高校の数学Iの命題と論理の分野で習う「対偶」。命題が真であることを証明する時に使われる。また、普段の仕事や日常生活においても、物事を整理しながら論理的に考えたい時に役立つ概念だ。
そこで本記事では、対偶の詳しい意味や使い方について例題を用いながらわかりやすく解説する。この機会に基本の考え方を押さえておこう。
対偶とは?
数学の中でもわかるようでわかりにくい「対偶」。具体的にどのような概念なのか、その意味と例題をいくつか紹介していこう。
仮定と結論を「逆」かつ「否定」した命題
まず、対偶とは何かを理解する上で、欠かせない用語「命題」「逆」「裏」の定義について確認しておきたい。命題とは「正しいか正しくないかが明確に決まる事柄」を指す。正しい命題を「真の命題」、正しくない命題は「偽の命題」という。
例えば「p→q(pならばq)」という命題について(これを数学では条件文という)、pという仮定とqの結論に矛盾がなく、正しければこの命題は「真」といえる。
また、命題「p→q」において「qならばp」を「逆」、「pでないならば、qでない」を「裏」と呼び、「対偶」は「qでないならば、pでない」を指す。
例えば、「xが3の倍数」ならば、「x+6は3の倍数である」という命題の対偶は、「x+6が3の倍数でない」ならば「xは3の倍数ではない」となる。
つまり、「ならば」の前後をそれぞれ否定し、さらに逆にしたものが「対偶」だ。
例題を紹介
ここからは、対偶の例題をいくつか紹介していきたい。
【例題1】
「6の倍数」ならば「3の倍数」。この命題が真であるとき、QはPであるための「必要条件」、PはQであるための「十分条件」と呼ぶ。
【例題2】
「x>y」ならば「a>b」。この命題の対偶は、「a≦b」ならばx≦y」だ。
【例題3】
「AかつBの否定」=「AでないまたはBでない」。この命題の対偶は、「AかつB」=「AでないかつBでない」となる。
最後に、少し難しい例題を紹介する。
【例題4】
次の命題の対偶を求めよ。
「任意の実数xについてxの2乗≦0」ならば「x=0」
<解答>
「xは0ではない」「ある実数xについてxの2乗>0」
もとの命題に「任意の」が出てきたら、その対偶には「ある〜」を使う。セットで覚えておこう。
対偶の意義
対偶とは何かを理解できたところで、次に「対偶」を応用した「対偶証明法」について解説する。例題をチェックしながら理解を深めていこう。
対偶証明法
「命題が真であること」と「対偶が真であること」 は、常にイコール(=同値)の関係にある。すべての命題に対してこの事実は成り立つ。
この性質を利用して、仮定から順に直接結論を導くのではなく、間接的に、もとの命題が正しいことを証明する技法を「対偶証明法(対偶法)」と呼ぶ。
「pならばq」という一つの命題の真偽を証明する代わりに、その対偶「qでないならば、pでない」の真偽を証明する方が、命題の真偽を証明しやすいこともある。
対偶証明法の例題
【例題1】
Q:次の命題を証明せよ。
x, yは整数とする。「xとyの積が偶数」ならば「x,yの少なくとも一方は偶数である」
この例題のように、ある命題に「または」もしくは「少なくとも」という説明があった場合は、ベン図を描くとわかりやすい。
この命題が真であることを証明したいが、言葉だけではパッとイメージが湧かず、そのままでは証明しづらいことが多い。そんな時に使えるのが「対偶」の概念だ。
この命題の対偶は「x, yがともに奇数」ならば「積xyは奇数である」。これが真であることを証明すれば、もとの命題も正しいといえる。
<解答>
x,yがともに奇数なので、
x=2m+1, y=2n+1(m,nはある整数)と表すことができる。数式は、以下の通り。
xy=(2m+1)(2n+1)
=4mn+2m+2n+1
=2(2mn+m+n)+1
2mn+m+nは整数なので、積xyは奇数であると示すことができた。よって、対偶が真であることから、もとの命題も真だといえる。
<証明終了>
この問題のように、仮定の部分に2乗や積があると、どうしても証明が複雑になってしまうが、命題の中に「または(少なくとも一方は)」という表現があったときは、「対偶証明法」が使えないか試してみよう。
対偶を使って「pまたはqの否定」を「pでないかつqでない」に置き換えることで、考えやすくなることがある。
仮定と結論を否定するのは手間だが、「対偶証明法」を使うことで手間を省ける問題も多くあるため、基本の例題をマスターして証明に慣れていこう。
文/編集部