こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
今回は裁判例のザックリ解説です。
「キミ、営業成績わるいから解雇ね」
なんでよ…。
働き始めてまだ6ヶ月よ。
コロナ中でも営業がんばってたのに。
社員さんが会社を提訴。
〜 結果 〜
社員さんの勝訴です!解雇は無効。
(デンタルシステムズ事件:大阪地裁 R4.1.28)
裁判所はザックリ
・コロナで対面営業できなかったのに
・ガンバッて3件受注したじゃん
・これから伸びるかもじゃん
・上司も応援してたじゃん
・解雇はやりすぎだわ
と判断しました。
勝訴ボーナス(バックペイ)についても解説しています。
では参ります。
どんな事件か
会社は、コンピュータシステムの販売などを行っていました。
Xさんは営業さんです。歯科医院で使うソフトウェアを販売していました。
けっこう難易度の高い営業と認定されています。
採用から解雇までに至る経緯は、以下のとおり。
R1.12.27 採用
R2.2.1 勤務スタート
どんな方でもそうですが、初めは契約が全く取れませんでした。
2月から6月くらいまでは、アポはとれるんだけれども受注まではいかない、そんな感じでした。
■ 6月18日
上司はXさんに対し、6月中に2件の新規契約を受注するよう指示しました。
・・・しかし、Xさんは達成できませんでした。
■ 7月2日
上司はXさんに対して ↓ こんな言葉をかけました
「6月の最低目標の2本受注が見込めなかったので、7月最低5本(6月分の2+3)の受注を狙いましょう!」
Xさんは「おはようございます。ありがとうございます。最善を尽くします」と返答。
▼ ついに受注!
ついにXさんの努力が実りました。
■ 7/22
ある歯科医院からの受注に成功しました!Xさんが上司に報告すると、上司は 「○歯科さま、受注されたのですね!おめでとうございます!」との言葉をかけました。
Xさんはコツをつかんだのでしょうか。
その後、7月中に2件受注し、累積の受注件数が3件となりました。
▼・・・解雇
しかし、7月末に、Xさんは解雇されました。
会社がXさんに伝えた内容は、
当社の上半期の業績が前年比50%減で1億6000万円の赤字であり、貴殿に対し営業活動の指導を行なったにもかかわらず、行動の変化が見られなかったため当社就業規則47条(解雇)第1項①に基づき2020年7月31日をもって解雇いたします
というもの。
以下の就業規則に基づく解雇です。
就業規則 第47条
1. 社員が次のいずれかに該当するときは解雇することがある。
① 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の勤務にも転換できない等就業に適さないとき
Xさんは「こんな解雇は無効だ…」と会社を提訴。
裁判所の判断
Xさんの勝訴です!
解雇は無効になりました。
裁判所はザックリ、
・コロナで対面営業できなかったのに
・Xさんガンバッて3件受注したじゃん
・別に「不良」じゃないじゃん
・解雇は無効ね
と判断しました。
以下、くわしく解説します。
▼ 大前提のマメ知識
解雇って、そんなカンタンにできません。
以下の場合は無効になります。
労働契約法 第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする
この条文に基づいて、裁判官は「この解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえない」「だから無効ね」と判断しました。
▼理由
解雇を無効とした理由をザックリあげますね。
・ノルマは6月に2件、7月に3件。
・たしかにXさんはノルマを達成できなかった
・受注件数は3件にとどまった
・でもさ、営業商品の難易度が高いよね
営業商品のニーズは限定的。営業をかけても簡単には受注できない
・しかもコロナ絶頂期
のため、会社は2020年4月〜5月日まで対面での商談を禁止していた。
・なので、経験の少ないXさんが的確な営業をすることはムズかった。
・なのに、Xさんガンバッてたじゃん
7月の1ヶ月間で3件の受注に成功
・改善の見込みあるじゃん
・上司もXさんを労って応援してたじゃん
↓ 上司がXさんにかけた言葉
「3本目の受注おめでとうございます。〜5本受注まで張り切っていきましょう」
などをもろもろ考慮すると、勤務成績又は業務能率が著しく不良【とはいえない】と判断。かりに不良といえる余地があるとしても、解雇はやりすぎだわと判断しました。
勝訴ボーナス
最後、勝訴ボーナスのお話を。
解雇が無効となれば【未払い賃金】をもらえます(バックペイ)
これがデカイんですよ。
解雇が無効と判断されれば、解雇された日から
→ 訴訟になって
→ 判決が確定する日までの給料を頂けます。
↓ 今回のケースでは、ザックリ1年3ヶ月分の給料を頂けてます
(R2.9〜R4.1・判決確定してれば)
もし裁判が4年続けば、4年分の給料がもらえます。働いていないのに。
転職してたとしても、基本、6割の給料をもらえます。
(「元職場での就労の意思がある」と認定できる期間分)
※ 裁判官が「もう戻るつもりないよね」と認定した時点以降は請求不可ですが。
でもデカイですよね。
私は勝手に【勝訴ボーナス】と呼んでいます。
さいごに
営業成績不良を理由とした解雇って、なかなか裁判所は首を縦に振らないです。社員がとんでもないポンコツで会社から退場させるべきレベルと認定されれば解雇が有効になることもありますが、実際、なかなか認められないです。
あ、【即戦力採用ポンコツケース】はちょっとマズイですけどね。即戦力を期待されてけっこう高給で入社したのに「おいマジか全然仕事できねーじゃん」となった場合、若干解雇が緩やかに認められる傾向はあります。またいつか解説しますね。
とにかく解雇に納得いかない場合は、社外の労働組合か弁護士に相談してみましょう。
「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。
ではまたお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。
webメディアで皆様に知恵をお届け中。「
https://hayashi-jurist.jp(←
https://twitter.com/