イギリスの外務省(FCDO)が12月8日、気候・環境問題と教育との関わりについての声明を発表した。この声明では、イギリス政府が今後、気候・環境問題に取り組む中で最優先と考える2つの重要課題、若者の将来と地球の未来について述べられている。
FCDOは若者の将来を大きく決定づける教育、特に女子教育には気候・環境問題と密接な関わりがあるという。声明のポイントを紹介しよう。
気候・環境問題解決への決定要因とは
FCDOは声明の中で、気候・環境問題を解決するにあたって決定的な要因となるのは女子教育であるとしている。これはもちろん、男性への教育をないがしろにするものではない。現代社会において、低所得層から低中所得層の女性たちや障がいを持つ人たちは、世界で最も不利な立場に置かれており、気候や環境危機の影響を最も受けやすいのも彼女たちである。
貧困や児童労働、過疎地、難民キャンプ、紛争地での迫害や脅迫といった状況に置かれ、気候や環境の悪影響を受けやすい人たち。彼女らが充分な教育を受けられる社会では、それ以外のすべての子どもたちへの教育も叶うと考えられている。
屋外や極端な高温の中で授業を受けざるを得ないなど、勉強に適していない環境に置かれたり、気候変動を原因として教育が受けられなくなったりする子どもの数は少なくない。世界的には2億2千万を超える子どもたちが気候変動を理由とする災害により住んでいた土地から退去せざるを得ず、教育に関する緊急のサポートを必要としている。
学校に行くことはできても気温の上昇や干ばつ、または洪水によって学習環境は悪化する。学習環境の悪化は貧困の連鎖や不平等を引き起こし、水や資源といった乏しい資源をめぐる対立へとつながっていくのだ。
これまで、気候・環境問題と教育の問題の関連についてはあまり議論されてこなかった。しかし、両者はお互いに強く結びついており、気候・環境問題の解決のためには女子教育が決定的に重要な役割を果たすという。
女子教育と気候・環境問題の関わり
女子教育が充実することで気候や環境問題にどのような効果があるのだろうか。
貧困層や過疎地、難民キャンプ、紛争地などに置かれた子どもや児童労働する子どもは読み書きや計算といった基本的な教育を受けられないことが多い。反対に基本的な教育を終え、さらに高等教育を受ける子どもが増えると、貧困や若年層での妊娠、病気やケガに対する知識にアクセスできる子どもが増える。
高等教育を受ける子どもが増えると、今度はその子どもたちが教える側にまわり、本人だけでなく家族や地域のコミュニティ、国全体に知識が広がり知識層が増えていくことが期待できる。
知識を得て、適切な情報にアクセスできる子どもたちは、気候や環境へのインパクトを理解し、リスクを予想し、変動する気候・環境へのより良い影響を与える行動を選べるようになる。さらに、いかに問題を解決していくのか考え、問題解決をリードしていく立場になっていく。
現在、劣悪な環境に置かれている子どもたちの政治やビジネス領域、社会活動、グリーンエコノミーへの参加が進めば、国内だけでなく地球全体への好循環が期待できると考えられている。
経済学者の研究では教育が出生率を下げ、人口の増加を抑えることにつながると分析するケースがある。出生率が下がれば、限りある資源の消費が削減できる。しかし一方で、高い教育を受けるほど、消費に加担し結果的に温室効果ガスの排出が高くなる傾向にあることも事実だ。
ただしFCDOは、教育はすべての人に認められる権利であって、消費や温室効果ガスの排出の増加よりも女子教育の優先順位が落ちることはないとする。
女子教育の問題
女子教育の問題にはどのようなものがあるのだろうか。
低所得から低中所得層の女の子たちが小学校を終えたあと、次の学校に行くためには障害が少なくないという。思春期になると暴力を受けたり結婚、妊娠したりといった理由から学校に行くことができなくなるケースが増えるのだ。
学校に行けたとしてもなお、ジェンダーバリアに苦しめられる。例えば働きがいのある人間らしい仕事を得るためには、STEMと略される化学や技術、エンジニアリングや数学といった教育が求められるが、女の子たちがこういった高度な教育を得られる機会は非常に限られる。
これがFCDOが指摘する女子教育の問題である。
現在、気候変動や環境問題により、地球の未来は危機的な状況にある。地球の未来が危機的な状況を免れない限り、若者の将来に与えるインパクトは計り知れないものとなる。
過酷な環境に置かれた子どもたちの教育問題と気候・環境問題についての関わりについてFCDOが出したこの声明が今後、子どもたちの教育環境と気候・環境問題を改善する力となることを期待したい。
文/森野みどり
参考:
The Climate Crisis Disrupts the Education of 40 Million Children Every Year |CISION
Addressing the climate, environment, and biodiversity crises in and through girls’ educatio|Foreign, Commonwealth & Development Office