年明け早々、いろいろな計画を立てて実行している人は多いはず。私も「今年こそはダイエット」の誓いを立てたが、体重は全く変わらない。心理学者であり、韓国で大人気ベストセラー作家となったイ・ミンギュさんによると、心理学で実証された「後回しにしない技術」があると言う。
“多くの人は、実行力とはすなわち意志の力であり、意志の力は生まれつきの資質だと思っている。だから決心したことを三日坊主で諦めてしまった後で、自分を「意思が弱い人間だ」と責める人は多い。だが、それは誤った考えだ。
実行力は生まれつきの資質ではなく、学んで練習すればだれでも開発できる、一種の「技術」だ。いつまでたっても実行に移せないのは、意志の問題ではなく、まだ効果的な技術を学んでいないからだ。“
と、イ・ミンギュさんの著書「後回し」にしない技術(文響社発刊、定価1520円+税)で、後回しにしないための20の方法を紹介している。
成功者は実行した、敗者は実行しなかった
イ・ミンギュさんは「不幸な人と幸福な人、失敗した人と成功した人の差はどこにあるのだろう?ズバリ、実行力だ。望むものが違うからではない、実行するかどうかの違いなのだ」と書いている。
スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツはただアイデアだけで最高のCEOになれたのではない。彼らが偉大なのは、知識やアイデアがずば抜けていたからではなく、彼らが実行したからに他ならない。
私達は誰もが数多くの優れたアイデアをもっているけれど、なかなか実行に移せない。しかし、成功する人たちはアイデアを必ず実行して行動している。成功した人とそうでない人の差は単に「実行したか、しなかったか」の差でしか無いと、イ・ミンギュさんは語っている。
そうであるならば、私達は誰もが成功できる可能性がある。実行すれば良いのだから。とはいえ、ダイエットさえ三日坊主である。実行するのは、案外むずかしい。つい、後回しにしてしまう。
後回しにしない「技術」がある
そんな私に、イ・ミンギュさんは「後回しにしないための技術がある」と教えてくれた。
“幸いなことに、実行力はピアノの演奏や車の運転のように、一種の技術だという点だ。だから、実行力が足りなければ、実践のノウハウを学んで、練習すればいい。”
何と励まされる文章だろう。車の運転のような技術の話ということであれば、ほとんど誰もが身に付けることができる可能性がある。
『「後回し」にしない技術』では、実行力を高めるための具体的な方法を紹介している。例えば家が片付かず、整理をしようと思ったら、友達を家に呼ぶ。何日までに友達が来ると決まったら、その日までに必ず片づけをするだろう。
このように自分をコントロールするのは難しくても、環境をコントロールするのは誰でも実行しやすい。実行力を高める技術の重要なポイントを、自分の心の中や意志に求めるのではなく、環境という外部要因にあると教えてくれた。
また、イ・ミンギュさんは「雨が降るまで雨ごいをする」とも語っている。あきらめずに努力を続けていれば、必ず臨界点に到達できる。それまで続けることが大切だ、と言うのだ。これは松下幸之助の名言でもある「途中でやめるから失敗する。成功するまでやる」のと同じ発想で、こちらも説得力がある。
お正月からダイエット、ではダメ
お正月ダイエットが成功しないのにも理由があるとイ・ミンギュさんは言う。
“特別な日まで決心を先延ばしにしようとすることは、表向きはいくら変化を望むと言っても、内心では絶対に変化したくないと言っているのと同じことだ。そのため、いざ実行すべき時間になると、その決心はさらに明日、そして来年に延ばされることになる”
「結婚記念日からダイエット」と言うのは「結婚記念日までは腹いっぱい食べよう」と言っているのと同じだとも語っている。全くその通りで、お恥ずかしい限り。イ・ミンギュさんが主張する、「ベストタイミングは常に今」という言葉が説得力を持って私たちに迫ってくる。
他にも後回しにしない技術として、「どんなときにも代案を用意すること」や、「すべての行動は実験だと考えよう」という提案など、本書では丁寧に解説されている。
人間には面白い考え方のクセがある
著者のイ・ミンギュさんは臨床心理の専門家でもあるため、心理学の側面から、人間の面白い考え方のクセについても紹介している。例えば試験勉強の前に部屋の掃除をしたくなった人は多いはず。私もなぜか仕事の前に、机周りの窓やデスクの拭き掃除がしたくなる。
大事なことをするための準備をしていると、関係の無い雑用をしてしまい、重要なことが後回しになる。その理由は「やるべきことをやりたくないからだ」とイ・ミンギュさんは言う。
“やりたくない仕事から逃げるためのいちばん簡単な方法は、その仕事と少しでも関係があって、しかも楽な仕事を見つけることだ。
「勉強をしっかりやるには、まず机の片づけをしなくちゃ」とつぶやくが、それは表向きの理由で、隠れた同期は次のようなものだ。「机を片付けている間は、勉強をしなくてもいいだろう」。”
人間は本当に重要だけれどもやりたくない仕事(頭を使わなくてはならない仕事)があるとき、単純な仕事(頭をあまり使わなくてもいい仕事)をすることで、ストレスから逃げようとする傾向があると言う。その考えから敷衍すれば、もしかすると、自分がやっている仕事は、大事な仕事から逃げた結果なのかもしれない。
イ・ミンギュさんは、こうした人生における大切な気づきをたくさん与えてくれた。特に表紙に書かれた「人生でもっとも破壊的な単語は『あとで』である」という一文が胸に突き刺さる。本書では具体的な「後回しにしない技術」について、詳細に紹介されているのでぜひ読んで欲しい。そして、ともかく「今」から始めよう!
著者紹介
イ・ミンギュさん
心理学博士、臨床心理専門家。
檀國大学校特殊教育学科を卒業し、ソウル大学校大学院心理学科で臨床心理学の修士・博士の学位を取得。ソウル大学校学生生活研究所にカウンセラーとして勤めた後、朝鮮大学校医科大学精神科教授を経て、現在亜洲大学校心理学科教授として研究を続けている。
2001年には第1回亜洲大学校講義優秀教授賞を受賞。
「幸せな人生を手に入れるためには1%だけ変えればいい」という哲学を主張して数多くの人に影響を与え、「1%行動心理学者」と呼ばれている。
これまでの著書に、韓国で100万部売れたベストセラー『好かれる人は1%が違う』(東洋経済新報社)をはじめ、『1%だけ変えても人生が変わる』『肯定の心理学』(ともに未邦訳)などがある。
吉川南(よしかわ みなみ)さん
翻訳家。
韓国の書籍やテレビ番組の字幕など、ジャンルを問わず幅広く翻訳を手がけている。
訳書に『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)、『あなたにそっと教える夢をかなえる公式』『成功者の話を聞けば君も成功できる』(ともにサンマーク出版)、『毒消し「黒豆」ダイエット』(SBクリエイティブ)など多数。
文/柿川鮎子