経済的自由を確立し早期退職する「FIRE」は、2020年以降急激にニュースに取り上げられ、知名度が広がりました。「会社に通勤しなくてもいい」「時間を自由に使える」などとても魅力的なライフスタイルなFIRE生活ですが、最近Twitterでは「FIRE卒業しました」という文言とともに、再就職する人も……。
なぜFIREを卒業せざるを得なくなったのか、この問題について私自身も2022年3月に早期退職した身として考察し解説していきたいと思います。
コロナ以降の急激な回復相場が「FIRE中退者」を作り出した?
「FIRE」という言葉は、2020年のコロナショック以降、投資ブームとともに急激に世間に浸透し始めました。特にコロナ相場では大暴落を経験したものの、株価が急激に回復したことに伴い、コロナショック下で株式投資を始めた人にとってはラッキーな相場と言えたでしょう。
コロナショック以降のS&P500推移(Trading Viewより著者作成)
実際にアメリカの代表的な株価指数であるS&P500の年間リターンは、2020年で+18.4%、2021年で+28.7%となりました。そもそもS&P500と言った株式指数の平均リターンは年率3~7%と言われるため、この二年間がいかに異常な相場だったかがわかります。
このような好調な相場下では、「今後もこのリターンが続く」という楽観的な考えを生み出します。特にコロナ相場で投資デビューした投資家にとっては、「投資を始めて負け知らず」という実績が残りました。結果として、十分な資産額がないにも関わらず「このままの投資収入が続ければ働かなくても生きていける」という楽観志向のもと、早期退職する人を生み出しました。ただ悲劇的だったのは、2020年・2021年の異常な上昇相場の後に迎えた2022年は、最大-25%を超えるような暴落相場だったということでしょう。
これにより、本来的に「経済的自立」を達成せずに早期退職をしてしまったFIRE民は、予想していた投資収入があげられず、FIRE生活を手放さざるを得なくなってしまいました。これが昨今の「FIRE卒業」の実態となりますが、卒業というよりは「中退」、あるいは「退学」という言葉の方がふさわしいのかもしれません。
FIRE中退はどうすれば防げたのか?
では、今回の「FIRE中退」のケースを例に、どのようすればこの事態を避けることはできたのでしょうか。
まず、資産額に対する投資収入を「利回り10%」など高すぎる想定にしていた場合、今回のような下落相場で生活が破綻する可能性があります。このため、できるだけ堅実・保守的な利回り、例えば2~4%で計算しておく方が無難でしょう。
また、FIRE後の投資収入をキャピタルゲイン(株の値上がり益)に依存している場合には、下落相場では資産がマイナスになる可能性もあるので注意が必要です。FIRE後も暴落に不安にならないためには、例え株価の下落時期でも配当金という形で収入を生み出してくれる高配当銘柄への投資をお勧めします。
FIRE後も投資収入だけに依存しない「サイドFIRE」の検討もいいでしょう。サイドFIREは、退職後に「投資収入+個人事業(副業)」で生活するため、もし仮に投資収入が落ちたとしても、いつもより少し個人事業の時間を多くとることで、FIRE中退を免れることができます。特に最近では、「ココナラ」「クラウドワークス」などのクラウドソーシングサイト(副業サイト)なども発達してきて、定職に就かずともお金を稼げるような仕事を簡単に見つけることができます。
FIRE卒業は恥ずかしいことなのか……?
今回紹介したFIRE中退のケースとは別に、経済的不安がなかったとしてもFIREを卒業する人も出てきています。会社員という立場・仕事が、自分の人生において価値があるとFIRE後に再発見するからです。
例えばFIRE生活では、複数人で協働してひとつのプロジェクトを成功させ達成感を味わうといった経験をすることはなかなか難しいです。また、一人でビジネスをするにしても、数億といった予算を動かすことは現実的ではありません。
FIRE後の再就職というのは、必ずしもFIRE中退というようなネガティブなイメージを持たれるべきものではありません。FIREというのはあくまで、人生の限りある時間を何に費やすかが選べる状態に過ぎません。そして、その時間をあえて会社員として過ごす選択をし、会社員としてしか成しえない人生経験をするというのは、素敵な時間の使い方ではないでしょうか?
文/ぽんちよ
投資系YouTuber。2019年10月からYouTubeチャンネル『投資家ぽんちよ』を開設し、投資や副業、セミリタイアに関わることを発信している。サラリーマンとして働きながら活動していたが、2022年3月にFIRE達成。YouTubeチャンネルはこちら