「寿司テロ」の話題は日本だけでなく、世界をも賑わせている。
ASEANの雄・インドネシアでは大手報道メディアが「日本で頻発する寿司テロ」について報じている。怪しげなまとめサイトではなく、れっきとした大手報道メディアが……である。
大量殺人事件というわけでも、政治スキャンダルというわけでもないこの「寿司テロ」になぜインドネシアのメディアが注目しているのか? 一言で言えば、これは対岸の火事ではないからだ。
インドネシアの報道メディアに「寿司テロ」の話題
回転寿司という形態は、その仕組み上どうしても客の「常識」を信じざるを得ない。
湯呑みは店員が持ってくるのではなく、それぞれの席に予め用意されている。そしてここは回転寿司だから、食品はベルトコンベアに乗って向こうからやってくる。それをイタズラしようと思えば、簡単にできてしまうのが回転寿司の構造的弱点と言うべきか。
岐阜県の「例の彼」が発端の騒動については、今更説明不要だろう。そして「例の彼」について、インドネシアの報道番組Liputan 6の公式サイトが「Viral Video Pengunjung Jilati Piring, Restoran Sushi di Jepang Hentikan Ban Berjalan」という題の報道記事を配信している。これは「利用客が皿を舐める動画が拡散、日本の回転寿司店がベルトコンベアでのサービスを中止する」と訳せば正解か。
この記事の内容も、説明する必要はない。「例の彼」の騒動、そしてその後も醤油のボトルを舐める動画等がSNSで拡散され、スシローの持株会社の株価が大きく下落したこともしっかり書かれている。
インドネシア全国紙Kompasのサイトには「Hati-hati Makan di Restoran Sushi dengan Ban Berjalan」という題の記事が登場した。こちらは「回転寿司店での飲食に注意」と訳せばいいだろう。何と、「例の彼」の挿絵が貼られている。
Kompasは、インドネシアでは報道の最頂点に立つメディアである。運営元のKompas Gramediaグループは同国の出版事業を司る巨大企業で、日本で言えば読売グループと一ツ橋グループを足して2で割ったようなものだ。
これは決して大袈裟な表現ではなく、インドネシアを訪れた人はGramediaという書籍チェーン店を見かけたことがあるはず。全国紙のKompasと本屋のGramediaは、同じグループに属している。
そのような背景を持つメディアが「寿司テロ」を報じたのだから、これはやはり一大事なのだ。
インドネシアでも見かける「お馴染みの看板」
インドネシア、いや、東南アジア諸国において回転寿司店は今や珍しいものではない。むしろ日本でも見かける「お馴染みの看板」は、東南アジアでも頻繁に目撃することができる。
たとえば、吉野家。ジャカルタ、バンドゥン、スラバヤ等の大都市にある高級ショッピングモールに行くと、我々日本人が見慣れたオレンジの看板を見かけることがある。
注目すべきは「高級ショッピングモールの中にある」という点。日本では吉野家は「肉体労働の兄さんが腹を満たしに行く店」というイメージがあるはずだが、インドネシアではそのようなことはまずない。ミドルクラス以上のファミリー客が、買い物ついでに利用する店である。
そもそも、現地における日系飲食店はいずれも「ミドルクラス以上」の人々が行くところだ。
工事現場で働く労働者が通うのは、殆どの場合個人経営の大衆食堂である。そんな彼らもたまの休日に家族でショッピングモールに足を運び、吉野家やCoCo壱番屋で食事するということもあるだろう。しかしそれは「月数回のちょっとした贅沢」であり、少なくとも平日に行くところではない。
回転寿司店も同様である。都市部に住むインドネシア国民にとっての回転寿司店とは、余暇を利用して家族や友達と共に訪れる場所だ。