副業や、独立して事業を始める場合に、気になるのが確定申告の方法です。ある程度収入を得ている場合、節税につながるといわれている青色申告を視野に入れておきたいところです。青色申告のメリットや申告に必要な作業、具体的なやり方を紹介します。
目次
青色申告とは?
青色申告とは何を指すのか、よく分からない人も多いでしょう。まずは青色申告の対象者や条件を整理します。
確定申告のうちの1つ
青色申告は、確定申告の方法の一つです。確定申告とは所得税を正しく納めるための申告制度で、青色申告と白色申告の2種類があります。
青色申告の対象者は、継続的に以下のいずれかの所得が発生する人です。
- 事業所得
- 不動産所得
- 山林所得
フリーで働くデザイナーやライターなど個人事業主が得る収入は、事業所得に該当するので青色申告の対象となります。なお株の配当金やギャンブルの賞金、退職金のような一時的に発生した所得では、青色申告はできません。
青色申告の利点は?
青色申告のメリットは、白色申告にはない特典を受けられる点にあります。主な特典について、具体的に見ていきましょう。
最大で65万円の控除が受けられる
青色申告では、条件を満たした場合55万円または65万円の控除が適用されます。55万円控除適用の条件は以下の通りです。
- 事業所得または不動産所得について、複式簿記により取引内容を記録
- 貸借対照表・損益計算書・その他の計算明細書を確定申告書に添付して申告期限内に提出
さらに次のうちいずれか一つを実施すると、65万円の控除が受けられます。
- 必要書類を申告期限内にe-Tax(イータックス)で提出
- 仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存している
上記のいずれも満たさない場合は、10万円の控除しか受けられません。
純損失の繰越し・繰戻しが可能
事業を始めたばかりの頃は、収益が伸びず赤字に苦しむケースもあります。損益通算の規定を適用したとしても控除しきれない赤字は『純損失』と呼ばれ、青色申告によって繰越しや繰戻しが認められています。
繰越し可能な期間は、個人事業主で最長3年間、法人で最長9年間です。例えば開業1年目に300万円の純損失があった事業主が、2~4年目にはそれぞれ100万円の黒字を出したとします。この場合、繰越しによって所得額は以下のように計算され、4年目までは所得税がかかりません。
- 1年目:-300万円
- 2年目:-300万円+100万円=-200万円
- 3年目:-200万円+100万円=-100万円
- 4年目:-100万円+100万円=0円
また前年も青色申告した人は、純損失を前年に繰り戻して、前年に納めた所得税の還付を受けることも可能です。
貸倒引当金を必要経費にできる
『貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)』とは、代金を回収できないリスクに備えるために計上する費用です。商品やサービスを先に提供し、代金を後でもらう取引の場合、納品先の経営状況によっては回収できなくなる恐れがあります。
このため一定の貸倒引当金を計上してその年の所得から差し引いておき、代金を回収できたら次年度の決算時に戻し入れる仕組みとなっているのです。
青色申告では、貸倒引当金の金額が『年末における貸金の帳簿価額の合計額のうち、5.5%以下』なら、回収できる・できないにかかわらず経費として認められます。
なお白色申告では、貸倒引当金を経費にできるのは明らかに回収できない場合に限られます。
少額減価償却資産の特例が利用できる
『少額減価償却資産の特例』も、青色申告のメリットの一つです。減価償却資産とは、パソコンや自動車、備品など業務に使用する10万円以上の物品を指します。
減価償却資産は規定のルールに従い、数年に分けて経費に計上するのが一般的です。ただし青色申告の場合は、特例によって30万円未満の少額な資産に限り、全額をその年の経費として計上できます。
特例の対象となるのは、年間300万円までです。300万円を超えた分は、通常通り減価償却によって経費計上します。
家族への給与を必要経費にできる場合も
個人事業主は、原則として生計をともにする家族に給与を支給できません。しかし事前に『青色事業専従者給与に関する届出書』を提出すると、家族に給与を払えるようになります。
さらに、届出書に記載された範囲内に収まっており、適正な金額の給与の場合は『青色事業専従者給与』として経費に算入することも可能です。
青色事業専従者になれる家族の要件は、以下の通りです。
- 青色事業者の収入により生活している
- その年の12月31日時点で15歳以上
- その年の6カ月を超える(開業年の場合は1/2を超える)期間、その事業に従事している
なお青色事業専従者は、同時に事業者の控除対象配偶者や扶養親族になることは認められていません。
青色申告をする際の大変なところは?
青色申告は節税効果が高い方法ですが、特典をもれなく受けるためにはそれなりに労力がかかります。青色申告が大変と感じる理由を二つ見ていきましょう。
複式簿記による記帳が大変
青色申告で最大65万円の控除を受けようとすると、必ず複式簿記で記帳しなくてはなりません。複式簿記は専門知識が必要なため、未経験の人にとっては大変ハードルの高い作業といえます。
特に副業をする会社員や脱サラしたばかりの個人事業主などは、仕事のことで頭がいっぱいで、記帳作業自体が面倒に感じられるかもしれません。
記帳の労力を減らすには、青色申告用の会計ソフトを利用するのがおすすめです。とはいえソフトも有料ですから、事業を始めたばかりの人には金銭的な負担も大きいのでよく検討するようにしましょう。
事前の申請が必要
青色申告を希望する人は、『所得税の青色申告承認申請書』を事前に税務署に提出する必要があります。提出期限は、青色申告をしたい年の3月15日まで、または事業開始日から2カ月以内です。
期限を過ぎるとその年は自動的に白色申告となり、青色申告の特典を受けられません。思っていたより納税額が増えてしまい、がっかりすることもあるため注意しましょう。
また、青色申告を申請できるのは『開業届』を出した人に限られます。これから開業する人は、忘れないように両方を同時に提出するとよいでしょう。
青色申告の際に提出する書類
青色申告では、『青色申告決算書』を『確定申告書』に添えて税務署に提出します。それぞれについて、簡単に紹介します。
青色申告決算書
青色申告決算書とは、確定申告用に帳簿の内容を転記した書類のことです。4枚1セットになっていて、損益計算書や貸借対照表、売上・仕入金額の内訳や減価償却費の計算などの項目が設けられています。
青色申告決算書の作成には、複式簿記による記帳と、決算書類を作るための会計知識が必要です。記帳ができていても、集計や仕訳が大変なので、知識のない人は会計ソフトを利用することをおすすめします。
確定申告書B
確定申告書は、青色申告でも白色申告でも必ず提出する書類です。AとBの2種類があり、青色申告ではBを使用します。ただし2023年の確定申告(2022年の所得が対象)から、申告書Aは廃止されてBの様式に統一されることが決まっています。
確定申告書は、2ページ構成です。1ページ目には収入や所得金額・各種控除額の記入欄と、記入内容に基づいて税額を計算・記入する欄があります。還付金がある場合も、ここで計算されます。2ページ目は、1ページ目に記入した所得の内訳や、控除の内容を詳しく記入する場所です。
書類を郵送や窓口に持参して提出する際は、本人確認書類及び各種控除の証明書類を添付する必要があります。保険会社から送られてくる証明書も、しっかりと保管しておきましょう。なおe-Taxで送信する場合は、添付書類は不要です。
参考:確定申告書等の様式・手引き等(令和4年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁
青色申告の流れをチェック
青色申告の流れをあらかじめ把握しておくと、いざというときに慌てずに済みます。準備から申告書提出まで、やるべきことを見ていきましょう。
事前準備から申請まで
まずは期限までに、開業届と所得税の青色申告承認申請書を提出し、青色申告できるようにしておきます。給与を支払う家族がいる場合は、青色事業専従者給与に関する届出書も忘れずに提出しましょう。
申請が済んだら、帳簿や会計ソフトなどに、業務で発生する売上や経費を記帳していきます。後回しにすると間違えたり、抜け漏れが出たりする恐れがあるため、できるだけこまめな記帳をおすすめします。
確定申告の期間は、例年2月16日~3月15日です。締切に遅れないよう、必要書類を取り揃えて管轄の税務署に提出しましょう。提出方法は窓口に持参・時間外収受箱への投函・郵送・e-Taxで送信の4種類があります。
確定申告書は『信書』ですので、郵送の場合は『郵便物(第一種郵便物)』または『信書便物』として送ります。
青色申告における「経費」ってどこまで?
経費とは、事業のために必要な費用のことです。所得税は売上(収入)から経費や控除額を差し引いた『課税所得』に対してかかるため、確定申告において経費の計算はとても大切です。青色申告で計上できる経費について、考え方や具体例を紹介します。
事業に関係する費用であることが大前提
個人事業主が計上できる経費に上限はありません。事業に関係する費用であれば、すべて経費と考えてよいでしょう。ただし本人が事業に必要と思っていても、税務署が同じ判断をするとは限りません。
例えば売上額に対して接待交際費が多すぎる場合は、プライベートな飲食費も含まれているのではと疑われる可能性があります。あくまでも、事業に関係する費用のみを計上するように意識しましょう。
とはいえ個人事業主には、どうしても事業用とプライベート用が混在してしまう支出があります。自宅を事務所にしている人なら、家賃や光熱費、インターネット回線の利用料などが該当するでしょう。
この場合は『家事按分(かじあんぶん)』といって、事業用として認められる内容のものであれば経費として計上できます。
経費に計上されやすいもの
経費に計上しやすい支出としては、消耗品費・交通費・接待交際費・新聞や本などで学ぶための費用・通信費などがあげられます。消耗品とは文房具などの、その都度買い替えが必要な備品などです。
仕事で移動する際にかかる交通費や宿泊費も、経費にできます。電車やバスの運賃のように領収書が出ない費用は、その都度行き先や経路をメモしておくとよいでしょう。
接待交際費は、取引先との会食やパーティーの参加費用、贈答品や手土産の購入にかかる費用です。仕事において必要な知識を勉強するために購入する新聞や本の代金、スマホ代やWi-Fi機器設置費用、切手代なども経費に含まれます。
経費に計上されにくいもの
一方で、事業者本人や家族の健康維持・増進の費用は、経費にはなりません。企業の場合は従業員の福利厚生費を経費にできますが、個人事業主は従業員ではないため、福利厚生費の考え方が適用されないのです。
人間ドックや健康診断の費用も、従業員の健康診断受診を義務づけられている企業と異なり、個人事業主の受診は任意のため自費となります。
業務とかかわりのない家庭用の支出も、経費として計上できません。例えば私的な買い物や子どもの送迎などの理由で車に乗ったときのガソリン代は、経費の対象外です。
所得税・住民税・社会保険料・各種保険料・罰金なども、経費とは認められないため注意しましょう。
保管しておくべき書類と保管期間・保管方法
青色申告する人は、帳簿や領収書などを長期間保管しておかなくてはなりません。保管が必要な書類と期間、上手な保管方法を見ていきましょう。
帳簿の保管期間は7年
青色申告では下記の通り、書類を保管する必要があります。
- 帳簿:7年間
- 決算関係の書類:7年間
- 現金預金取引関係の書類:7年間(前々年分の所得が300万円以下の人は5年間)
- その他取引に関する書類:5年間
帳簿は仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳などを指し、決算関係の書類は損益計算書・貸借対照表・棚卸表など、現金預金取引関係の書類は領収書・預金通帳などを指します。
その他取引に関する書類とは、納品書・見積書・注文書・送り状などのことです。こちらは5年間の保管でも構いませんが、念のためすべて7年間保管すると覚えておけば、間違いないでしょう。
領収書などの保管方法
領収書は保管するべき書類の中でも、取扱いに苦慮しやすいものの一つです。金額が細かいうえに、毎日のように受け取る人もいるため、7年間の保管は大変面倒に感じるでしょう。
もらった領収書をそのまま保管する場合は、以下のようにファイリングすると分かりやすくなります。
- 日付ごとに、A4のコピー用紙などにまとめて糊付け
- 領収書の近くに使用目的や利用人数などを控えておく
- 日付順にファイリングする
紙に貼るのが面倒な人は、月ごとに封筒やポケットファイルを用意して、入れておくだけでもずいぶんと楽になります。いずれにしても、いつどこで何に支出したのかが、すぐ分かるようにしておくことが大切です。
データ化するのもおすすめ
帳簿や領収書はデータ化して保存すると、保管スペースが不要なうえに、必要な書類にすぐにアクセスできるようになり便利です。
電子帳簿保存は65万円控除の要件になっているほか、2024年1月1日からは電子メール等で受領した請求書等の紙保存が認められなくなります。このため、これから開業する人は、書類をすべてデータで管理する意識を持っておいて損はありません。
領収書をデータ化したいときは、法人用クレジットカードが役立ちます。事業に必要な物品をすべて法人カードで購入すれば、毎月の明細書を保管するだけで済みます。
カードを会計ソフトと連携させて、帳簿入力の手間を省くことも可能ですので、開業の際には法人カードの契約も検討するとよいでしょう。
参考:電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁
参考:電子取引関係|国税庁
青色申告で迷ったときの相談場所は?
青色申告についてインターネットや本で勉強していても、実際に申請するときには分からない点が出てくるかもしれません。迷ったときに相談できる場所や、おすすめサービスを紹介します。
税務署で相談にのってもらう
確定申告の質問や相談は、税務署で受け付けています。まずは国税庁のWebサイトで居住地の管轄税務署を調べ、電話をかけてみましょう。
電話相談は1年中受け付けており、内容によっては窓口で直接相談にのってもらえることもあります。いずれも無料ですので、気軽に利用するとよいでしょう。
また税務署では、青色申告初心者向けの記帳指導や相談会なども実施しています。スケジュールや内容は税務署によって異なるため、参加したい人は早めに問い合わせておきましょう。
青色申告会のサービスを利用
『青色申告会』は、個人事業主を中心とした納税者団体です。税務署ごとに組織され、活動しています。青色申告会に入会すると、記帳や決算書類作成、青色申告のやり方などを相談できます。
業種や地域の事情を踏まえたうえで親身にサポートしてくれるうえに、会計ソフトやe-Tax情報、最新の税制改正に関する情報なども入手可能です。
ただし会員になるためには、入会金と年会費または月会費がかかります。金額は地域によって異なり、入会金は1,000円ほど、月会費は1,500~2,000円ほどが相場です。
青色申告会のポータルサイト -一般社団法人 全国青色申告会総連合
余裕があるなら税理士に相談
金銭的に余裕がある人は、税理士に相談するのもおすすめです。税金のプロなので、青色申告のやり方はもちろん、効果的な節税方法を教えてくれることも期待できます。
信頼できる税理士とつながっておけば、事業規模が拡大して法人化するときなどにも頼りにできるでしょう。
気になる費用は、相談内容によって変わります。初回のみ無料で相談にのってくれる人から1回数千円かかる人まで、さまざまな税理士がいます。
また、記帳や領収書の整理などの作業を依頼する場合は、追加料金が必要です。事務所のWebサイトなどを見て、特徴や料金をよく比較しましょう。
構成/編集部