こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
女性社員が役員2名をセクハラで訴えました。
「肩に手を回してきました…」
「キモイくじ引きを実施されたんですけど…」
~ 結果 ~
セクハラ認定されました!
慰謝料が合計で10万円(東京地裁 R2.3.3)
ホンマにキモイくじ引きでした。おえ~。
以下、くわしく解説します。
どんな事件か
Xさんは、20代後半の女性です。おもな仕事は、経理業や来客対応、スケジュール管理などのアシスタント業務でした。
Xさんは、2つのセクハラを主張しました。
1.役員Yが肩に手を回してきた…
役員Yは専務執行役員です(50代男性)
事件の顛末は以下のとおり。
Xさんは会社の飲み会に参加しました(人事異動の歓送迎会)。その後の二次会にも参加しました。二次会が終了したのは午後10時すぎ。
その帰り道での出来事。
Xさんと役員Yは、電車で帰る方向が同じだったんです。
Xさんの主張は
「駅のホームで私の肩に手を回してきました。何度も振り払ったんですが…」
「電車の中でも何度も手を握ろうとしてきました」
というもの。
2つ目の事件は別の日に起きました。
2.役員Zに【くじ引き】をさせられた
役員Zは専務取締役です(50代男性)。
ある日、カラオケ店で懇親会が開催されました。女性社員らが駆り出されました…。監査役Gを接待する会だったようです。その懇親会の参加者は、 役員Z、担当秘書H(女性)、監査役G(男性)、Xさんを含め女性社員ら3名です。
役員Zは監査役Gを上機嫌にさせたかったのでしょう、悪ノリが炸裂します。
女性にとって吐き気のするくじ引きを、おっぱじめました。
10枚のくじには、以下の内容が書かれていました
(↓ CIOとは役員Zのことです〈最高投資責任者〉)
「当たり!ワインディナー with 監査役(交換不可)」 2枚
「ハズレ!罰ゲーム 監査役に手作りプレゼント」 2枚
「Tの大博覧会 with CIO(交換可能)」 1枚
「映画 with CIO(交換可能)」 2枚
「U展 with CIO(交換可能)」 1枚
「Vハウス with CIO(交換可能)」 2枚
女性からすれば「すべてハズレよ!キショ!」という嗚咽おみくじです…。
役員Zは、その10枚を封筒に入れ、Xさんら従業員に2枚~3枚引かせました。女性の絶望的表情が目に浮かびますよね。
「これはセクハラですよね」とXさんが訴えました。
裁判所の判断
Xさんの勝訴です!
裁判所は「どっちもセクハラです」と認定。
それぞれ5万円で、合計10万円の慰謝料を認めました。
以下、くわしく解説します。
1.役員Yが肩に手を回してきた…
裁判で、役員Yは「そんなことしてないです」と反論しました。
しかし裁判所は「いや、やってるね」と認定。
なぜ裁判所は【肩に手を回したこと】を認定したのか?
★ LINEが強力な証拠になったんです
Xさんは、役員Yと別れた後、飲み会に参加した同僚女性Kと↓ こんなLINEをしてたんです
(Kさんもセクハラされてたようですね)
このLINEがデカかったですね。LINEを見た裁判官は「このLINEは信用できる」と判断。
そして「Xさんの人格権を侵害する」と認定しました。
残念なのが、Xさんは「電車の中でも何度も手を握ろうとしてきました」と主張したんですが・・・無念です。認定されず。
手を握られたこともLINEで送っていればセクハラ認定されたかもしれません。
★ 教訓
セクハラをされた場合は、ソッコーで誰かにLINEしておきましょう。されたことを全て。
お次は、
2. 役員Zに【くじ引き】をさせられた
裁判で、役員Zはザックリこんな反論をしました。
「Tの大博覧会 with CIOの〈with〉とは〈お金を出す人〉という意味です!」
・・・どの英和辞典にそんな和訳が?w
もちろん裁判所は、粉砕しました ↓
ですよね。ブルゾンちえみ with Bもそうですもんね。
さて、役員Zは「くじ引きの目的は皆様を慰労する贈り物をすることにあった」とも主張したんですが、撃沈してます。こんなキモいギフトいらんっつーの。相手が欲しいものをあげろって感じですよね。
このくじ引きについて裁判所は「監査役の接待などを主たる目的として、Xさんの意思にかかわらず業務と無関係の行事に被告Cや監査役と一緒に行くことを実質的に強制するものでXさんの人格権を侵害した」と認定しました。
あとオモロかったのが、役員Zは「皆様に歌をプレゼントする」といって歌いました。ジャイアンのホゲ~♪レベルにキツイですね。相当キモイんですが裁判所は「Xさんが不快感を抱いたとしても人格権を侵害する行為ではない」とセクハラと認めませんでした。
さいごに
裁判は証拠が命です。セクハラをされたら誰かにLINEしておく、これを実践してみて下さい。今回のように裁判所が証拠採用するかは未知ですが、ダメもとで実践しておきましょう。もし証拠採用されなかったとしても失うものはありません。
今回は以上です。
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では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。
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