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ロバに泣かされる?動物を愛することについて問われる中国映画の傑作「小さき麦の花」

2023.02.01

動物が好きだけれど、映画に登場するペットには何となく違和感を感じる人に、お勧めしたい映画があります。2月から公開予定の中国映画、リー・ルイジュン監督「小さき麦の花」は、動物好きな方にお勧めの作品です。登場する動物はロバ、ニワトリ、ツバメ、豚といった家畜で、犬や猫のような可愛いペットではないのに、飼い主と動物との間に生まれる愛情や絆を、しっかりと感じさせてくれるでしょう。

特にロバはこの作品のもうひとり(一頭)の主人公とも言える存在で、SNSでは「ロバ最高」「ロバしか見えん」「ロバで泣いたの始めて」という書き込みが寄せられていました。夫婦に寄り添い、最後、感動の涙を誘う大きな存在です。ラストシーンでロバの首に着けた鈴の音が響いた時、多分、あなたは号泣するはず。人と動物の本当の絆とは何かを、しっかり感じさせてくれます。

愛や信頼、絆といった言葉は一言も出てこないのに、夫婦の生活からは、豊かな愛情が確かに伝わってきます。そして、夫婦愛だけでなく、飼育している動物たちへの愛情にも満ちていました。真の動物愛護とは何かを、私達にしっかり教えてくれる作品なのです。「動物を愛するって、こういうことなのか」と。

あまりにも過酷な貧農の生活

「小さき麦の花」は中国で公開されると20~30歳代を中心にヒット作となり、興収20億円を超え、奇跡の作品と呼ばれました。無冠には終わりましたが、ベルリン国際映画祭の星取りでは5点満点中4.7点の高得点となっています。

映画の舞台は中国の貧しい農村で、リー・ルイジュン監督の故郷である甘粛省で撮影されました。主人公はマー・ヨウティエとその妻、ツァオ・クイインです。ヨウティエは農家の四男で、三男の家に居候していますが、厄介払いのために見合い結婚を強いられ、家を出されてしまいます。見合いの相手となったクイインは体が不自由な、こちらも厄介者でした。二人は望まぬ結婚をしますが、少しずつ愛情を育んで行きます。

ヨウティエは真面目で心優しい農夫なのに、農地改革で家を追われたり、兄の息子の婚礼家具を運ぶ、無用な使役を強いられます。また、Rhマイナスの血液型なので、豪農のために血液を提供させられるなど、徹底して搾取されてしまう弱者です。

そんなヨウティエに寄り添うクイインは、「ロバに接する姿から、優しい人だと気づいていた」と言います。そして、不自由な身体で懸命に夫の手助けをします。夫婦の周りにはロバがいて、卵からかえしたニワトリ、豚もいて、どれも愛情深く育てられていました。

二人の家の軒先にはツバメも巣を作っていました。日本でも良く見られる光景で、泥で作った巣から、ヒナがエサをねだっています。ヨウティエは野鳥にも愛情を注ぎます。

しかし、優しい心や相手を思いやる気持ちは、過酷な農村生活の中では、何の役にも立ちません。かえってバカにされ、蔑まれ、虐げられる始末です。強い者だけが正義で、ヨウティエの優しさを理解してくれる人間は妻のクイインだけでした。クイインは採血する看護師に抵抗し、夜遅く帰ってくる夫のためにお湯をもって外で待ち続けます。

すべて土から育って土に返る

二人が農作業の最中に食べるのは小麦粉を練って作った具の無い饅頭と水だけ。貧しい生活なのに、夫婦の生活は動物がいて、満ち足りていました。愛情があっても金は稼げない。でも、愛情があれば、貧しい生活でも満足できる。そんな当たり前のことを、しっかり教えてくれるのです。

そして、大地の豊かさにも気づかされるでしょう。麦は大地に育って豊かに実ります。土はこの映画の重要なモチーフになっていて、ヨウティエは自分の家を作るために土からレンガを作っていました。土があれば人は貧しくとも、最低限、生きていくことができるのです。

土は清らかだ
金持ちにも
貧乏人にも、平等だ
一袋の麦を植えれば
10倍、20倍にして
返してくれる
(ヨウティエのセリフから)

さらに二人を取り巻く動物たちの存在が、際立っていました。人間には理解されなくても、動物たちは二人を愛し、最後まで裏切りません。鈴の音が聞こえた時、あなたも私と同じように涙を流すでしょう。

日本版タイトル「小さき麦の花」は、麦の種を花の様にかたどって押し付け、皮膚に花模様を付ける二人の遊びを表しています。クイインの腕に、この麦の花模様を押し付けたヨウティエ。私は先月亡くなった母に手向けた花が脳裏に蘇ってきて、たまらなかった。私は母の棺をたくさんの豪華なカサブランカで埋め尽くしました。顔が隠れるほどの花々です。でも、ヨウティエの花に込められた想いには、とうていかなわなかったような気がします。

愛と動物との絆を、確かに感じさせてくれるこの映画は、あなたの心に温かい小さな麦の花を咲かせてくれるはず。私にとっては忘れがたい、最高の映画となりました。ぜひあなたにも見て欲しい作品です。

「小さき麦の花」概要
監督:リー・ルイジュン
キャスト:ウー・レンリン、ハイ・チンほか
公開:2月10日よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
公式サイト:https://moviola.jp/muginohana/

文/柿川鮎子

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