「寿司」「ラーメン店」と、次々と海外でブームになる日本食。だが他にも「日本食ネクストブレイク」になりそうな候補は目白押しだ。今回紹介するのは日本の「コンビニスイーツ」などもその一つだ。
「甘すぎない」が日本のスイーツの魅力
「もともと甘いものが苦手だったんです」
そう語るのはオーストラリア第3の都市ブリスベンに住むクリスさん(30代・男性)。
「学生時代の友だちの中にはスーパーマーケットで、12個で5ドル(約450円)くらいのシナモンドーナッツを買ってきて『これでランチもおやつもディナーもオッケー。コスパ最高だろ?』なんてうそぶくヤツもいたんですけど、僕には信じられませんでした」
確かにオーストラリア人は甘いものが好きだ。シナモンドーナッツ以外にも直径10センチほどのチョコチップクッキーなどが同じく12個入りのものがスーパーで売られている。スーパーでも生クリームがたっぷりのホールケーキが600~700円ほどで売られている。
オーストラリアで売られているショートケーキ。一見日本のものと変わらないが、よくよく見るとクリームも生地も大雑把な感じがする
筆者などは「5人家族でも……食べきるかなあ」と躊躇するのだが、カップルはおろか一人で平らげるオーストラリア人も多い。しかもそれらがいずれも日本のものよりもず~~~っと甘い。
オーストラリアのプリン。見た目は日本のものと同じだが甘さは数倍!
クリスさんに転機が訪れたのは5年前、ワーキングホリデーでやってきてオーストラリアに住むようになった日本人女性と出会ってからだ。
「彼女があきれたように言うんです。オーストラリアのスウィーツはなんでも甘すぎる、頭が痛くなるって。もちろん他のオーストラリア人にはピンと来なかったようですが僕も同感だったので意気投合。それで彼女に、オーストラリアにある日本人がパティシェをしているケーキ屋さんに誘われたんです」
甘いものが苦手なクリスさん。最初は迷ったが結局行くことにした。「まあ、ケーキというよりも……彼女といっしょにいることに興味があったんで(笑)」。
デート目当てで行ったその店で彼女に勧められるままにショートケーキとモンブランをわけあって食べたところ、完全にハマった。
「そのとき僕は気づいたんです。ああ、僕は甘いものが嫌いなんじゃない。甘すぎるのものが嫌いだったんだって」
甘さが主張しすぎず、ミルクや栗の味わいが感じられるクリーム以外にも、きめ細かくふわっと繊細な生地にも驚いた。オーストラリアのケーキ生地はもっと雑な感じのものが多い。
「それで彼女とその店に通うようになって。結局その後、結婚することにしました」
日本の甘すぎないケーキがとりもった甘い縁だ。
最高のスイーツが安く近くで手に入る!
その後クリスさんには二度目の衝撃の出会いがあった。
「ハネムーンは彼女のご両親へのご挨拶も兼ねて日本に行きました。僕のひそかな楽しみは〈日本のケーキ〉の本場である日本でケーキを食べること!でも彼女の実家は田園地帯のそばにあるのでケーキ屋さんがない。がっかりしていたら彼女が言うんです。『なんだ、だったらコンビニエンスストアに行こう』って」
日本ではかなりの田舎でもコンビニがある。彼女の実家のそばにも車で10分もかからないところにあった。だがクリスさんには彼女の言葉の意味が理解できなくて、こう反論した。
「いや、僕はアイスクリームを食べたいんじゃない。日本のケーキが食べたいんだよ、本場の日本で!」
クリスさんの悲痛な叫びにも彼女は耳を貸さず、ニヤリと笑うだけだった。とにかく車に乗って、と。
釈然としないながらもクリスさんは助手席に乗った。すぐに景色に目を奪われた。オーストラリアでも米を作っているがクリスさんの家があるブリスベンのそばには水田はない。青々を同じ長さで茂りながら風にそよぐ稲は見たことのない美しさだった。
道が田んぼから外れて商店や住宅が建ち並ぶようになったとき、クリスさんはUターンしてもう一度さきほどの風景を眺めることを提案しようとしたのだが、車はコンビニの駐車場に入っていた。そして彼女についてコンビニのあるコーナーにたどり着いたとき。
「あったんです、本当に!発見したんです!」
彼女が連れて行ってくれたのはスイーツのコーナーだった。
「こんなふうに興奮気味に話されても、コンビニにあのおいしいスイーツが並んでいることが日常的な光景である日本人のみなさんにはわかってもらえないかもしれませんね。でもおいしいスイーツがコンビニで気軽に手に入るっていうのは、僕には衝撃だったんです!」
普通のコンビニやスーパーで繊細な味わいのスイーツが手に入ることがクリスさんには衝撃だった
クリスさんがもう一つ驚いたことがある。
「シュークリームやエクレアみたいなシンプルなものは100円とか150円。ちょっとこだわったケーキでも250円くらい。その安さも衝撃的でした。安いから味が劣っているのかと最初は疑ったのですが……オーストラリアにある日本人パティシェのケーキ屋さんのものとそう大きくは変わらない。無茶苦茶おいしい。そのことにも驚かされました」