簡単な漢字でも、熟字に訓読みを当てて独特の読み方をする熟字訓や、見慣れない送り仮名がついているものは、読み方が分からないものです。普段目にすることが少ない『生飯』という熟語は、なんと読むのでしょうか。生飯の読み方と、意味について解説します。
「生飯」の読み方と意味は?
普段から何げなく使っている言葉でも、漢字にすると一気に難しくなる言葉があります。なじみのない『生飯』の読み方と意味を解説します。
読み方は「さば」
『生飯』は『なまめし』や『しょうはん』ではなく、『さば』と読みます。
生飯とは仏教や修験道の食事で見られる、作法の一つです。餓鬼や鬼神、無縁仏に供え、鳥獣などへ施すために、食事前にご飯を茶わんから一箸取り分けることです。自分だけ満たされるのではなく、他に対し施す心、思いやりを持つためという意味もあります。
生飯の『飯』の読み方は『はん・めし・いい』ですが、『生』には複数の読み方があります。音読みは『せい・しょう』、訓読みになると『い(きる)・う(む)・は(える)・き・なま』など、さまざまです。『生糸(きいと)・生憎(あいにく)・弥生(やよい)』などの他にも、多くの読み方が存在します。
『さば』の読み方と意味を、同時に理解しておきましょう。
「生飯」と「さばを読む」の関係
『さばを読む』という慣用句は、現在でも使われる機会が多くあります。さばを読むと生飯の関係を紹介します。
さばを読むの意味
実際の数より多く、または少なくごまかすことを、『さばを読む』といいます。年齢や体重・成績など、物事を事実より良く見せたい状況で多く使われるので、目にしたり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。
さばを読むを使った例文を紹介します。
- 実年齢から5歳ほどさばを読んでいたが、子どもの頃はやったおもちゃの話題でバレてしまった
- お小遣いの金額を友達に聞かれたので、さばを読んで伝えた
- 体重のさばを読んでいたことが、身体測定でバレて気まずい思いをした
さばを読むの『さば』には、『鯖』が当てられるケースが多いですが、『生飯』を由来とする説もあります。それぞれについては後述します。
「生飯」が由来とする説
『生飯』は食事前に茶わんから、ご飯を一箸取り分ける作法です。ご飯の準備をする際に、生飯で取り分ける分も考えて、少し多めに盛ります。
さばを読むという言葉は、通常よりも少し多めにご飯を盛る、生飯の行動が由来という説があります。転じて数や量の多い少ないにかかわらず、数をごまかすという意味で使われるようになった、という説です。
生飯には他に対し施す心、思いやりを持つという意味があります。自分のメリットのためだけに『生飯を読む』のではなく、他者のことを考える心があるというのがポイントです。
魚の「鯖」が由来とする説
魚の鯖は大量に取れる上に、『鯖の生き腐れ』という言葉もあるように、傷みやすい魚です。冷凍・冷蔵設備のない江戸時代は、急いで売らなければなりませんでした。丁寧に数えていると鯖が傷んでしまうので、損にならない程度に、いい加減に数えていました。
このことから、鯖を読むという言葉が生まれたという説があります。
また江戸時代は『魚市場』を『五十集(いさば)』、魚市場で魚を数える『五十集読み』を『いさばよみ』といっていました。魚市場では、魚を傷む前に売りさばかなければなりません。早口で魚市読をし、数を間違えることが多くありました。
この『いさばよみ』が転じて、鯖を読むになったという説もあります。
読めそうで読めない漢字3選
普段よく目にする漢字でも、送り仮名や漢字の組み合わせにより、難読になるものがあります。生飯と同じように、簡単ながらも読めない漢字を紹介します。
生す
『生す』の読み方は、『しょうす・なます・きす』ではなく『なす』もしくは『むす』『おおす』です。
『なす』は子どもを産む、出産するという意味で、『子を生した女性』は子どもを産んだ女性を表します。『生さぬ仲』は生みの親と子ではない仲、要するに血がつながっていない親子の間柄を指すことを、覚えておきましょう。
『むす』と読むとニュアンスが変わり、養う、育てることになります。『君が代』の『苔の生すまで』のフレーズを思い出すと、覚えやすいでしょう。なお『おおす』と読むと草木などを育てる、生えるという意味もあります。
御強
『御強』の読み方は『おつよ・おきょう・ごきょう』ではなく、『おこわ』です。赤飯やもち米に豆や山菜などの具材を入れて、蒸したり炊いたりしたものを指します。
硬めのご飯を意味する『強飯(こわめし)』に、『御』を付けて丁寧にした言葉です。室町時代初期に使われていた、上品な言葉遣いの隠語の一つで、主に宮中に仕える女房が用いていました。
また人をだますとき、特に美人局(つつもたせ)に使う『おこわにかける』という言葉に漢字をあてると、『御強にかける』となります。
原す
『原す』の読み方は『はらす・げんす』ではなく、『ゆるす』です。『許す』と同様に罪をとがめないことを指します。
『原』は原因という言葉にも使われているように、『はじめ』『おおもと』という意味があります。そこから罪を起こした根本に立ち返る、元に戻ると転じました。
また文語文に『原宥(げんゆう)』という言葉があり、こちらも許すという意味を持っています。『宥(なだ)』はとりなすという意味の他に、寛大な取り扱いをする、許すことを表しています。
構成/編集部