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【ヒャダインの温故知新アナリティクス】〝知らんけど〟の流行を考える。知らんけど。

2023.02.08

知らんけど

 最近、若い人の間で関西弁が流行っているらしいんですよ。関西人じゃないのに。主に「しんどい」とか「知らんけど」が人気なようです。私ヒャダイン、大阪出身なので関西弁ネイティブなわけで、関西弁に対する正誤判定はできるつもりです。関西弁の正誤判定って本当にシビアで、朝ドラなどで関西弁の登場人物が出てきたら耳をそばだててしまいます。ほとんどできていても一瞬でも「ちゃう」アクセントが出てきたら「パチもんやんけー!!」と牙をむいてしまいます。気軽に使えそうな「なんでやねん」のアクセントも実はすごくデリケートで、音階で言ったら「レレソミレ」なんですね。それを頭を高くして「ソソミレレ」で発音する非関西人がいたら「イ――!」ってなっちゃう。 

 まあそんな狭量な私の正誤判定は置いておいて、「知らんけど」は本当に万能調味料のように便利な言葉なのです。関西弁の会話は標準語とは違ってものの言い方が少しキツかったり、ツッコミという名の下で相手を強く斬ったりするので最後にまろやかにする必要性があるんですね。例えば、「あんたちょっと今日メイク濃いんちゃうん、知らんけど」。

 これは相手に自分の感想や改善点を提示しつつ、とはいえ相手は相手の考えがあって自分が預かり知らない意思があるんだろうな、ということを伝えるという日本人らしいおもんばかりです。こんな便利な言葉、関西だけに留めておくのはもったいない。とはいえ標準語だったら「知らないけど」。うーん。ちょっと冷たくなりますよね、語感。突き放し感が出ますよね。「あなたちょっと今日メイク濃くない? 知らないけど」うわー。いやな上司感出ますねえ。ガールズバーの嫌な先輩っぽい。

頭をよぎったのはSMAPのあのヒット曲

「知らんけど」は関西弁であることによって「知らないけど」に比べて記号感が増していると思います。J-POPの歌詞の途中に英語をはさむような感覚。言葉の生々しさから少し距離ができるんですよね(とはいえ最近はなるべく英語を使わないように作詞をしていますが)。こうして記号となった「知らんけど」は若者の会話の緩衝材として日本中で飛び交うようになったわけですが、非関西人が関西弁を取り込んだものってなんだったっけなあと思い返した時、SMAPの『Hey Heyおおきに毎度あり』が頭をよぎりました。

 SMAPの1994年のシングル、12枚目にして初のオリコンシングルランキング1位を獲った楽曲です。SMAPのメンバー当時6人全員関東圏出身にもかかわらず歌詞は全編関西弁。しかもイントネーションが問われるラップという。楽曲自体はニュージャックスイングを感じるおしゃれサウンドなんですが関西弁のアクセント正誤判定はずっと「ぶっぶー」といった感じで、発売当初関西人の中では「イ―――!」となった人が多かった記憶があります。しかしこの「エセ関西弁」がヒットとなり世間に受け入れられたのは、昨今の「知らんけど」ブームとも通じるところがあるんじゃないでしょうか。チャキチャキ元気に踊る若さあふれるSMAPがネイティブではない関西弁で歌うことですべてが記号化されていたような印象です。

知らんけど

 生々しさが減って、歌詞の中身はゼニについて歌っていたとしてもキツさがなく和らぎます。本来関西弁は「語感がキツイ方言」として認識されているのに、それが逆の役割を持つという逆転現象もおもしろいですよね。

 LINEやTwitterを中心としたSNSで文字での交流への比重が大きくなった現代は「てにをは」を間違えるだけで曲解されたり、歪曲されて伝えられてしまうデリケートな時代です。フェイクニュースへのアンテナも張り続ける必要もあるし、ソースがないものは炎上リスクとしてテーブルにも載せない昨今。何かを発言するにも慎重になることをデフォルトとして育ってきたデジタルネイティブ世代。そんな彼らが魔法の記号である「知らんけど」を多用するのは息苦しさの裏返しでもあるのかな、と感じます。まあ、知らんけども!

ヒャダイン
音楽クリエイター。1980年大阪府生まれ。本名・前山田健一。3歳でピアノを始め、音楽キャリアをスタート。京都大学卒業後、本格的な作家活動を開始。様々なアーティストへ楽曲提供を行ない、自身もタレントとして活動している。

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