DIME MAGAZINE
婚約相手から一方的に婚約を破棄された場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
今回は婚約破棄の慰謝料請求について、満たすべき要件や請求できる場合・できない場合の例、金額を左右する事情などをまとめました。
1. 婚約とは
「婚約」とは、男女が結婚の約束をすることをいいます。法律上は「契約」の一種と解されています。
婚約をした男女は、婚姻届を提出して婚姻生活をスタートさせることにつき、相互に法律上の義務を負います。正当な理由なく婚約に基づく義務を果たさなかった場合は、相手が被った損害を賠償しなければなりません。
2. 婚約破棄の慰謝料を請求するための要件
婚約破棄の慰謝料を請求するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
(1)婚約の成立
(2)正当な理由なく婚約が破棄されたこと
(3)婚約破棄によって精神的損害を被ったこと
2-1. 婚約の成立
婚約破棄の慰謝料に当たっては、婚約が成立していたことが前提となります。
法律上、婚約は口頭の合意でも成立します。
しかし、交際している男女が軽い会話の中で「結婚しよう」などと言うことはよくあります。それだけで婚約が成立し、破棄すれば慰謝料の支払義務を負うとするのは不合理でしょう。
そのため、「結婚に向けた真摯な合意があった」と認められて初めて、婚約が成立すると解されています。具体的には、以下のような事情がある場合には、婚約の成立が認められる可能性が高いです。
・婚約指輪の購入
・結納
・互いの親族への挨拶
・多くの友人への婚約報告
・長期間の同棲
・新婚旅行の予約
・結婚式場の下見、予約
など
2-2. 正当な理由がなく婚約が破棄されたこと
婚約破棄に正当な理由がある場合には、破棄する側に慰謝料の支払義務は発生しません。
2-2-1. 正当な理由がない婚約破棄の例
相手に非がないにもかかわらず、一方的な都合によって婚約を破棄する場合は、正当な理由がないと評価されます。
たとえば、以下のような理由による婚約破棄には正当な理由がなく、慰謝料請求の対象となります。
・性格の不一致
・他の人を好きになった
・両親に反対された
・自分が失業して収入がなくなった
・仕事をやめて海外留学することにした
など
2-2-2. 正当な理由がある婚約破棄の例
これに対して、相手の責めに帰すべき事由によってやむを得ず婚約を破棄する場合は、正当な理由があるため慰謝料請求の対象外です。
たとえば、以下のような理由による婚約破棄には正当な理由があり、慰謝料の支払義務は発生しないと考えられます。
・相手が浮気をした
・相手から暴力を振るわれた
・相手からひどい侮辱を受けた
・相手がギャンブルで大金を失った
・相手がアルコール依存症になった
・相手が失業して無収入になった
・婚約前は子どもがほしいと話していたのに、婚約してから相手が子どもを持つことを拒否するようになった
など
また、必ずしも相手に責任があるとはいえないものの、やむを得ない事情によって結婚が困難になった場合にも、婚約破棄の正当な理由が認められる可能性があります。
・相手が重篤な精神疾患を発症した
・相手の長期間にわたる海外転勤が決まった
など
2-3. 婚約破棄によって精神的損害を被ったこと
婚約破棄の慰謝料額は、破棄された側が被った精神的損害の程度に応じて決まります。
婚約破棄に正当な理由がない場合、精神的損害の発生自体は認められるのが通常ですが、問題はその金額です。
おおむね50万円から300万円程度の慰謝料が認められることが多く、以下のような事情によって金額が左右されます。
・婚約破棄の理由の悪質性
・交際期間
・婚約期間
・結婚準備の進行度
・婚約を機に退職したこと
・婚約破棄に伴い人工妊娠中絶をしたこと
など
取材・文／阿部由羅（弁護士）
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ（全国大会優勝経験あり）、囲碁、将棋。
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