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上司へのメール誤爆からセクハラ訴訟に発展、ケンカ両成敗になった勝者なき裁判から学ぶこと

2023.02.25

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。

裁判例をザックリ解説します。

部下の女性がメール誤爆しちゃった事件です。上司の悪口を、夫に送信するつもりが・・・上司に送っちゃったんです。天を仰ぐやつですよね。ショーシャンクの空みたいに。

そこから上司とのバトルが始まります。部下は「あなたがしたことはセクハラよ!」と主張し、舞台は法廷へ。上司は「してねー!セクハラを捏造された!名誉毀損だ」と応戦。

以下、くわしく解説します(F社Z事業部(電子メール)事件:東京地裁 H13.12.3)。

登場人物

上司Yはある事業部の部長。部下のXさん(女性)はその事業部に所属。キーパーソンのAは事業部の営業部長です。営業部長AはXさんの味方となって裁判で証言したのですが…。続きは後半で。

どんな事件か

Xさんは上司Yのことをウザがってたようです。こんな出来事がありました。

▼上司YからXさんへの質問メール

ある女性社員の送別会に女性社員●●さんが呼ばれなかったんです。すると上司YはXさんにこんなメールを送信。「●●さんは、なぜ、呼ばれなかったのですか?」

Xさんは「ウッザッ」と感じたようです。オマエに関係ないだろってことです。

▼ 上司からAさんへの誘いメール

上司YはXさんにこんなメールを送信「先日も話しましたが一度時間を割いて戴き、Xさんから見た当事業部の問題点等を教えて戴きたいと思っていますので宜しく。」と飲みの誘いをしました。これ以前にも飲みの誘いをしていたようです。

▼誤爆メール

事件勃発です。

Xさんが以下のメールを作成しました。夫に送るために。

「夫へ 日頃のストレスは上司Yにある。細かい上に女性同士の人間関係にまで口を出す。いかに関わらずして仕事をするかが今後の課題。まったく、単なる飲みの誘いじゃんかねー。胸の痛い嫁」

これをですね。上司Yに送ってしまいました。成仏です。これ、送信ボタンを押した瞬間にAIがジャッジしてほしいですよね「コレ ゴバク ジャナイデスカ?」みたいに。

▼メール監視スタート

メールを受けとった上司Yは、Xさんのメールを読み始めます。監視を続ける中でセクハラで自分を告発する動きを察知しました。

しかし、5日後、Xさんがパスワードを変更したためメールを見られなくなりました。それ以降は会社のIT部に監視を依頼しました。

▼出版社に持ちかける

Xさんは大胆な行動を。セクハラを受けた旨を出版社の担当者に持ちかけたんです。

担当者からは好感触を得ます。「記事としてもとても面白くなりそうです」「SPA!でカンタンに紹介してもらおうと思っておりましたが、これはやっぱりFLASHネタまで昇格させる価値がありますね」という返信をもらいました。

でも記事になることはありませんでした。結果的にXさんは助かったと思います。なぜ?理由は後半で。

法廷闘争へ

舞台は法廷に移ります。

▼ Xさんの主張

■ セクハラされた
・「ホテルをとってあるので来ないか」と言われた
  (氣志團的な誘い方ですね)
・頻繁に飲みに誘われた
・後ろから抱きついてきたなど

■ プライベートのメールを見られた
だから「120万円を払え」と請求

▼ 上司Yの主張

上司Yも黙っちゃいません。反論だけじゃなく損害賠償請求もしました(反訴)

「セクハラを捏造して、出版社の担当者に送信したり、社内の同僚に送信したりしたよな」「名誉毀損だ。300万払え」との請求です。

裁判所の判断

順番にいきます。

▼ セクハラはあったのか?

裁判所は「セクハラはなかった」と認定。ここでキーパーソンの営業部長Aが出てくるんです。

セクハラの証拠はほぼ営業部長Aの目撃証言だけだったんです。裁判所は「営業部長Aの証言は信用できねー」と判断。理由は以下のとおりです。

・Aは上司Yに強い不信感を持っていた
 (上司Yに不利な供述をしている可能性があるってことです)
・事実を誇張したり歪曲している疑いあり
・供述が変わっている
  相手やその場の状況により頻繁に供述を変えている
・法廷における証言も核心部分がすべて誘導尋問によるもの
・供述が曖昧
・供述自体が不自然(判決文 ↓ 証人Dは営業部長Aのこと)

さらに裁判所は「Xさんの主張も信用できない」と判断。

・唐突に上司Yを糾弾し始めた
・誤爆前に「(上司Yの)スキャンダルでも探して何とかしましょうよ。このままじゃ許せん。絶対!」と他の社員にメール。
・セクハラに悩まされていたとは考えにくい
(そこは「セクハラ許せん!」でしょ。探し出す…ってムムと思われたか)

▼上司Yがメールを読んだこと

裁判所は「違法ではない」判断。理由は社会通念上相当な範囲を超えていないというもの。

たしかに上司Yが自分で監視し始めたことは妥当でないが5日後以降はIT部に依頼している、Xさんのプライベート利用は社会通念上相当な限度を超えているなどです。調査する必要性とXさんの不利益とを総合考慮した結果です。

▼ 上司Yの請求

上司Yの請求も「Xさんが事実無根を捏造したとはいえない」「名誉毀損ではない」と判断。

名誉毀損については、実際に雑誌に掲載されていれば名誉毀損の可能性もあるが、担当者レベルで止まっていたことを理由としています。

最終決着は?

ケンカ両成敗!どちらの請求も認められず。判決を聞いたときお互いがショーシャンクの空だったでしょう。正式な法律用語を使うと以下のとおり。

さいごに

■ セクハラの証言は複数名ほしいところです。中立的な人物がベターです。

■ 会社のPCを使ってのプラベメールは基本やめときましょう。必要性と相当性があれば会社は調査できますので。

■ 出版社に持ち込む!SNSに書き込む!などの鼻息フンフン行動は慎重に。

あとは誤爆に注意 w どなたかLINE誤爆を防ぐ方法を知りませんか?酔ってる時とかマジで怖いんです。送った瞬間ショーシャンクじゃないですか。

「LINE誤爆を防ぐ方法」「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストしてくれれば嬉しいです。ではまた次の記事でお会いしましょう!

取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「こんなこと解説してくれや!」があれば、下記URLからポストお願いします。
 https://hayashi-jurist.jp(←プロフィールもコチラ)
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