■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、auの新料金プラン「スマホミニプラン」について話し合っていきます。
auの新料金プラン「スマホミニプラン」は実質値上げ?
房野氏:2023年2月1日より、auが「ピタットプラン 5G/4G LTE(新規受付終了)」に代わる「スマホミニプラン 5G/4G」の提供を開始しました。上限が月々4GBまでで、各種割引適用前の金額が3465円~6215円とのことですが、どのようにお考えですか?
石野氏:なぜか、スマホミニプランに関する原稿を書くと、読者の評判が良いんですよね……(笑)
法林氏:正直にいうと、「どさくさに紛れてリリースしたな」という感想です。
石川氏:最近良く耳にする〝ステルス値上げ〟ですよね。料金はあまり変わらないけど、使えるデータ通信量が減る。
石野氏:ネガティブな意見だけではなく、一応KDDIの考え方をフォローしておくと、各種割引がない状態で、月々のデータ通信量を2GB未満に収めると、ピタットプランよりも割安になります。ピタットプランでは、データ使用量に応じて緩やかな曲線のように価格が上がるのに対して、スマホミニプランは跳ね上がる。明らかに、データ通信を使う人は使い放題プラン「使い放題 MAX 5G/4G」に移行してねというメッセージです。
法林氏:家族割の値引き額も少なくなっている。ここがひどいなと。実回線に当てはめて考えると、結構な値上げだと思います。
石野氏:僕はサブ回線としてピタットプランを使っていますが、月々のデータ通信量が1GBを超えて、支払い金額を見てショックを受けることがあります。こういう人にスマホミニプランは合いますが、じゃあそんなユーザーがどれくらいいるのかという話。ほとんどの人にとっては値上げなので、ピタットプランを契約している人はそのまま維持したほうが良いし、これからauで新規契約する人は、もう少しお金を出して使い放題プランの契約をするのがおすすめです。
法林氏:auがスマホミニプランに舵を切ったのは、使い放題のプランを主軸とキャリアが考えているから。段階制プランの契約がしたいのなら、ドコモユーザーはエコノミーMVNOに、auならUQ mobileに、ソフトバンクならワイモバイルに移行してほしいという考えだと思います。
石野氏:そうですね。KDDIとしては、UQ mobileの影響力が強まったからこそできる料金プランです。
石川氏:あとはドコモが追随するのかどうかですね。段階制プランのテコ入れは、本来ドコモが最もやりたいはずですが、ドコモがやると世間から相当反発を食らうと思います。
石野氏:ドコモはサブブランドがないので、段階制プランを値上げすると、ユーザーから反感を買いやすいですよね。
法林氏:せっかくahamoで20GBという中容量のユーザー層を取りに行ったのに、という話になるよね。
石野氏:一応ドコモにはエコノミーMVNOがありますが、結局は別会社のサービスです。ドコモが「ギガライト/5G ギガライト」をいじってしまうと、UQ mobileやワイモバイルにユーザーは流れていく可能性があります。
法林氏:ただ、ドコモはそれでもバッサリいきそう。
房野氏:ギガライトの契約者は現在、どれくらいいるんですか?
石川氏:この前、ahamoとギガホのユーザーが1000万人程度といっていた。ドコモのユーザー数を考えれば、ギガライトユーザーのほうがはるかに多いことになります。
石野氏:ギガライトへのテコ入れは、ahamoで獲得したユーザーをまた手放すことに繋がりそうですよね。
法林氏:auだけじゃなく、3キャリアでだけど、使い放題プランがまずあって、その下に段階制の料金プランを用意しているけれど、これをどのくらいの階段にするのか。ソフトバンクは小さな段差で、すぐに上限だったけれど、ドコモとauは普通の階段があったのに、そのはしごを外しちゃった形。
石野氏:階段を切っちゃったんですね(笑)
法林氏:そう。ユーザー数の割合的には、ソフトバンクは意外と使い放題が多いのかな。
石川氏:ソフトバンクは、もともとiPhoneが最初なので、スマートフォンを使い放題で使うというニーズを持ったユーザーが多い。ドコモとしては使い放題プランのユーザーを増やしていかないといけません。
法林氏:スマホミニプランの登場は、キャリアにARPUを上げたいという思惑があるので理解できる。ただ、いくら春商戦前とはいえ、2022年12月末のみんながバタバタしている時期に、こそっとリリースを出して、説明会もしない。ちょっと横暴だなって思いました。
石川氏:俯瞰して見ると、ソフトバンクの小容量プラン「ミニフィットプラン+」は上限が3GBまでなので、まだましといえますけどね。
法林氏:下に合わせる必要はないでしょ。
石野氏:ソフトバンクはさらに露骨で、HPでは「2GB超はこのプランがオススメ!」と使い放題プランに誘導される。キャリアの考え方がわかりやすいといえばわかりやすい(笑)
房野氏:今回、低容量プランが実質値上げになりましたが、使い放題プランの料金は値下げの傾向がありますよね。
石野氏:そうですね。政府からの要望に沿った形です。
石川氏:値下げはしたけど、キャリアの本音としては上げたかった。5G料金として1000円取りたかったし、ドコモは「5G SA」で550円取ろうとしている(現在は終了日未定の無料キャンペーン中)。機会があれば上げようとしているのは見て取れます。
石野氏:5G SAで追加料金はなかなか取れないと思いますけどね。
法林氏:所詮、モードの変更でしかないからね。
DAZNにとっておいしいパック料金プラン
房野氏:料金プランでいえば、「DAZN」の値上げも、各キャリアの料金プランに影響していますね。
法林氏:DAZNの値上げでいうと、ドコモは価格据え置きだけど、auは連動して値上げになった。個人的には、auのやり方が正しいと思っていて、キャリアの料金プランは、今後「○○パック」のようになっていくと思う。
石野氏:エリクソンによると、通信キャリアの役割の1つが「コンテンツアグリゲーター」だと。複数のコンテンツを集めて、パックとして提供するという形ですね。5Gが普及すると、モバイルネットワークでコンテンツを見る人も増えてくる。KDDIはそれを先駆け的にやっていてすごいなと思います。
石川氏:パックにすると、ユーザーとしては、キャリアとの回線契約をやめないし、コンテンツの契約もやめなくなる。DAZNは、各スポーツのシーズンオフで一度契約をやめられてしまう傾向にありますが、パックに入っていればやめずに使い続けてくれるし、パック内の別のコンテンツを見てもらう機会にもなる。
石野氏:シーズンオフがDAZNの弱点と石川さんがおっしゃっていましたが、もう1つの弱点は、やっぱり急に大幅な値上げをすること。DAZN側からすると、ユーザーがパックに入ってくれると、解約しにくくなるのでありがたい。ユーザーはDAZNを解約するためには料金プランを変更しないといけなくて、「別のパックにしようと思ったら、Netflixがこのパックにはない」といったこともある。パック売りは、どんどん値上げするDAZNにとってもおいしいですよね。
法林氏:さすがに、今回のDAZNの値上げには、解約するユーザーも多いと思うけどね。
石野氏:そうですよね。
房野氏:月額が700円も上がったんですよね。
法林氏:そう。例えばサッカーだと、UEFAチャンピオンズリーグは放送されない、プレミアリーグ(イングランドの最高峰リーグ)もないのに月額3700円といわれると厳しい。
石野氏:DAZNは記者会見で、「昨年の値上げでは離脱率がそこまで高くない」と発言している。その言い方はユーザー軽視に思えた。本音はそうでも、言わない方がよかったのでは……と思いましたね。。
……続く!
次回は、CES2023について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦