新型コロナウイルス感染拡大で挙式を延期していたカップルが、2022年から実施へと動き始めました。矢野経済研究所の調査によると、2022年のブライダル関連の市場規模は1兆6,400億円。2020年からおよそ3割増加しています。
ブライダル企業大手の中でもとびきり好調なのが、ゲストハウスウエディングの最大手テイクアンドギヴ・ニーズ。
施行組数はコロナ前を回復せず
テイクアンドギヴ・ニーズは、2022年11月11日に通期業績の上方修正を発表。2023年3月期通期の営業利益を予想比10.0%増の33億円に引き上げました。この上方修正のポイントは、売上高は従来予想を据え置いていることです。
婚礼需要が回復したとはいえ、同社の組数はコロナ前の水準までは戻していません。2023年3月期上半期の施行組数は5,519組。2019年3月期上半期は6,207組でした。未だ1割以上の差がついています。今回の上方修正において、従来予想を大幅に上回るほどの組数の増加があったとは考えられません。
違いが生じているのが婚礼単価。今期上半期の1組当たりの婚礼単価は370万円でした。コロナ前は347万円。6.6%増加しています。テイクアンドギヴ・ニーズは予想していたよりも、婚礼単価が上がっており、利益率を高めていると考えられます。
これこそが、テイクアンドギヴ・ニーズという会社の底力そのもの。実は婚礼単価は全国的に下がっています。『ゼクシィ』を発行するリクルートの結婚トレンド調査によると、2022年の全国の婚礼単価は304万円。2019年は355万円でした。14.4%も縮小しているのです。
時代に逆行するT&Gの華麗な戦略
面白いのは、テイクアンドギヴ・ニーズがゲストの参加人数を増やして婚礼単価を引き上げている点。下の表は同社の2023年3月期上半期と2019年3月期同期間の組数、組単価、ゲストの人数、1人当たりの単価をまとめたものです。
※決算説明資料より
ゲストの人数は48.4人から55.8人へと15.3%増加しています。一方、ゲスト1人当たりの単価は7万2,000円から6万6,000円へと7.5%減少しています。
新型コロナウイルス感染拡大で、人が集まることに忌避感を感じる人が増えました。しかし、テイクアンドギヴ・ニーズはコロナ前よりも、ゲスト人数を増やすことに成功しているのです。
これは時代に逆行するもの。ゲスト人数の全国平均は2019年の66.3人から43.2人まで34.8%も減少しているのです。その一方で、ゲスト1人当たりの単価は急激に上がりました。2022年は9万8,000円、2019年は6万8,000円でした。44.1%増加しています。
つまり、全国の結婚式場ではゲスト人数を少なくし、単価そのものを上げようとしています。例えば、料理を豪華なものにして単価を維持、あるいは上げようとしているのです。
しかし、テイクアンドギヴ・ニーズはゲスト人数そのものを増やして、婚礼単価を引き上げているのです。
これができる要因は2つあると考えられます。1つはプライベート型の結婚式場のため、他の婚礼客を気にせずゲストを呼べるハードの特性。もう1つはテイクアンドギヴ・ニーズの評価制度によるものです。
顧客視点に立ってクレームの発生率を引き下げる仕組みとは
テイクアンドギヴ・ニーズのウエディングプランナーは、半期に一度上長との面談があり、目標数字に対する進捗を確認する評価制度を設けています。顧客中心主義を掲げているため、クレームに対する評価は特に厳しいことで有名。一番のマイナス要因となります。
一般的に料理やドレス、装花の単価を引き上げると、カップルの期待値も上がるため、クレームに繋がりやすくなります。目に見えづらいクオリティが対価になるためです。
しかし、招待客は目に見えるため、人数が増えて婚礼単価が上がることには納得感があります。しかも、ご祝儀そのものが増えることにもなるため、場合によってはカップルの負担が軽減されます。
テイクアンドギヴ・ニーズの時代に逆行する巧みな戦略が奏功しました。
顧客視点の評価制度を確立し、ウエディングプランナーのモチベーションを高め続けるという難しい組織マネジメントの重要性をテイクアンドギヴ・ニーズの成功が物語っています。
取材・文/不破 聡