5G SAの特徴とは? 現時点での恩恵は対応エリアでの高速化
冒頭で5G SAならではの特徴に低遅延やネットワークスライシングを挙げたが、実は現状のスマホでは、こうした仕様の恩恵にはあずかれない。低遅延には、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)のサーバーが必要だし、ネットワークスライシングも実装されていない。ただし、ドコモの5G SAは、Sub-6とミリ波の電波を同時につかんで速度を上げるデュアルコネクティビティに対応している。そのため、通信速度の最大値は、NSAの5Gより高くなる。その速度は、下り最大4.9Gbps、上り最大1.1Gbpsだ。
Sub-6とミリ波を組み合わせることで、最大速度をNSAの5Gより向上させている
とは言え、これはあくまで理論値の話。実際に通信する際には、ほかのユーザーや建物などの周辺環境に影響を受け、速度は低下する。特にミリ波は遮蔽物に対してシビアで、ユーザーがスマホのアンテナを手でふさいでしまうだけでも、速度が大きく低下してしまう。基地局との距離も、データ転送速度などを意味するスループットを左右する要素の1つだ。ドコモでは、下りの推定速度を441〜833Mbps、上りを187Mbps〜385Mbpsとしているが、これにどれだけ近づけるかが今回テストを行った趣旨だ。
筆者の住む東京都は、5G SA対応エリアが1か所しかない。東京駅前付近のみだ。エリアに関しては、昨年から変わっていない。そのため、東京駅まで行き、実際に5G SAをつかんでみた。東京駅丸の内駅舎の前に広がる広場が、そのエリアになっているようだ。ここに行き、端末を確認したところ、アンテナピクトにはしっかり「5G」の文字が表示されている。また、普段から利用している周波数帯を確認するためのアプリ「Net Monitor Pro」の表示にも変化があった。
このアプリに表示される周波数は、基本的にメインでつながっているバンドになる。NSAの5Gは、アンカーバンドと呼ばれる4Gに接続してから5Gの周波数を加えているため、アプリに表示されるのは4Gの周波数帯になる。ドコモの場合、Band 3やBand 1などになるのが一般的だ。これに対し、5G SAでは4Gは使用しない。アプリにも、5Gの周波数帯である「n77」が表示された。これが5G SAをつかんでいる証拠だ。念のため、サムスン電子のスマホに共通で搭載されている「テストモード」も開いてみたが、こちらでも「SA」という記載を確認できた。
デュアルSIMのため2つのパラメーターが表示されているが、下がドコモ。n77と記載されているが、これはおそらく同じ周波数を含むn78だと思われる
では、速度はどうか。測定環境を統一するため、アプリは「Speedtest.net」を使用。測定サーバーは比較的安定している「Rakuten Mobile」に固定した。この状態で、まずは、広場のど真ん中で速度を測ってみたところ、下り587Mbps、上り67.4Mbpsを記録した。確かに、4Gまでに比べると圧倒的なスピードだ。ただ、このぐらいの速度なら、NSAの5Gでも出ることは多い。基地局に近いと、1Gbpsを超えることすらある。最大4.9Gbpsの理論値を誇る5G SAのスループットとしては、少々物足りない。
駅前広場の中央では、下りが587Mbpsを記録。ドコモの出している推定値の範囲に収まった
基地局付近なら速度はさらにアップ、NSAとの差別化には課題も
ただ、東京駅の駅前広場といっても、それなりの広さがある。5Gで使われる周波数は直進性が高く、出力によっては遠くまで飛びづらい。先に挙げたスループットは、場所が悪かった可能性も捨てきれない。そこで、今度は、東京駅丸の内駅舎に近づき、速度を測定してみた。結果は下り421Mbps、上り35.8Mbps。先ほどよりもスループットが低下してしまった。ドコモが挙げていた推定値の下限を下回っているのも、やや気になったところだ。
先に挙げたNet Monitor Proに表示される電界強度も、低下している。ど真ん中より駅舎の近くの方が電波が弱い、ということだ。つまり、基地局は逆側にある可能性が高い。そこで、駅舎を背に、行幸通りに向かって少しだけ進み、再度スピードテストを実施した。こちらは、下り708Mbps、上り38.1Mbpsを記録。今回の実験では、もっともスループットが高くなった。ふと上を見上げてみると、基地局のようなものが見える。おそらくこれが、5G SAに対応しているのだろう。
同じ場所で何度かスピードテストを繰り返したが、おおむね下りは700Mbps前後の速度が出ていた。上りは残念ながら100Mbpsに届かなかったものの、最大で82.5Mbpsまで速度が出た。理論値の1.1Gbpsには遠く及ばず、ドコモの推定値の下限より低い数値ではあるが、モバイル回線は元々上りの速度が遅かったことを踏まえると、これでも実用的な範囲。さすがに4Kの動画などをアップロードするには時間がかかるが、HDの動画を配信したり、撮った写真をまとめてクラウドサービスに上げたりするには十分だ。
一方で、理論値が1.1Gbpsと聞くと、100Mbpsを切る上りの速度はやはり物足りない。おそらく、この場所は5G SAに対応しているだけで、ミリ波のデュアルコネクティビティには非対応だったのではないか。テストモードで帯域幅を確認したところ、100MHz幅になっており、デュアルコネクティビティが作動しているような形跡がなかったため、Sub-6のみの5G SAにつながっていたとみられる。
駅前の広場を全体的にカバーしているという点で使い勝手はよかったものの、現時点では、エリアがあまりにも狭い。先に述べたとおり、東京都内ではわずか1か所。東京駅を頻繁に利用するといった事情がない限り、都内に住んでいても5G SAに接続する機会が訪れることはないだろう。また、正直なところ、NSAの5Gと違いがわかりづらかったのも事実だ。圧倒的な速度差があるわけではないので当然かもしれないが、これだと契約するモチベーションがわかない。MECやネットワークスライシングの導入を待つ必要があるのかもしれないが、これらをどうコンシューマー向けに落とし込めるかは、ドコモの手腕にかかっていると言えそうだ。
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。