IT業界の巨人、グーグルの社内に激震が走っている。同社CEOのサンダー・ピチャイ氏は「コード・レッド(病院内での火災発生を知らせるコード(暗号)、厳戒警報のこと)」を発令、「グーグルのビジネスモデルを揺るがす深刻な事態だ」として、対応を急ぐよう大号令をかけたと報じられている。
IT業界で堂々の勝ち組だったはずのグーグルを今大いに慌てさせているのが、最先端の対話型AI『チャットGPT』だ。
そんな『チャットGPT』に関するマーケットレポートがこのほど、三井住友DSアセットマネジメントにより公開した。詳細は以下の通り。
『チャットGPT』あらわる
『チャットGPT』は、米国のオープンAI社が開発した対話型の人工知能(Artificial Intelligence、AI)だ。オープンAI社はテスラのイーロン・マスクCEOなどが2015年に設立したAI研究所で、最近マイクロソフトが100億ドル(1ドル130円換算で1.3兆円)の追加出資を決め話題になった。
『チャットGPT』はネット上にある多種多様なテキスト・データを学習し、巨大なデータセンターで膨大な計算を行なうことで、人間の質問を理解し、様々な問い合わせに自然な文章で回答することができる。
このため、わたしたちが『チャットGPT』に何か質問をすると、あたかも何でも知っている頭の良い人がチャットで返信してくれるように、会話形式で答えてくれる。
『チャットGPT』で出来る「あんなこと」「こんなこと」
『チャットGPT』は基本的に文章のやり取りであれば、質問に回答するだけでなく、さまざまなリクエストに応えてくれる。
例えば、「バレンタインデーにおすすめのチョコレートは?」という質問に答えてくれるだけでなく、チョコに添えるラブレターも代筆してくれる。
こうした『チャットGPT』の自然な文章・回答を生成する能力には、目を見張るものがある。例えば、学術論文の作成、小説の執筆、歌の作詞、更にはソフトウェアのプログラミングも可能とされている。
このため、期末試験の論文作成に『チャットGPT』を活用する学生が続出し、スタンフォード大学など全米の大学で大きな問題になっていると報じられている。
【今後の展開】検索エンジン以来の衝撃か、欲しい情報にたどり着く
これまで私たちは何か調べたいことがあると、検索エンジンに「キーワード」を入力してウェブサイトを検索し、検索結果から関連がありそうなページを見つけ、それらを必死に読み込むことで、欲しい情報にたどり着いていた。
しかし、『チャットGPT』を利用すれば「話し言葉」で質問を入力するだけで、欲しい情報が自然な会話形式で「あっという間」に返ってくる。
つまり、従来の検索エンジンと比べ、はるかに「手軽で、素早く、簡単に」、欲しい情報にたどり着くことができるのだ。このため近い将来、対話型AIが検索エンジンにとって代わる可能性が指摘されている。
現在、世界の検索エンジンの市場シェアはグーグルが約9割と圧倒的な地位を占めており、検索に連動した広告ビジネスはグーグルにとって大きな収入源となっている。
こうした状況に挑戦すべく、マイクロソフトは『チャットGPT』のテクノロジーを同社の検索エンジンであるビング(Bing)に搭載し、打倒グーグルの狼煙を上げた。
現在マイクロソフトの検索エンジン市場におけるシェアは約8%とされているが、1%のシェア移動で20億ドル(1ドル130円換算で2,600億円)の収入増になるとの試算もある。
危機感を強めるグーグルも対応を急いでいる。2月8日にはパリで同社の対話型AI「バード」を発表し、更に同社の検索エンジンに搭載すると発表した。
しかし、発表会におけるデモで「バード」が誤回答をしてしまったことから失望感が広がり、同日のグーグルの株価は9%以上下落してしまった。
世界を一変させかねない『チャットGPT』だが、改善の余地があるのも事実だ。例えば、①回答に誤りが少なくないだけでなく、その確認がむずかしいこと、②膨大なデータの収集・処理に相応の期間が必要なため、最近の時事ネタに弱いこと、③英語と比べ日本語を始めとする多言語対応で改善の余地が大きいこと、などが挙げられる。
このため、グーグルを始めとする競合他社は、『チャットGPT』の弱点を改善した対話型AIを開発することで、必死の巻き返しを図ってくることが期待される。今後も対話型を始めとする最先端AIの開発競争からは、目の離せない状況が続きそうだ。
※個別銘柄に言及しているが、当該銘柄を推奨するものではない。
出典元:三井住友DSアセットマネジメント
構成/こじへい