自家用車でも電車でも自転車でもなく、船で出勤する時代が来るのだろうか?
東京都は近年、船通勤の可能性を追求している。
2016年度から取り組みを進め、2019年には「らくらく舟旅通勤」と題し、平日朝のラッシュ時に日本橋~晴海地区・朝潮運河間で実施。当時は1航路で乗船料は無料。船での通勤実験を大々的に敢行した。
そして2022年には第二弾として隅田川や運河などを活用し航路も6つに増加。さらに、朝だけでなく夕方の帰宅時間帯にも運航したことで、ビジネスパーソンの間で話題となった。
しかし、なぜ今、東京都は「舟旅通勤」に注目したのか?そこには東京都の資源を活用する新たな施策があった。
今回、東京都が仕掛けた新たな通勤手段について、そして船通勤の可能性について、東京都都市整備局交通企画課の担当者に話を聞いた。
近い将来、水上通勤が実現するかも!しかしそこには大きな課題も
ーー「らくらく舟旅通勤」を立ち上げた経緯を教えてください
「東京都には川、海、運河など沢山の資源があります。都としてはこれを活かし、多くの人で賑わう水の都の再生、舟運の活性化が重要であると考えています」
「そこで関係者と連携し新規航路の検討のための社会実験を実施するとともに、通勤への舟運活用の可能性を検証することを目的として実施しました」
ーー2度の舟旅通勤の実施で利用した方の反応は?
「第一回のアンケート結果において、船の利用で許容できる運賃は500円以下が9割、今後の利用意向ありが半数以上でした。また、船着場にあると良いものとして『雨や日除け用屋根』『トイレ・授乳施設』『待合所』など。船に求める設備としては屋根や空調などといったご意見がございました」
「2回目を終えた結果としては、前回と異なり有料で実施いたしましたが、一部には満席で予約を締め切る便もあるなど多くの方にご利用いただきました。結果などについては現在整理を進めており、内容が取りまとまりましたら公表を予定しております」
これまで2度行なわれ話題になった舟旅通勤。SNSを見ると実際に利用したユーザーからは概ね好評の声が寄せられている。
ただ、日常的に活用できる新たな通勤手段というよりは、目新しいイベントの一つとして記念乗船する方や身近な観光、アトラクション的に楽しんでいる声が多かったのも事実。
もともとは、2020年東京五輪・パラリンピックに向け、東京都が水上交通の活性化に力を入れるべく行なわれた社会実験。
2度の実験を経て、浮き彫りになった課題とは?
「船の屋根やバリアフリー化などの設備整備、通勤等の日常的にご利用いただける運賃設定などに課題があると考えています」(担当者)
また、地方では船を使ったこんな事例がある。
東海大学静岡キャンパスでは、JR清水駅前の「江尻のりば」からキャンパス前の「折戸のりば」を往復する学生専用の「通学船」の運航を去年4月に開始。
通学船の運航を通じて学生の利便性の向上、清水港周辺の地域活性化につなげていく考えだそうで、両のりば間を渋滞なく約20分で結ぶ。
利用者数に応じて約80~340人乗りの客船を授業時間に合わせて1日4往復前後運航する計画で、2026年には1日約500人の利用者を想定しているという。
利用した生徒からは「海が好きなので毎日のように海に出られるのが嬉しい」、「乗り心地が良くて安心した」、「アルバイト先へのアクセスもよいので積極的に活用したい」との声も。
もちろん、静岡と東京では環境も体制も違い単純比較などできないが、新たな交通手段、通勤通学の方法が見出せるのであれば、それはユーザーにとっても選択肢が増え、生活向上に一役買うことは間違いない。
大都会・東京を舞台に水上通勤はいかなる未来を迎えるのか?東京都にこれからの展望、目標を聞いた。
「今後は通勤等、日常における交通手段として航路の充実を図るため、実装に向けた支援等を実施するとともに舟運の航路充実に向けた調査等の実施を検討していきます。舟運が身近な観光、交通手段として定着することが目標です」
取材協力
東京都 都市整備局都市基盤部
https://www.metro.tokyo.lg.jp/index.html
文/太田ポーシャ