塩素ガスを発生させないための注意点
家庭内で塩素ガスを発生させないためには、どんなことに注意すればいいか。
今回は、化学製品PL相談センターの担当者に話を聞いた。同センターは、一般社団法人日本化学工業協会内の独立組織であり、消費者や事業者、全国の消費生活センターなどから寄せられる、化学製品に関連した様々な相談に専門的な立場から回答している。化学製品による事故を未然に防ぐための情報提供、啓発冊子や出前講座による啓発活動にも力を入れている。
「カビ取り剤やトイレ用洗浄剤など、各種製品に記載されている注意表示に従ってお使いいただくことが最重要になります。アドバイスとしては以下のとおりです」
●「まぜるな危険・塩素系」の製品と「まぜるな危険・酸性タイプ」の製品を、まぜたり、一緒に使うと、有毒なガスが発生して危険。
●「まぜるな危険・塩素系」の製品には「液体タイプ」と「粉末・錠剤タイプ」があり、特に「粉末・錠剤タイプ」は「まぜるな危険・酸性タイプ」の製品だけでなく、「まぜるな危険・塩素系」の液体タイプの製品やアルカリ性の製品とまぜてもいけないので注意が必要。
●「まぜるな危険・塩素系」の製品は酸性の食品、例えばレモン、酢とまぜてもいけない。
●同じ場所に「まぜるな危険・塩素系」の製品と「まぜるな危険・酸性タイプ」の製品を置かない、一緒に使わない。
塩素ガスが発生してしまったら
もし塩素ガスを発生させてしまった場合に、どのような対処をすればいいだろうか。
「塩素ガスは、空気よりも比重が重たいガスなので、換気をしても低いところに滞留しやすいといわれています。塩素ガスの濃度を低くすることが必要ですので、風を起こすなど空気を十分循環させ換気をすることが必要となります」
日本中毒情報センターの公式サイト上では、「中毒事故が起こったら(家庭でできることやってはいけないこと)」の中で、応急手当の動画 「中毒事故が起こったら 中毒110番 応急手当の基礎知識」を示している。この動画において、もし塩素ガス等を吸い込んだ場合は「きれいな空気の場所に移動する」と紹介されている。
応急手当がわからないときや受診の必要性は、日本中毒情報センター中毒110番に相談し、手当てを行っても症状があるときは、医療機関や中毒110番に相談することを推奨している。
塩素ガスの危険性
塩素ガスの危険性については、東京消防庁 消防技術安全所で作成された「洗剤の混合危険」の動画が参考になる。
この動画では、塩素ガスを意図的に発生させる実験を行っている。その中で塩素ガス濃度の数値と危険性について以下のように示されている。
●塩素濃度と危険性
0.35ppm:刺激臭
40~60ppm:肺炎・肺水腫
1,000ppm:数分以内に死亡
実験では1,000ppm以上の濃い濃度の塩素が確認された。非常に危険である。
ちなみに塩素ガスは第一次世界大戦で化学兵器として使用された過去がある。左巻健男 著「絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている」(ダイヤモンド社)では、1915年4月22日 ベルギーのイープルにおいて、第一次世界大戦中のドイツ軍とフランス軍・イギリス軍の戦いのさなか、ドイツ軍の陣地から近くの前線5kmにわたって170tの塩素ガスを放出した旨が紹介されている。フランス兵の5,000人が死亡、14,000人が中毒となったという。
今一度、家庭にある漂白剤やカビ取り剤などの説明書きを読み、「まぜるな危険!」の文字があればぜひ注意をしよう。換気が悪い場所では大きな被害となる恐れもある。
【取材協力】
化学製品PL相談センター
取材・文/石原亜香利