エルテス「ソーシャルメディア等におけるなりすましアカウント対策パッケージ」
SNSのアカウントになりすまして、悪事を働く者もいる。特に企業アカウントになりすまされると顧客に損害を被ることもある。そのSNSなどのなりすましアカウント対策をデジタル空間上での情報分析や、AIを活用したモニタリング技術を活用して行うのが、リスク検知に特化したビッグデータ解析によるソリューションの提供を行う株式会社エルテスだ。
同社のソリューション本部 リスクモニタリング部部長 國松諒氏に開発背景やサービスの具体的な内容を聞いた。
●開発背景
「これまでも有名人などを装うなりすましアカウントの活動は随所で見られていましたが、近年は特に企業の公式アカウントを装いユーザーをだます事例が多数見られています。特にフィッシング詐欺への誘導などの被害は深刻で、だまされたユーザーはもちろんのこと、なりすまされた企業側も対応の遅れや放置は自社の公式アカウントへの不信感やクレーム、企業イメージの低下の恐れもあるため、相応の対策が求められているのが実情です。
こうした事態を受けて、エルテスはデジタル空間上での情報分析や、AIを活用したモニタリング技術を活用し、企業側のなりすましアカウントに対する備えとなるSNSモニタリングをはじめとするサービスを開発しました」
●なりすまし調査とは?
例えば、企業の公式アカウントのなりすましに対しては以下の対応を主に行うという。
1.なりすましアカウントの調査
「なりすましアカウントは必ずしも一つとは限りません。そのため、公式アカウントの情報やエルテスのリスク検知の知見を用いて、SNS上のなりすましアカウントの有無を調査します。蓄積されたSNSデータに基づくアカウントパターンの予測などから、なりすましアカウントを網羅的に見つけることが可能です」
2.なりすましアカウントのモニタリング
「企業のなりすましアカウントは、そのアカウントの動向次第でリスクや対応の緊急性が変わります。例えば公式アカウントと同じ内容の投稿を繰り返している場合と、プロフィール情報を模倣しているだけで投稿は行っていない場合とでは前者のほうが対応の優先度が上がります。エルテスでは発見したなりすましアカウントの発信内容や動向の監視も実施することがあります。
このなりすましのアカウントのパターン予測などをもとに、定期的なSNSパトロールを行い、新たに作成されたなりすましアカウントを早期検知します。ユーザーが被害に遭いクレームになる前に注意喚起などの先手を打ち、被害の最小化に貢献します。SNSキャンペーンの実施前後など、なりすましアカウントが発生しやすいタイミングで行うと効果的な場合もあります」
この他、同社はSNSなどのオープンな情報から取得・収集されたデータをAIと専門スタッフで24時間365日モニタリングすることを強みの一つとしているそうだ。最近の10年間だけ見ても新たなSNSが台頭し、ビジネスの現場でも活用されていることから、今後のSNSもさらなる変化が予想される。SNSのなりすましも同様にさらなる変化が想定されるため、プラットフォームの変化や勃興する多様なSNSリスクに対応可能な技術を進めていくようだ。
サイバーリンク「FaceMe」なりすまし防止テストで満点獲得
本社を台湾に持つCyberLink Corp.(以下、サイバーリンク)によるAIを用いた顔認証エンジンの「FaceMe」は、歩行中人物の顔を認証する「ウォークスルー認証」を実現していたり、マシンスペックが高いとはいえない市販のタブレットやスマートフォンでも十分実用可能な性能を発揮するなどの特長を持ち、日本でも導入が進んでいる。
そのFaceMeが先日、iBetaという米国認証機関によるなりすましテストにおいて満点を獲得したことを発表した。
このテストはPADテストと呼ばれるもので、なりすまし防止テストの国際的なベンチマークになっているという。
FaceMeはすでに2021年後半に、2D写真やビデオを用いたプレゼンテーション攻撃に重点を置いた同テストのレベル1に準拠している。次なるレベル2のテストでは、3Dプリントマスク、樹脂マスク、ラテックスマスクなどの3Dマスクによる、より高度なプレゼンテーション攻撃が使用されるという。これに対し、FaceMeは100%の精度でなりすまし攻撃を防止した。
これにより、オンラインバンキング、年齢制限のある製品の購入、職場のイントラネットへのログインなど、高いセキュリティが求められる場所に実装できる可能性が増した。
同社のシニアマーケティングマネージャー 今澤浩之氏に、FaceMeがなりすましに対応した背景や具体的な対応、今後の展望を尋ねた。
●FaceMeがなりすましに対応した背景
「非接触で認証できる認証方式として、顔認証は近年、非常に注目を集めています。鍵やカードのような偽造も困難で、パスワードのように忘れるリスクもないというメリットもあります。一方、認証精度が十分でなかったり、写真や動画によるなりすまし防止に対応できていないようなシステムでは、SNSなどインターネット上に公開した写真などから偽造のための顔写真を入手できてしまうなどの問題があり、セキュリティ用途で使用することができません。FaceMeはより安全にセキュリティ用途でご利用いただくために、ISO規格に準拠した高いレベルのなりすまし防止技術を搭載しています」
●FaceMeがなりすまし防止に活躍するシーン
「オンラインバンキングの新規口座開設時の本人確認に、顔認証を利用することで手続きを簡素化できます。スマートフォンについているカメラでも、FaceMeのAIテクノロジーによって『生きている人かどうか』を判断し、写真や動画などによるなりすましを防ぎます。判定がむずかしいと判断した際には『右を向いてください』などの指示を出して判定することができます。
職場のログインでは、パスワード忘れ、流出などを防ぐために、ログイン時に顔認証を使うことができます。写真、動画などによる不正ができないよう、なりすまし防止が活用できます」
●今後の展望
「さまざまな産業、地方自治体でセキュリティ強化のために二要素認証、多要素認証の導入が進んでいます。高いレベルのなりすまし防止技術を持った顔認証システムであれば、IDカード、パスワードのように紛失や盗難の心配のない顔認証を認証要素の一つとして使うことが可能です。また、世界でトップレベルの認証精度と3Dマスクを使った攻撃にも対応できるiBetaのなりすまし防止テスト レベル2を取得したFaceMeによって、より高いレベルのセキュリティが求められるシステムへの導入も進めていきたいと考えています」
あらゆる場所でなりすましは存在し、その種類も手法も増えているが、それに負けず、なりすまし対策ソリューションの技術レベルも高まってきている。今後、さらなる被害防止の高度な技術革新に期待したい。
取材・文/石原亜香利