■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、アップルのティム・クック氏ら大手IT企業のCEOが続々来日した真相について話し合っていきます。
日本への貢献を各社CEOがアピール
房野氏:2022年は10月にGoogle/Alphabetのスンダー・ピチャイ氏、11月にMicrosoftのサティア・ナデラ氏、12月にはアップルのティム・クック氏と、アメリカの大手IT企業のCEOが続々来日しました。岸田総理大臣に面会したり、クック氏はソニーの工場に行ったりと報道もされていましたが、各社の狙いは何だったのでしょうか。
2022年11月来日当時の、Microsoft サティア・ナデラCEO
石野氏:CEOの来日が続いたのは、コロナ禍による日本の鎖国状態が緩和されたことが最大の要因ですよね。みんな日本に来たかったんだなって(笑)
房野氏:ティム・クック氏は結構長い間、日本にいましたよね。
石野氏:Twitterにツイートしまくっていた。
房野氏:ナデラ氏、ピチャイ氏は技術職出身で、クック氏だけ違うんですよね。
石野氏:セールスやオペレーション出身ですね。
房野氏:ティム・クック氏がCEOになってから、アップルの戦略は変わりましたか?
法林氏:効率性重視になった。
房野氏:今、一番儲かっている会社に成長していますよね。
法林氏:そうだけどね。
石野氏:昨年末にかけてCEOの来日が集中したのは、コロナ禍明けということと、日本政府に言いたいことが、みんな山ほどあったからでしょう。日本がほぼ鎖国している間に色々、例えばアプリストアのサイドローディング(異なる入手経路からアプリを導入すること)を認めろとか日本政府が言っている中、以前は直接来られなかったので、コロナ禍明けのこのタイミングで、日本に行くか、みたいな感じで来訪しているんだと思います。総理大臣と話をしているように、もちろん投資の話もあります。Googleがデータセンターに投資する話をしていたり、Microsoftもそうですね。そういう話をするためなのが一番大きいのかなと思います。
石川氏:3陣営はGIGAスクール構想でバチバチと競争しているので、教育面でのアピールをしたいっていうこともあるかなと思います。ティム・クックさんが各地を回っていたのが象徴的で、これまでずっと公然の秘密だったけど、アップルがiPhoneにソニーのイメージセンサーを使っていることを、プレスリリースを出して明らかにし、2011年から使ってますとアピールし、ソニーの吉田憲一郎社長がソニーセミコンダクタソリューションズの熊本テクノロジーセンターを案内したという。どれだけすごいことなんだ、みたいな感じで。
クアルコムがイベントでソニーと仲良くしてますよというアピールをしていたので、アップルとしても「うちもソニーと仲が良いですよ」というアピールをしたかったんだろうなと。それと、日本経済に5年間で13兆円規模の投資というか、部品を買ったりもしていますよっていうことも言っている。今、日本政府はアップルに対して風当たりを強くしているので、「こんなに日本へ尽くしているんですけど……」みたいなアピールがあったんじゃないのかなって感じですね。
石野氏:ちょっと納得がいかないのは、岸田総理がティム・クックさんと会って、iPhoneにマイナンバーカード搭載の要請をしたこと。そこ? っていう。
房野氏:アップルは本当にまだ取り組んでいないのでしょうか。
石野氏:やっていると思いますよ。ただ、iPhoneだけスケジュールが未定なんですよね。
石川氏:水面下では動いているはずですよ。ただ、たぶん契約上言えないことがあるので、それをわかった上で、河野太郎デジタル大臣があえて岸田総理に言ってもらったんじゃないかなぁ。あれで、例えば「iPhoneのマイナンバーカード搭載が今年の5月から始まりますよ」となったら、「岸田さんすげー!」っていう評価に繋がるので、なんとなくそこは大衆受けを狙っている感じがしますね。
石野氏:うーん。でもマイナンバーカードがiPhoneに載るから岸田さんすごい! ってなる人はいるのかな……?
石川氏:iPhoneにマイナンバーカードが載って、それでたいしたことができなくても、そこで言ったということに意味がある。あれを岸田総理の手柄と見る人はいるはずですよ。
石野氏:実装された頃にはみんな忘れてそうだけど(笑)
房野氏:マイナンバーカード、Androidには結構早く載る予定ですよね。
石川氏:Androidは2023年5月予定です。たぶん、iPhoneもそれほど変わらないタイミングで載るはず。遅れる理由ってあまりないような気もするので。元々、iPhoneはアメリカでは免許証とかが載っているので、対応はできるはず。あとはデジタル庁がしっかり管理すればいいんじゃないの? っていう話のような気がします。
房野氏:法林さんは、各社のCEOが来日した件について、どう思われますか?
法林氏:ティム・クックさんが来たことについては、商売のためだと思っている(笑)
石野氏:3人ともそうですよね(笑)
法林氏:確かにみんなそうなんだけど、結局、クックさんは買い物に来ている。ソニーについてもそうだけど、ちゃんと部品を確保できるようにするために来ている感じがする。それに対して、Googleのピチャイさんは「投資します、データセンターを作ります、デジタル人材に投資します」って言っている。Microsoftのナデラさんも、基本的には法人向けだったけど、「日本企業のDX化のお手伝いをします、そのためにこれだけ用意します、関係も整えます、SIer(エスアイヤー:システムインテグレーター)の手伝いもしますよ」って言っている。
僕がクックさんの来日がほかの2人と決定的に違うと思うのは、Google、MicrosoftのCEOは、ちゃんとたくさんのメディアの前に立ってしゃべったこと。クックさんは一部の限られた報道の前でしか話さなかった。みんなの前に出てこない、それがダメだと思うところ。企業のトップである以上、やっぱり人の前に出てきて話さなくてはダメですよ。
房野氏:確かに出てきてほしかった気がします。機会があれば喜んで取材に行くんですけどね(笑)
法林氏:質問されて困るからでしょ?
石川氏:でも、総理官邸では記者に応えてましたよね。
石野氏:まぁ、記者クラブ用というか。石川さんはどこへ取材に行ったんですか?
石川氏:行っていないですよ。一切、呼ばれてないです。
石野氏:あれ、そうなんですか? 僕も一切呼ばれませんでしたが。面倒くさいことを聞きそうなヤツは呼ばなかったのかな(笑)