朝昼晩コンビニスイーツの猛者も
以来、彼女との日本への里帰りでは「コンビニスイーツ」が楽しみに一つになった。コロナ禍で約3年ぶりの日本行きになった2022年の年末も堪能した。観光やスキーで日本を訪れるという友人をつかまえては「コンビニでスイーツを買え」と推奨し、実行した人たちからは必ず感謝されるという。
同世代の女性の同僚にも勧めたところ、日本に到着したその夜に大絶賛のメッセージがSNSで送られてきたという。
羽田に着陸したのが夜8時で疲れてもいたのでコンビニでサンドウィッチでも買ってその日の夕食は済まそうと思っていたとき、ふと目に入ったスイーツコーナーでクリスの言葉を思い出したらしい。彼女の絶賛メッセージはこんな言葉で締めくくられていた。
「クリス、あなたは天才よ」
次の日の夜、またその女性からメッセージが届いた。「寿司もラーメンもトライせずに朝昼晩ずっとコンビニスイーツ三昧よ。甘すぎないから罪悪感がないのも最高ね。クリス、やっぱりあなたは天才よ」
それに対してクリスさんの返事がこうだ。「いや、天才はキミのほうだ。朝昼晩というその手は僕も思いつかなかった」
そんなクリスさんは「僕はコンビニスイーツ親善大使ですよ」と笑う。
「日本のコンビニスイーツをオーストラリアの向上で再現してスーパーマーケットやコンビニで売ったら絶対に売れると思います。こちらのスイーツの甘さに辟易している人も一定数いますから。特に凝ったものである必要はありません」
「むしろシュークリームとかエクレアとか、あとパンケーキに生クリームを挟んだものとか、シンプルなものだと初めての人も手を取りやすい。そしてひとくち食べてオーストラリアのスイーツとの違いに驚くはずです。僕は生クリームとあんこの組み合わせが最高に好きなのですが」
シンプルなものこそ日本のコンビニスイーツの実力がわかりやすいという
「和」の味を好む人も
同じくオーストラリアのブリスベン在住のローラさん(20代女性)は高校時代の2017年から2018年にかけて、交換留学生(2ヵ国の高校同士がお互いに留学生を送りあうプログラム)として約半年日本に滞在したときに日本のスウィーツにはまった。まず気に入ったのは抹茶パフェだ。
「アイスクリームの甘さと白玉のまろやかな甘味、そこに抹茶のほのかな苦みが加わっているのがすごく気に入りました」
オーストラリアのスウィーツはたとえばドーナッツの中にジャムをたっぷり入れるとか、アイシングをべったりと塗ったケーキとか「甘さで押し切る」といったタイプのものがほとんど。抹茶の苦みをアクセントに使ったものは衝撃的だったようだ。
パフェと抹茶という和洋の融合に感激したローラさんは日本古来のスイーツ、つまり和菓子にもチャレンジする。
「どら焼きもあんことパンケーキの甘さが最高です!それとぜんざい!小豆の甘味がたまりません!」
じつは豆を甘く味付ける料理は西洋社会にはあまり存在しない。スープやシチューにしたりサラダにしたりするにしてもしょっぱい系の味にするのがほとんどで、小豆を甘く味付けしたあんこに対して違和感どころか拒否感がある白人が多かった。
だが今ではローラさんのように「あんこや小豆が好き」と公言する人も増えてきている。
20年ほど前までは巻き寿司を見て「日本人は黒い紙を食べている!」とビックリしていた人も多かったというが、今やそれはフードコートで最も人気のあるファーストフードの一つになったのにも似ている。
まあ、われわれ日本人もその昔、赤ワインを見て「西洋人は血を飲む」と勘違いしたという話もあるが。
賞味期限の関係からなかなかお土産として「爆買い」されないかもしれないコンビニスイーツ。だがインバウンドのキーワードの一つが「モノ消費からコト消費」。
つまり買い物よりも「体験」だ。「最高の寿司を食べたい」とか「ラーメンの名店を訪ね歩きたい」と同様「本場の日本でコンビニスイーツを満喫したい」を旅の目的とする人たちもこれからますます増えて行くことだろう。
文 柳沢有紀夫
世界約115ヵ国350名の会員を擁する現地在住日本人ライター集団「海外書き人クラブ」の創設者兼お世話係。『値段から世界が見える』(朝日新書)などのお堅い本から、『日本語でどづぞ』(中経の文庫)などのお笑いまで著書多数。オーストラリア在住