「AR名刺」は数年前からあるが、実際に活用している人はまだまだ少ない。実は非常に有効なビジネスツールとしての可能性を秘めているのだ。最近では自分の3DアバターをAR名刺に登場させることもできるようになっている。今回はビジネスで成果の出るAR名刺のアイデアや事例を紹介する。
AR名刺のアドバンテージとは? 名刺の専門家が激推し!
AR名刺のARとは、Augmented Realityつまり拡張現実のこと。名刺にARを紐づけておくことで、もらった相手はデジタルコンテンツにアクセスすることができる。
名刺に印刷されたARマーカーに対し、スマホやタブレットのカメラをかざすことで、画面上に特殊効果を示したり、立体的なデジタルコンテンツや動画などを見せなたりすることができる。
名刺の専門家である福田剛大氏は、AR名刺を推している人の一人だ。どんな利点があるのだろうか?
「AR名刺のいい点は、ズバリ名刺交換のインパクトがある点です。渡した相手に強い印象を与えるために忘れられない名刺交換を演出することができます。忘れられない名刺ほど最強の名刺はありません。
その結果として
・相手の印象に残る。
・相手に伝わる情報量が増える。
・ブランディングや自己PRができる。
・その場で会話や質問が生まれる。
・同僚や友人へ口コミが起こる。
といった、プラスの効果が期待できます。実際にAR名刺を相手に見せると『おもしろい!』と笑顔になってくれる方がほとんどです。AR名刺は名刺交換そのものを明るい場に変えてくれるツールでもあります。相手に好意を持っていただいての商談は、成功に近づくのは想像に難くないでしょう」
このご時世にもAR名刺は有効だという。
「コロナ禍により名刺交換の機会が減っている現在、人に直接会うことが気を遣うものになっています。こんな状況において、名刺交換で求められる大事なポイントは『インパクト』の演出です。これまでのような、名刺交換から会話を引き出してコミュニケーションを図ることは見直さないといけません。余計なことをベラベラしゃべっている人は、思慮が足りない人として信用をなくすでしょう。とは言ってもこれができないから苦労しているという声が聞こえてきますので、その打開策として『AR名刺』があると考えています」
また、福田氏はAR名刺では「動画再生」が大きな強みとなると言う。
「AR名刺は、その場で動画を再生できる点が通常の名刺に比べて最大のアドバンテージになります。
・自分の人柄やプライベートをアピールできる
・話下手や緊張しやすいの方でも動画を見せるだけなので、アドリブ力を問われにくい
・バックヤードや工場などでの作業工程を見せることができる
・会社案内として利用できる
・転職の際に面接でアピールできる
など、目的によって表示する動画を変えることで無限の表現ができます」
営業パーソンにおすすめのAR名刺とは?
AR名刺と一口に言っても表現の自由度が高い。例えば営業職の場合は、どんなAR名刺の表現方法のアイデアがあるだろうか。福田氏は次のように述べる
「営業パーソンの場合、自分のアピールの比重よりも、相手が喜ぶ視点でARを使うことが大事だと思います。例えば、ニュースレターやメルマガの内容を定期的にARで配信したり、月替わりでミニセミナーを行ったりと、名刺を使い倒してもらうようにすることで、信頼を強めることができます。
実際に、私もミニセミナーの動画を再生できるようにすることで、インパクトだけではない価値ある名刺だと相手に思っていただけました」
AR名刺はブランディング・PRと相性抜群
AR名刺は、ブランディングやPRとの相性がいい名刺だという。
「最近では観光誘致の一環や、ゆるキャラのアピールなどに活用されています。特に、佐賀市プロモーション大使が配る名刺にARを実装した事例は注目しています。アンケートに、AR動画で出てくるキーワードを入れて応募すると、もれなく佐賀の逸品をプレゼントという特典付き企画に活用されています。名刺自体も、広げるとハガキになって応募できるようになっています。この事例のように、相手にアクションを起こさせるアンケートといった手法を取り入れることで、名刺以外の情報を提供することができたり、ファンになってもらえたり、名刺交換後も印象付けたりすることもできます」
AR名刺は、業種や職種によってさまざまな使い方がある。そのコンテンツの可能性は無限大。ぜひ取り入れてみよう。
自分の分身3DアバターがAR名刺に!
AR名刺はさらに進化を遂げている。
XRコンテンツ開発企業のダフトクラフトが、先日AR名刺サービス「A-Meisi(エーメイシ)」の提供を開始した。
特徴的なのは、自身を360度カメラで撮影することで生成される、リアルな自分の3DアバターをARコンテンツに使える点だ。全身を使った自己表現をすることができる。また、自分の3Dアバター以外にも3Dデータを持ち込みすることもできるため、自社ブランドのマスコットキャラクターなどをARコンテンツとして出現させることもできる。
現在、法人向けにサービスを提供している。AR名刺を作るには、まず提携のスタジオにて360度から全身を撮影し、3Dモデルを作成する。後日、その3Dモデルを組み込んだ名刺体験用Webページが提供されるので、好きなようにプロフィールを登録していく。季節の挨拶や期間限定の告知、ミニゲームクリア時の遷移先リンクの設定などの設定が可能だ。
3Dアバターは、閲覧者が操作して動かすこともできるという。同社の広報担当者は次のように解説する。
「AR名刺をスマートフォンのカメラで読み込むとWebページが立ち上がり、画面中央に3Dアバター、画面右下にジャンプボタン、画面左下にジョイスティックが表示されます。ジョイスティックをタップしたままドラッグすることでドラッグした方向にアバターを移動させることができます。例えば3Dアバターを走らせて画面内のチェックポイントにタッチすると、会社の公式ホームページやデジタル名刺データなどのページに遷移させることができます」
●開発背景
A-Meisi開発は、同社メンバーの名刺をAR化したことがきっかけだったという。広報担当者は次のように述べる。
「弊社では『XR開発でオモロいことをやっている会社だと知ってもらいたい』という思いで、2021年度から社員の名刺をAR名刺化しました。社員数名で3Dアバター撮影を行っているスタジオへ出向き、メンバーそれぞれのリアルアバターを作成したのち、弊社エンジニアがシステムを構築。ARシーンで大きなインパクトを与える演出がしたいと考え、紙面に印刷する情報は、会社ロゴ・肩書き・氏名・メールアドレス・QRコードのみの最小限かつシンプルな構成にしました」
●AR名刺としての進化
3Dコンテンツを活用することで、従来と比べ、AR名刺はどのように進化したと言えるだろうか?
「3Dアバターや3Dオブジェクトを名刺に組み込むと、商材プレゼンテーションの表現の幅が大きく広がります。
2Dの写真や映像などが表示されるAR名刺は従来からありましたが、2Dの視覚情報は結局紙面に印刷されたものを見るのと変わりがありません。その点、3Dのデータであれば360度全方位から商材をプレゼンテーションすることができ、これまでは難しかった立体物を臨場感たっぷりに、リアルに見せることが可能です。
例えば、実業家・芸能人・キャラクターなど、『顔』を広めることが大きなポイントになるお客様は最適です。また、重機や建設物など大きな商材をお持ちのお客様は、商材の3Dモデルを登録していただければ、モーションと共にAR名刺として仕上げることが可能です。小さなカードサイズに、より一層多くの情報を詰め込んで持ち運ぶことができるようになります」
AR名刺のコンテンツや見せ方は、時代の変化、IT技術の革新により、さらに今後も進化していくと考えられる。ぜひ一度オリジナルのAR名刺を作ってみよう。
【取材協力】
福田剛大氏
仕事が取れる名刺の専門家/日本名刺協会理事
対人恐怖症に悩まされるも、3000人との名刺交換をきっかけに、渡すだけで仕事が取れる「絶対受注名刺メソッド」を確立。「池上彰のニュースそうだったのか」「マツコの知らない世界」など、名刺のスペシャリストとしてマスコミ出演・取材多数。
取材・文/石原亜香利