日本全国の大学には珍しい学部・学科が存在する。例えば、京都精華大学のマンガ学部、明海大学の不動産学部、東京未来大学のモチベーション行動科学部など。
そんな中、また新たに珍しい学部が誕生予定。その名も『恐竜学部』だ!
画像 福井県立大学HPより
2022年2月、福井県は福井県立大学恐竜学部(仮称)を2025年4月に開設すると発表。設置される学部の名称・内容などは予定につき、変更される場合があるらしいが、恐竜学や地質・古気候学などを学ぶ全国初の学部になる予定だとか。
このニュースにSNSも騒然。「定年退職したら入学したい」「どストレートな名前で魅力的」など巷の恐竜ファンから期待の声が次々と寄せられた。さらに福井県立大学のツイッターには心躍らせるこんなツイートも。
2022年11月~12月にかけて、タイで「2022年度タイ-日本恐竜化石合同発掘調査」🔨が行われ、本学恐竜学研究所からは柴田准教授🧑🏫が参加しました。恐竜学部(仮称)🦕においても、このような実習活動を積極的に行っていく予定です☺️
🔽詳しくはこちら🦖https://t.co/5lcFMiVHG5#福井県立大学 pic.twitter.com/CQwguaDs24
— 福井県立大学 (@FukuiPref_Univ) January 27, 2023
具体的な授業内容を伺おうと今回、福井県立大学を取材。恐竜学研究所所長の西弘嗣教授、柴田正輝准教授に話を聞いた。
–恐竜学部(仮称)開設の経緯を教えてください
「公立大学は地方の特色を最大限に生かせるような教育・研究が強く求められており、福井県立大学も福井県の持続可能性を支える大学を目指して様々なチャレンジを重ねております」
「そんな中、福井県では30年以上にわたり恐竜化石の発掘・研究を進め、「恐竜王国」として全国的に知られるようになってきました。また、水月湖年縞や東尋坊など自然史に関する地域も点在し、日本列島の形成史においても他の地域にはない特色があります。それらを活かし、蓄積された恐竜研究をさらに発展させれば、日本にはなかった世界的な学術拠点を設置することが実現可能と考えています」
「そこで、恐竜をはじめとする自然史の研究を背景とし持続可能な社会を支える研究・教育の拠点として恐竜学部(仮称)を創設することになりました」
具体的にどのようなことを学べるのか?現時点では大きく2つのコースを考えているという。
①恐竜研究を中心とする「恐竜・古生物コース」
②地質学・古環境学(古海洋学、古気候学)に関する「地質・古環境コース」
恐竜だけでなくアンモナイトや植物化石などを含めた生物の進化を始め、現在の生物の解剖学や生理学の知識、また古生物や過去の環境を学ぶべく地質の知識に関する講義も行う予定。これらを統合して、恐竜の世界を時系列的・空間的に理解できるようにするとのこと。
さらに!
「現在の恐竜研究のような分野では、CTスキャン装置のような非破壊で内部構造を明らかにする手法は欠かせません。そのためデータのデジタル化に関する研究や実習も中心的に行います。発掘現場や露頭のような景観もデジタル化し、AR, VR, MRなど様々な手法で観光産業にも使用できることを目指します」
福井は日本屈指の恐竜王国!一体ナゼ?
福井といえば「恐竜」というイメージは広く知れ渡っていることだろう。多くの観光客が訪れる恐竜博物館もあるほどで日本屈指の恐竜王国なのだが、そもそもなぜ福井で恐竜なのか?
「現在、日本で学名(種名)まで名前のついている化石標本は10体もないんですが、そのうち5体が福井県から産出した個体で、国内最古となる新種の鳥類の化石をあわせると6体になります」
「もともとは1989年から勝山市北谷で恐竜発掘事業が始まり、長期に渡り福井県の援助と研究者の努力によって発掘から研究までを一連のスキームで行っていることが「恐竜王国」の基盤を支えていると思います」
ちなみに福井県立恐竜博物館は、恐竜化石の一大産地である福井県勝山市に建てられた恐竜を中心とする日本最大の地質・古生物学博物館。
4,500㎡の広大な展示室にはアジアの恐竜を中心に44体(増設後は50体)の全身骨格など他の博物館では見ることのできない骨格が多数展示されている。
※恐竜博物館は2023年夏にリニューアルオープンするため現在臨時休館中。下記参照
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/files/uploads/renewal.pdf
大学で恐竜を学んだ後の就職先は?
新たに創設される予定の恐竜学部(仮称)。誰にも負けない知識を携え、卒業後の就職先が一番気になるところだが。
「本学部は理学系の要素があるため、研究者や学芸員などの研究者育成はもちろん、地質学・古環境学の教育にも力を入れるため、地質の調査会社や土木、建設などインフラ整備分野の人材育成に力をいれることを考えています。また、県内の事業者ともインターンシップ等の形で協力して人材育成を行う予定です」
「さらにデジタル技術を必要とする分野の人材育成も視野にあり、デジタル画像の撮影、加工、VRやAR等の技術者の育成も考えています。このような技術を必要とする観光業や旅行業へも人材派遣が可能と思っております」
なるほど。恐竜というロマン溢れるキーワードから、現代に繋がるさまざまな分野での活躍が期待されるということか。ならば、恐竜を勉強することでかつてない未来を切り開いてくれるのかもしれない。その期待も高まる。
「現在、地球温暖化など人類社会の持続性が問題となっていますが、恐竜が生息していた中生代は現在よりもはるかに温暖でCO2濃度は数倍の高い値をもっていたと言われています」
「すなわち恐竜時代は地球が極限に温暖化した時代で、その環境で生物はどのように暮らし環境に対する適応はどうなっていたのか?など未だ解明途中なんです」
「恐竜時代の研究は地球生命の進化にとって必要不可欠で温暖化の未来予測をする上でも重要であり、人類の持続性社会の構築にもヒントを与えてくれると思っています」
教員から入学希望者への熱いメッセージ
2025年から始まる予定の日本初の恐竜講義。恐竜学の賢人達が思う、恐竜の魅力とは?
「現在はもう姿を見ることができない巨大生物という点が最大の魅力です。さらに6600万年以上前という大昔に闊歩していた生物を、現在我々が化石という断片的な証拠から想像する、それが私達を惹きつける要因ではないでしょうか」
「このパズルのような証拠を一つ一つ合わせながら全貌を明らかにする作業。古生物学にはある意味、探偵とよく似た楽しみがあります」
–最後に恐竜学部(仮称)で勉強したい方にメッセージをお願いします
「本学部では恐竜はもちろん、生物進化、地質学、古環境学を含めた様々な学問分野を対象にした多くの教育・研究を行っていこうと思っています。さらに福井県立恐竜博物館とも連携を図る予定で、発掘、骨格の組み立てから展示等も体験することができるようにする予定です」
「2023年度は本学オープンキャンパスや北陸地方を中心に進学イベントにも参加する予定なので是非期待してください」
取材協力/福井県立大学
学部特設HP
文/太田ポーシャ