8兆ドル規模の食品市場でスタートアップがロボティクス シミュレーションを加速
マサチューセッツ州ベッドフォードに拠点を置くソフトロボティクス社は、Omniverse を基盤とするスケーラブルなロボティクス シミュレーション アプリケーション、および合成データ生成ツール「NVIDIA Isaac Sim」のデータを食品加工の自動化に適用して、安全性の向上と生産量の増加に取り組んでいる。
開発者たちは過去何年にもわたって、規模の大きな産業での応用を目指して、ロボティックグリップを改良しようと努めてきた。そしてとうとう、ロボットが物をつかむことを覚えたという。
ベルトコンベア上を高速で移動する物をしっかりとつかんで移すことができれば、とても大きなビジネスになることは間違いない。
ソフトロボティクスは、NVIDIA Isaac Simを活用して、ロボティックグリップの応用におけるシミュレーションと現実のギャップを埋めようとしてきた。取り組んでいる分野のひとつに、食品のパッケージングを行う際につかんで配置するという動作がある。
ソフトロボティクスのmGripAIシステムは、食品のパッケージングと加工を行う起業に活用されている。このシステムでは、やさしく物をつかむ機能と3Dビジョン、AIを組み合わせて、鶏肉、野菜、果物、パンなどの傷つきやすい食料品をダメージを与えることなくつかむことができる。
ロボティクスを採用している他の業種とは異なり、8兆ドル規模の食品市場においては、さまざまな品目を扱うためロボットの開発が遅れていたと、ソフトロボティクスの担当者は述べている。
現場にNVIDIAのGPUを導入して合成データを活用
物をつかむということにおいて、それぞれの応用分野では個別のデータセットが必要であり、ソフトロボティクスは各応用分野向けに独自のモデルを開発している。
また、湿ってすべりやすい鶏肉などの食料品の山から対象物をつかむことは、工夫が必要なチャレンジだという。
ソフトロボティクスはOmniverseとIsaac Simを活用して、ベルトコンベア上や容器内などのさまざまな背景や証明の中で、鶏肉の3Dレタリングを作成している。
同社はIsaac Replicatorを活用して合成データを開発し、1つのモデルあたり数十万の画像を生成し、クラウドに置かれた複数のインスタンスにそれらの画像を配置している。Isaac Replicatorとは、Isaac Simを使用して合成データを生成するためのツール、API、ワークフローのセットだ。
また、同社は骨格推定モデルを利用して、つかむアイテムの角度をグリッピングシステムが把握できるようにもしている。
ソフトロボティクスは現場にNVIDIA A100 Tensor コア GPUを導入し、食品加工施設におけるそれぞれの応用のための独自モデルを活用して、瞬時に推論を行なっている。また、Isaac Simのシミュレーションとトレーニングでは、NVIDIA A100 GPUにアクセスしてワークロードのスケールアップにも対応している。
オクルージョンとライディングの問題を解決する
ソフトロボティクスにおける大きな課題の1つに、鶏肉が山のように積まれて個々のピースが重なり合い、それぞれのピースを把握しなければいけない場合に、オクルージョン(手前にある物体が背後にある物体を隠している状態)の問題を解決しなくてはいけないことがある。
湿った鶏肉の光沢は検出モデルを混乱させてしまう場合がある。「鍵を握るのはライティングであり、NVIDIA RTXによって動作するレイトレーシングはとても重要です」とソフトロボティクスのビッド・ウェザーマックス氏は説明する。
しかし、山のように積まれたピースの中で最も障害がなく、ロボットがつかみやすいものはどれであるかを一瞬で判別するために、すべてを3Dでモデリングすることは、非常に面白い発想だという。
物理学に基づいて高精度の合成データのセットを構築することによってOmniverseはこのような環境を作成することを可能にする。
製造ラインでのつかむ動作の制度を向上させる
食品加工工場の加工ラインは高速に動いている場合がある。特定の応用モデルを搭載して配置されるロボットは、1分間に100個のピースを扱うことが期待される。
現在も進歩に向けて作業が続けられていることだが、このようなタスクの成功はアイテムの山を正確に表現できるかどうかにかかっている。
これは、アイテムがどのように積み重なって山を形成するかについて、あらゆる可能性を考慮したデータセットをトレーニングすることによってサポートされる。目標は、複雑で動的な環境でロボットが最適なつかみ方を選択できるようにすることだという。
生産性を向上させる
精肉会社は鶏肉の加工を人手に頼っているが、他の多くの業種と同様に従業員不足に直面している。企業によっては、新しい食品加工工場を建設したものの、操業開始の時点で十分な従業員を集めることができない場合もあると、ウェザーマックス氏は述べている。
「人員確保には多くの困難があり、そのためオートメーションに対する期待があります」と彼は言う。
食品加工企業向けのOmniverseを活用した作業により、シミュレーション能力が10倍以上に高まり、AIピッキングシステムの配備に要する時間が数か月から数日に短縮された。
これにより、ソフトロボティクスのユーザーは、鶏肉を扱うラインの自動化にとどまらず、それ以上のことを実現しようとしている。多くの業種、特に怪我のリスクや健康リスクの高い業種では従業員確保に課題を抱えているが、そうした課題がカバーされるようになるという。
「生の鶏肉の処理はロボットに適した仕事です」とウェザーマックス氏は語る。
関連情報:https://blogs.nvidia.com/blog/2023/01/19/isaac-soft-robotics-simulation/
構成/Ara