「生魚」の具はむしろ少ない
「中巻き寿司」というのは正式な名称ではなく、オーストラリアではただ「ロール」(「巻き」の意味)と呼ばれる。細巻きと太巻きの中間の3~4センチくらいの太さで、長さは約10センチ。
食べもののたとえでこれを持ち出すのは顰蹙かもしれないが、ちょうどトイレットペーパーの芯くらいのサイズだ。これを通常は一口サイズにカットせず、恵方巻のようにかぶりつく。
そして日本の「正統派寿司」ともう一つ決定的に違うところが、中の「具材」である。生の魚は「サーモン」か、店によってときおり「マグロ」があるくらい(いわゆる「ツナ缶」のツナはある)。
むしろ主流は揚げ物だ。「エビフライ」「エビ天」「トンカツ」「チキンカツ」「かき揚げ」。あとは「玉子焼き」「スモークサーモンとクリームチーズ」、そしてご存じカニカマとアボカドの「カリフォルニアロール」。
味付けとしてはチキンやサーモンの「照り焼き」、そして揚げ物の「スイートチリソース」(生春巻きなどによく使う甘辛いソース)などの変わり種もある。
「サーモンロール」と「エビフライロール」。どちらもキュウリが入っている。「増量」とも言えるが「ヘルシー」かもしれない。
さきほど「回転寿司」のところで紹介したマヨネーズの海に沈む「炙りサーモン」や照り焼きソースに一面を覆いつくされた「サーモンボルケーノ(火山)」ほどではないにしても、正直言って「正統派」には程遠い。だがじつはかなりうまいものも多くて私もときおり食べる。
物価の高いオーストラリアでは1本だいたい3豪ドル50セント(約320円)。ランチ用に3本選ぶとき、私の場合「(生の)サーモンロール」「カリフォルニアロール」、そして「エビ天ロール」か「エビフライロール」というのが基本パターンだ。
「ツナサラダロール」と「スウィートチリチキンカツロール」。後者も先入観なしを取っ払って食べるとそれなりにいける。
これらは「邪道」という考え方もあるが「進化」とも言える。たとえばおにぎりだってかつての定番といえば「梅干し」「焼きたらこ」「明太子」「焼きしゃけ」「昆布の佃煮」「おかか」、そして具なしの「塩おにぎり」くらいだった。
だがおそらくコンビニに置かれるようになってから「ツナマヨ」が登場し、「エビマヨ」や「ネギトロ」、「カルビ」や「唐揚げ」といった様々なバリエーションが楽しまれるようになった。寿司に同じような「進化」が起こっても不思議はない。
しかも「ごはん」に比べて「具」の量が「中巻き寿司」はおにぎりよりも多い。炭水化物の取りすぎに注意したい人たちも多い昨今、何年か後には日本のコンビニのおにぎりコーナーが半分になって、残りをこれらの「中巻き寿司」が占めていてもなんの不思議もない。朝食にもランチにも。小腹が空いたときのおやつにもいいのだから、オフィス街にあれば本当に便利だろう。
「中巻き寿司」をカットして寿司桶に入れたもの。こうすると夕食や立食パーティーにもぴったりだ。