政治・経済の分野では、関係の解消や分断を意味する表現が使われることがある。「デカップリング」もその一つだ。ビジネスシーンで目にすることはあっても、日常生活では見聞きする機会は少ない。
本記事では「デカップリング」の語源や意味、使われる分野などについて解説する。ぜひこの機会にチェックしてほしい。
デカップリングの語源・意味
「デカップリング」は「切り離し」や「分離」「非連動」を表す。まずは、この言葉の語源や意味について理解しておこう。
デカップリングの語源
デカップリングの語源は、英語の「decoupling」。「連結する」「2つのものを1つにしてつなぐ」という意味を持つ「couple」に「-ing」を付けた動名詞がこの言葉の語幹だ。これに接頭詞「de-」を付けて、「分離」「否定」といった打ち消しの意味合いを持たせている。そのため、「decoupling」は「カップリングの解消」と訳すこともできる。
さまざまなシーンで使用されるデカップリング
デカップリングは、親密・密接な関係の解消を意味することから、特に政治・経済分野において使用される場合が多い。ただし、デカップリングが何と何を切り離す意味で使われるのかは、使用シーンや文脈に応じて変化する。
政治・経済分野以外に、環境・エネルギーや製造業、農業の分野などでもさまざまな「関係の分離」を表す言葉として使用される。また電子分野においても、「核磁気共鳴デカップリング」のように分離を意味する言葉として使われることがある。
環境・経済におけるデカップリングとは
さまざまなシーンで用いられる「デカップリング」。ここでは一例として、環境と経済それぞれのシーンにおける使い方を紹介する。
環境分野におけるデカップリング
環境分野で用いられるデカップリングは、経済成長とエネルギー消費量の比例関係を切り離すことを意味する。従来、経済が成長するにつれてエネルギー消費も上がるのが常識とされてきた。一方、デカップリングは一定の経済成長を維持しながらもエネルギー消費は減少させるという考え方だ。
資源のリサイクルや再生可能エネルギーの導入などの省エネ活動によって、デカップリングは実現可能であり、現在も先進国を中心にさまざまな取り組みが行われている。例えばドイツでは、過去20年の間、高い経済成長を維持しながら一次エネルギー消費や温室効果ガスの減少を実現。日本においても、デカップリングを推進する動きが見られる。
経済分野におけるデカップリング
経済分野でのデカップリングは、2国間の経済や市場が連動していないことを表す言葉として用いられる。中でも、米国経済と世界経済の分離を意味する場合が多い。例えば、米国の経済状況が悪化しても中国経済には影響せず、世界的には経済成長が続くといった考え方だ。
転じて、低成長の先進国経済と高成長の新興国経済との比較を意味することもある。一方、近年発生した世界同時不況や米中貿易問題などによって、デカップリングに懐疑的な考えも出てきている。
デカップリングポイントとは?
「デカップリング」は、「デカップリングポイント」という言葉として使われることもある。最後に、デカップリングポイントについて解説する。
製造業で使われる用語
「デカップリングポイント」は、製造業で使用される用語の一つ。「デカップリングのポイント」、つまり「分解点」のことで、製造業における「見込み生産と受注生産の切り替え分岐点」を意味する。
ここで言う「見込み生産」とは、注文がなくても見込みで生産を始めることで、「受注生産」とは、注文が来てから生産を始めることを指す。
生産工程を切り替えるデカップリングポイントの設定で、どのような状態で在庫を持つかをコントロールすることが可能となる。また、製品の在庫量と顧客への納品時間のバランスも変化する。
在庫の持ち方はさまざま
完成品を在庫しておいたり、部品や未完成品を在庫しておいたり、あるいはまったく持たないというように、在庫の持ち方はさまざまだ。
例えば、PC製造・販売で有名なDell(デル)では、「BTO(build to order)」方式を採用している。BTOとは、見込みで中間製品や部品を在庫しておき、注文が確定してから加工・組立を行う「受注加工組立」のことを指す。この場合、完成品を在庫していないため、売れ残るリスクは見込み生産に比べて小さくなるという利点がある。
企業によって方法は異なるが、生産物流管理にはデカップリングの適切な設定が必須と言えるだろう。
※データは2023年1月下旬時点のもの。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部