日常生活の中で何気なく使われる、「飼い犬に手を噛まれる」という言葉。この表現は、ある場面で飼い犬から手を噛まれてしまう様子に例えた慣用表現だ。本記事では、慣用句として使われる「飼い犬に手を噛まれる」の意味と使い方を解説する。「犬」を使った他の慣用表現も併せてチェックしてほしい。
「飼い犬に手を噛まれる」の意味と使い方
まずは慣用句として使われる「飼い犬に手を噛まれる」の意味と使い方について解説する。この表現を使用するのに相応しくない場面もあるため、しっかり押さえておきたい。
意味
「飼い犬に手を噛まれる」は、日頃から可愛がっていた者に裏切られるという意味を持つ言葉。犬は、飼い主に対して強い忠誠心を持つとされている。「飼い犬に手を噛まれる」は、そのような特性がある犬を、部下や後輩など、自分を慕う人物に例えた慣用表現だ。
使い方
「飼い犬に手を噛まれる」は、自分が面倒を見ている後輩や部下を対象として使う言葉。目上の人や対等な関係性の人に対しては使用しない点に注意したい。以下に挙げる2つの例文から、どのようなシチュエーションで使用される言葉なのかを確認しておこう。
【例文】
・お金を盗んだ犯人は仲の良い後輩だと判明し、飼い犬に手を噛まれた気分だ。
・長年私が面倒を見ていた部下が突然退職した。飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのことだろう。
「飼い犬に手を噛まれる」の類義語と対義語
目に掛けていた人物から裏切られることを意味する「飼い犬に手を噛まれる」。次に、この言葉の類義語と対義語を見ていこう。
類義語
「恩を仇で返す」は「飼い犬に手を噛まれる」の代表的な類義語。受けた恩に報いることなく、害を与えるという意味で、非道徳的な人を表す際に使用される。また、「酒盛って尻切られる」も似た意味を持つ慣用句の一つ。酒を振る舞って乱暴される様子から、好意を尽くした相手に害を加えられるという意味に転じた。
対義語
対義語としては、犬の従順さを表す「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」があてはまる。犬が飼い主になつきやすい様子から、恩を忘れないことを意味する言葉だ。ちなみに「三日」や「三年」などの期間には科学的な根拠があるわけではなく、あくまで短さや長さを強調する表現として使用される。
「犬」を使った慣用表現
飼い主に服従する犬の特性を表した慣用表現「飼い犬に手を噛まれる」。人間にとって身近な存在である犬は、人生の教訓を示すような言葉の中に登場することも多い。ここでは3つの表現を紹介する。
犬も朋輩鷹も朋輩
「犬も朋輩鷹も朋輩(いぬもほうばいたかもほうばい)」は、役目や地位などの身分が違っても、同じ主人に仕えるならば仲間であることに変わりはないことを表す言葉。鎌倉時代に流行したとされる鷹狩りの際に、鷹と犬が異なる目的で使用されていた様から生まれた表現だとされている。
「犬も朋輩鷹も朋輩」は、平等な関係であることを人に伝える際に役立つ表現だ。ただし、立場が上の者が下の者に使うことは問題ないが、目上の人に対して使用すると失礼になるので気を付けたい。
尾を振る犬は叩かれず
「尾を振る犬は叩かれず」は、愛嬌のある人は他者から害を加えられにくいことの例え。尾尻を振って人間に寄ってくる従順な犬を、愛想の良い人に例えた言葉だ。また、ビジネスシーンでは「要領が良い人」という意味でも使用される。
煩悩の犬は追えども去らず
「煩悩の犬は追えども去らず」には、煩悩はいつまでもつきまとうという意味がある。犬が人間につきまとって離れない様子を、人間の煩悩が心から離れない様にあてはめている。ちなみに「煩悩」は仏教用語で、正しい意味は「心身を悩ます一切の悩み」とされている。物欲や食欲がこれにあたる。
「飼い犬に手を噛まれる」の英語表現
「飼い犬に手を噛まれる」が表す意味に近い英語表現としては「Don’t bite the hand that feeds you(直訳:餌を与えてくれる人の手を噛むな)」が挙げられる。この表現は「恩人に害を与えてはいけない」という意味で使われることが多い。
他にも「to be betrayed by a trusted follower(信頼していた後輩に裏切られる)」や「stabbed in the back by the one you love(愛する者に背中を刺される)」も同様の意味になる。いずれにしてもネガティブなシーンで使用する表現であるため、使う機会が訪れないことを願いたい。
文/編集部