずつ行なっていきます。ところがまず2020年1月に予定していたイベントがキャンセルされ、2021年も開催不可能に。2022年2月にやっと復活しますが、日本のアーティストやアイドルは訪タイできずリモート出演でのショー開催となりました。
日本文化の「押しつけ」ではない「ローカリゼーション」が成功の鍵
そして2023年、日本からの出演者もステージに登場しイベントは完全復活しました。ごった返す会場で今回、目立ったのがタイ以外の国からの観光客たちでした。
全面復活した「ジャパン・エキスポ・タイランド」は大成功。
コスプレイヤーたちと楽し気に記念撮影をしている白人男性に話を聞くと、「ロシアからだよ。たまたま立ち寄ったけど面白いね! 日本は最高だ!」とのこと。他にも東南アジアの周辺国やアラブ圏からの人々もイベントをエンジョイしていました。
イベントに大興奮のロシア人観光客。
主催者であるG-YU CREATIVE は2017年からマレーシアでも「ジャパン・エキスポ・マレーシア」を開催。コロナ禍は休止していましたが、こちらも見事に復活しています。また他国からも開催のオファーを多数受けているそうです。
ユパレットさんはイベントの規模を拡大させ海外にも進出。
本家日本の「クールジャパン」政策が失敗だったと評される中、タイで生まれた「日本関連イベント」が大成功し、他国にまで輸出されている。この理由は何なのでしょうか?
「日本のコンテンツは本当に素晴らしいですよね。でもそのまま持ってきても、現地の人には受け入れられないことが多い。そのために現地に即した対応が必要です」
その一例として、ユパレットさんはイベントのテーマ曲を手がける日本の伝統楽器を演奏するインストゥルメンタルグループ「竜馬四重奏」を上げます。彼らとタイ人のアーティストにコラボして貰い、インストルメンタルの楽曲に、タイ語で歌詞をつけました。観客も参加して歌える環境を作ることで、敷居の高いと思われがちな三味線など和の音色の素晴らしさをもっと身近にタイの人に知ってもらうようにしたのです。
「もしかしたら生真面目な方は“それは本物じゃない”と言われるかもしれません。でもそれが日本を知るきっかっけになれば良いと思っているんです」
またタイ人たちによる「日本風アイドルグループ」も敷居を下げることに一役買っているのかもしれません。今、タイでは日本風アイドルグループがブームになっていますが、2023年の「ジャパン・エキスポ・タイランド」でデビューした「ステラグリマ」もその一つ。
「私たちはハロプロのアイドルさんが好きで、憧れの人たちを観れるこのイベントに欠かさず来ていました。同じステージに立てるなんて本当に夢のようです!」と同グループのメンバーは興奮しながら言います。
イベントでデビューライブを行った「ステラグリマ」。@
こんな「ローカリゼーション」以外に、ユパレットさんが「日本関連イベント」を成功させた理由がもう一つあります。それは先述した日本のアイドル招聘のエピソードのように突飛とも言えるアイディアにまい進する行動力。
良かれ悪しかれ「石橋を叩いて渡る」日本人にはなかなかできないでしょう。「日本文化」を広めるのに純粋な「日本風」にこだわるではなく、発想を柔軟にしていく必要があるのかもしれません。
約20年に渡って続くユパレットさんの思いの詰まった G-YU CREATIVE が主催するイベント。それが蒔いた種は、次の世代へ大きな影響を与え見事に花開いているのです。会場のあちらこちらに設置してある日本の象徴、桜のように美しく。
梅本昌男
フリーライター。タイや東南アジア諸国の記事をJAL機内誌などの媒体に書く。単行本『タイとビジネスをするための鉄則55(アルク)』。NHKラジオへの出演や写真ACのモデルの仕事なども行っている。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員