少し前に、とあるTwitterの投稿が話題を呼んだ。それはneko800(@nekohachi01)さんによる下記のツイートである。
「近所の丸亀製麺。かきあげ。青い制服の人が作った時だけ異常に美味い事には気付いていたが、今検索したら『激レアの一つ星麺職人で都内に4人しかいない』と出てきて目ん玉飛び出た。いままで連れの中で『かきあげの青いやつ』呼ばわりしててごめんなさい」
このツイートには10.2万いいねが付くなど、大きな反響を呼んだ。「有益な情報をありがとう」「知らなかった!」等のコメントもあり、このツイートによって丸亀製麺の麺職人の存在を知った方も多いようだ。ちなみに、投稿には“一つ星麺職人は都内に4人”とあるが、現在は約30人とのこと。二つ星麺職人は4人とのことだ(2023年1月末時点)。
商品の提供にこだわりを持ち、そのレベルによってランクをつける“職人制度”を行なっている企業はほかにもある。例えばサントリーの「神泡超達人店」や、スターバックスの「ブラックエプロン」などもそのひとつと言える。
今回話題になった丸亀製麺の「麺職人制度」とは具体的にどのようなものだろうか?丸亀製麺広報担当者に話を聞いた。
丸亀製麺の麺職人制度とは?
写真は丸亀製麺神田小川町店勤務の麺職人、柳瀬佳之氏
丸亀製麺は、国内800を超えるすべての店舗で店内製麺を提供している。どの店舗でも高いレベルのうどんを提供可能にするため、技術力の向上と教育システムの一環として取り入れているのが「麺職人制度」だ。
この麺職人制度は、技術力や経験によって「一つ星」から「四つ星」の、4つのレベルに分けられる。現在、丸亀製麺の麺職人は全国に1,133人おり、その中で「二つ星」を持つ職人は4人(2023年1月末時点)。まだ「三つ星」「四つ星」を持つ職人は誕生していない。
麺職人試験の受験資格は?
麺職人になるための試験は、受験自体は全従業員が可能だ。しかし麺に関わる業務に携わり、その中でもいくつかの過程を経てから受験資格を得ることができるという。
「社員はもちろん、パートナースタッフでも合格者はたくさんいます。雇用形態に関わらず、麺づくりに対する技術や知識、そして想いがある方、そしてそれをしっかりと自分で人に伝えられる方なら試験を受けられます」
加えて、最終的にチーフマネージャーからの推薦を貰うことで、受験資格を得られるんだとか。試験への準備は主に、各々が働きながら実践の中で学んでいくという。
「店長、SV、先輩麺職人から基礎となる技術と知識を教わります。そして、学んだことを実際の営業の中で鍛錬するとともに、自ら磨き上げ、経験を積み磨き上げていきます。希望すれば、職人育成課による職人講習という教育制度を受けたりすることもできます」
麺職人試験の内容は?
試験内容は筆記と実技で、1日がかりで行われるんだとか。
「水の一滴まで無駄なく使い切るか、小麦の一粒まで残さず使い切るか、なども審査の対象になります。また、その日の天候、季節による気温の変化、生地の状態によって最適な調整ができているか、などもチェックポイントです」
美味しいうどんを作るための技術や知識が、シビアにチェックされるという。試験はほぼ毎日、全国を回って行われている。
「800を超えるすべてのお店で店内製麺をしているにも関わらず、どの店でも美味しいうどんを味わえるのは、丸亀製麺のおいしさの軸を決め、全国の職人へ技術と想いを伝承している『麺匠』がいるからこそです。麺匠である藤本智美と麺匠から委任された育成メンバーが、うどんの質を維持するために、毎日全国の店舗を回っています」
一回の試験は3名~5名程度が受験するという。少数で行うことによって近距離で試験官が作業を見られるなどの利点があるとのこと。合格率は約3割と、かなり難易度が高い。
技術だけではなく心がけを学ぶ
麺職人の柳瀬佳之氏
一つ星の麺職人であり、丸亀製麺神田小川町店に勤務する柳瀬佳之氏に話を聞いた。柳瀬氏は丸亀製麺で働く前は、他のうどん屋さんで働いていたとのこと。「うどんと言えば丸亀製麺」と考え、麺に関する知識や技術を向上したいと思い入社したという。
現在、勤務年数は6年の柳瀬氏は、丸亀製麺に勤めて3年ほど経ってから麺職人の試験に挑戦したとのこと。麺職人の試験で印象的だったことは何だろうか?
「小麦の一粒や水の一滴まで残さず使い切るかチェックされるのが印象的でした。少しでもこぼしたりすると減点対象になります。一粒、一滴もこぼさず、食材を大切に使い切るという技術や心がけが、麺職人の魂につながるということなんです」
麺職人として、噛んだ時の美味しさや、麺線の美しさにこだわり、美味しさも見た目も兼ね備えた麺づくりを心がけているという柳瀬氏。試験には1発で合格したのだろうか?
「1回目は不合格でした。かなり緊張もしてしまいました。2回目で合格しました」
丸亀製麺に勤務する前はうどん屋で働いていたという柳瀬氏でさえ、1発合格には至らなかったという麺職人試験。麺職人制度の厳しさと本気度が感じられる。
麺職人が作る“かきあげ”もおいしい?
反響のあったツイートでは麺職人が作る「かきあげ」が美味しいと書かれていた。麺だけでなく、揚げ物も麺職人は得意なのだろうか?
「麺職人になる人は、色々なところを突き詰めて腕を磨いている方が多いです。天ぷらも仕込みなどで美味しさが変わります。麺作りだけではなく、どのポジションに対しても情熱を持って取り組んでいるのだと思います」
そのような理由から、麺職人の「かき揚げ」が美味しくても不思議はないとのことだ。丸亀製麺は、将来的には全店に1人は麺職人がいることを目指しているという。毎日行われる麺職人試験により、着々とその数は増えている。最寄りの丸亀製麺で、麺職人に出会える日も遠くなさそうだ。
取材・文/まなたろう