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あなたならどうする?ソフィー・マルソーが親の安楽死に向き合う娘役を演じた傑作映画「すべてうまくいきますように」

2023.02.01

■連載/Londonトレンド通信

監督はベルリン映画祭銀熊賞受賞が記憶に新しいフランソワ・オゾン

フランソワ・オゾン監督『すべてうまくいきますように』(2月3日公開)で、ソフィー・マルソーが父親から安楽死希望を伝えられる娘役で主演している。

思い起こせば、ソフィーがその可愛らしさで世界的アイドルになったのは80年代だ。それから40年、着実にキャリアを重ね、今ではフランスの国民的女優だという。そのソフィーが、オゾン監督と組んだ。

オゾン監督と言えば、聖職者による児童への性的虐待を題材とした『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(2018)のベルリン映画祭銀熊賞受賞が記憶に新しい。

聖職者による性的虐待事件はフランスばかりでなく様々な国で報告されており、過去にはそれを撮ったアレックス・ギブニー監督ドキュメンタリー『最大の過ち: 神のみもとの沈黙』(2012)がエミー賞を受賞している。

イギリスでも安楽死をテーマにしたドキュメンタリー番組が論議を呼ぶ

今回の『すべてうまくいきますように』も、各国で論争を呼ぶ安楽死が題材だ。ここイギリスでも、安楽死をテーマにしたドキュメンタリー番組が騒ぎになったことがある。

『In Choosing to Die』(2011年6月13日BBC2放映)という番組だった。不治の病におかされたイギリス老紳士が、スイスの専門クリニックを訪れ、安楽死の望みをかなえる。放映前から人が死ぬ場面を流すことの是非が問われた。

センセーショナルにあおることも、センチメンタルに流れることもない、優れたドキュメンタリーだった。

作家テリー・プラチェットがプレゼンターを務めたのも良かった。自身もアルツハイマーで、イギリスでも自殺幇助を認めるよう運動しているプラチェットからは、自分のこととして向き合っているのが伝わってきた。

放映後も、ワイドショー的な番組からニュースにまで取り上げられた。

オゾン監督映画の良さは本作でも変わらぬドラマとしての面白さ

『すべてうまくいきますように』でも、脳卒中で思うように動けなくなった父親の安楽死希望をかなえる可能性は、スイスの専門クリニックとなる。やはりフランスでも認められておらず、スイスまで行くことになるようだ。

このスイスのクリニックが、雰囲気から手順まで、前述のBBCドキュメンタリーとよく似ていた。それを参照したか、同じクリニックを取材したか、それともスイスのそういう所はみな似通っているのか、ともかく現実のものと近い。

事実に基づいて描いたことはもちろん評価できるが、オゾン監督映画の良さは、まずドラマとしての面白さだ。『すべてうまくいきますように』も、家族ドラマとして惹きつける。悩みつつも奔走する家族から、安楽死にまつわるあれこれを、ことさら深刻ぶることなく、描き出している。

原作は、エマニュエル・ベルンエイム(1655-2017)の自伝的小説『Everything Went Well(英題)』だ。エマニュエルは、オゾン監督にとって仕事仲間でもあった。監督作『スイミング・プール』(2003)、『ふたりの5つの分かれ路』(2004)では、共同で脚本を書いている、ちなみに、オゾン監督が脚本も手掛けた今回の映画の英題は『Everything Went Fine』となっている。

映画でソフィーが演じるエマニュエルは、父親と同室の入院患者に「お父様はあなたのような娘がいて幸せだ」と言われる良い娘だ。だが、エマニュエルが「良い父親ではなかった」と断じる父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)の方は、なるほど酷い。

回想シーンでは、まだ子どもだったエマニュエルに辛辣な言葉を吐くアンドレが描かれる。仕事では成功して裕福なアンドレだが、妻クロード(シャーロット・ランプリング)は出ていったきり、別居を続けている。

エマニュエルには妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)もいて、今はそれぞれに別の暮らしを営む姉妹の仲は良さそうだ。2人は、倒れたアンドレが収容された病院にも駆けつけるが、アンドレは病室にエマニュエルだけがいる時にその手をとって「終わらせてほしい」と伝える。エマニュエルは、思わず手を振り払ってしまう。

それでもアンドレの希望をかなえようと動くエマニュエルとパスカルだが、フランスを出て、スイスで実行しなければならないほか、日本でいう自殺幇助罪だろうか、エマニュエル、パスカルはじめ周囲は罪に問われることのないよう動かねばならない等々、簡単ではない。

アンドレの決意が、しっかりした判断に基づいた、揺るがないものであることを確かめる必要もある。法律家やら、カウンセラー的な人やらも関わる、時間もお金もかかることなのだ。

彼らそれぞれの願い、思いを、引き継いで考えずにはいられない

それもこれも含めての『すべてうまくいきますように』だとわかるが、そもそも、どうなれば、うまくいったなのか。

子どもだったエマニュエルに対してはシャープすぎて痛ましいほどだったが、そのシャープさは時にユーモアにもつながり、チャーミングなアンドレでもある。傷つけられてきたエマニュエル、パスカル、別れて暮らすクロードでさえ、それぞれに父、夫を愛している。

寝たきりだったアンドレは、以前と同じとはいかないにしろ、徐々に回復していく。予定していた決行日を、孫の演奏発表会を見てからにしたいという理由で、変更したりもする。それは生きる希望の表れなのか。

どうなるのか最後までわからない。彼らが向かう先は、淡々とした調子で描かれる。あえて盛り上げることをさけたようなラストの後、彼らそれぞれの願い、思いを、引き継いで考えずにはいられない。

2/3(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ 他公開
配給:キノフィルムズ
(C)2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION
– SCOPE PICTURES
 

文/山口ゆかり ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。
http://eigauk.com

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