こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
宝くじの当選金を、離婚する時にどう分けるか?2億円を巡る夫婦のバトルをお届けします(東京高裁 H29.3.2)
宝くじで2億円を当てた夫。
離婚した夫婦。
妻は財産分与を求め訴訟を提起。
地裁と高裁で分かれた判断。
くわしく解説します。
最終ジャッジ
妻の勝訴といっていいでしょう。地裁で妻は無念だったのですが、高裁で盛り返しました。
高裁はザックリ
・当選金を使って得た財産は、ぜ〜んぶ夫婦の共有財産
・分割割合は、妻4:夫6
・夫は妻に約1742万円を払いなさい
と命じました(家を妻に渡すなどもろもろ清算もした上での金額です)
宝くじ2億円を当てるまでの経緯
この夫婦は平成5年に結婚。夫は看護師として働いており(月収約30万円)、副業として整体業を営んでいました(月約5万円)。結婚時の貯金は約5万円。妻は平成15年ころまでは専業主婦で、その後はヘルパー2級の資格をとりました。
夫は毎月、妻に約32万円の生活費を渡していました。夫は手元に残ったお金を小遣いとしていました(月2〜3万円)。その小遣いを元手にして毎月約2000円を使って宝くじを買っていました。どれだけ買い続けたかは分からないんですが、ジーザス。
2億円があたりました!
私なら気絶しますね。弁護士やめちゃいますね。夫は、結婚後に買った住宅のローン約2000万円を返済しました。当選後も看護師としての給料すべてを妻に渡していました。自分の小遣いは当選金から捻出しました。
平成20年ごろ、夫は仕事を辞めました。トレーダーとして資産運用に専念するためです。妻には毎月30万円+年2回50万円を渡していました。妻にボーナス!めちゃくちゃ羽振りがよくなってます。私も見習わないといけません。
しかし、資産運用がうまくいかなったようで、夫は再就職します。 妻には約30万円を渡していました。(給料から25万円+当選金から5万円)。私も宝くじが当たっても弁護士を続けようと思います。
離婚
その後、離婚します。子供は2人です(長男は大学生、次男は大学進学予定)
離婚した時のお互いの資産評価は以下のとおりです。
妻:100万円
夫:9000万円!
預貯金と保険関係で7200万円
その原資は当選金
不動産の評価額は700万円
まぁコレはどう考えても揉めますよね。妻は財産分与の申し立てをしました。
裁判所の判断
× 地裁の判断
宝くじの当選金について、妻にカラめの判断を。
裁判所はザックリ、
・分割割合は2分の1でいいんだけどさ
・30%だけが夫婦の共有財産だ
当選金またはこれを原資とする資産の〈一部〉
と判断。
結果、
・妻は15%だけゲット
・夫は妻に1000万円を払いなさい
との判決になりました。家を妻に渡すなどの清算も一緒に行われた上での1000万です。
妻は控訴。
○ 高裁の判断
高裁で妻が盛り返しました。
高裁はザックリ、
・分割対象は、ぜ〜んぶの財産ね
・分割割合は、妻40% 夫60%
・結論:夫は妻に約1742万円を払いなさい
と判断しました。
分割割合だけ見れば妻の割合はちょっと下がったんですが、財産全部が対象になったので、結果として妻のもらえる金額が上がりました。
1. 土俵に上がるのは、どの財産?
ザッと基礎知識を。財産分与の対象になる財産は「夫婦の協力によって得た財産」です(民法768条)今回のケースのように「土俵に上がる財産はどれよ?」で揉めることが多いです。
今回の争点は、宝くじの当選金やそれを元手にして得た財産は夫婦の協力によって得た財産といえるのか?です。高裁は「ぜんぶ夫婦の共有財産だ」と判断しました。共有財産と認められた資産は以下のとおりです。
約9132万円
・夫名義の預貯金 約5761万円
・妻名義の預貯金 約124万円
・保険 約1501万円
・不動産 約744万円
・前渡金 約1000万円(妻が夫から渡された分)
共有財産だと判断した理由は
・宝くじの購入資金は夫の収入の一部である小遣いから出された
・住宅ローンの返済に充てられている
・当選金から生活費が出されている
などです。
2. ほんで、なんぼ?
高裁は、分割の割合を【妻40%:夫60%】と判断しました。夫が自分の小遣いで購入を続けていたから、と理由づけしています。ザックリいえば、夫の努力で当てたんだから夫がチョイ増しねってことだと思います。
こういうケースはレアで、基本は折半です(2分の1ルール)。2分の1ルールが修正されるのは、自己資金の一部を支出した、投資の専門知識がある者がその才覚で資産を形成したなどのケースです。修正されるケースはそんなにないですね。
ほかの大穴裁判例
夫が万馬券を当てたケースがあります。今回の宝くじケースと同じように、夫が自分の小遣いで馬券を買っていました。するとジーザス。万馬券!当選金でマンションを購入しました。その後、そのマンションを売却しました。
離婚の時に争われたのは【マンションの売却代金の分割割合】です。裁判所は2分の1ルールを採用しませんでした。「売却代金の3分の1だけ妻に渡しなさい」と命じました(奈良家裁H13.7.24)。理由はザックリ、夫の運・夫の寄与が大きいというものです。裁判所の判断傾向は「当てた人がチョイ増し」だと思います。
さいごに
「私が当てたんだから当選金は私のものだ!」と言いたい気持ちは分かるんですが、かなり難しいです。たとえば、独身時代の預金(夫婦の一方の特有財産)を使って買って、当選金を生活費などにあてず片方専用の口座に温存していた場合はワンチャンあるかもしれません。しかしまぁムズイでしょう。
天から降ってきたもんなので、相応分を相方に渡してサッと別れて新たな人生を歩みましょう!w
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。
では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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