突然だが、上記の画像をご覧いただきたい。これは筆者が自宅ベランダで管理しているビオトープの12月初旬の写真である。
昨年末はやや暖かったためか、割と緑が残っていた。
ビオトープという言葉をご存じの方は多い。
本来この言葉は、生物の生息空間という意味合いを持つものだが、日本では野外において、湿地などの水辺と、そこに生息する植物や生物などが構成する生態系をまとめて、ビオトープと呼ぶ向きもある。
一方で、ガーデニングの延長線上にあるような、自然に似せた水辺空間づくりも、家庭で楽しめることから昨今認知度が高まっている。
日本では、どちらもビオトープと呼称されているものの、その実態は割と明確な違いがあるところである。
特に自宅敷地内で実践するビオトープの場合、植物は外来種のものを導入する例も多く、メダカも改良品種といった、どちらも日本の野外には存在しないものを育てるという点が大きい。
ただし、周辺環境に影響を及ぼさない範囲であれば、こういった楽しみ方はむしろ植物や動物に接する良い機会であるため、筆者個人としてはどんどん楽しんでもらいたいと考えている。
その上で、よりビオトープを本来の意味合いに近づけ、自宅でも本格的に楽しみたいという方に向けて、今回は(公財)日本生態系協会の監修のもと、新しいアプローチを提案していきたい。
自宅で出来るビオトープは、四季を通じた生き物の変化をリアルタイムで追える趣味!
かねてより、園芸の延長線上にあった自宅で出来るビオトープのファンは全国に大勢いたところであるが、コロナ禍以降は自宅で楽しみを増やすという目的で、これに手を出す方が一気に増えることとなった。
特に、ハスなどのビオトープでは定番とされる植物を扱う通販サイトでは、一時ビオトープ用品と共にかなりの人気があったのか欠品が相次ぐ結果に。
最近は落ち着いてきたが、それでも園芸店などに並ぶビオトープ関連のグッズや植物は注目度も随分高くなっている。
家庭においてのビオトープは、単純に気になる植物やメダカを家で育てて、癒しを得るという目的としても十分機能してくれるものだし、そのうちに植物にも愛着を持てるようになる。
さらに、日本には四季があることがこの趣味を楽しむ上でも利点になる。
今は真冬。上記の写真を見ても分かるように、冬場には植物の葉や花は枯れるもので、魚は越冬のために水底に身を隠す。
傍目には夏場と比べると全く様相も異なるが、越冬をする植物を育てている場合は、実はその根は健在で、翌春にはまた芽を伸ばしてくれる。
このような、日本の四季を通した環境の変化を、自宅にいながらにして追うことが可能なのも、自宅で実践するビオトープ管理の醍醐味だ。
より自然に近い状態のビオトープは、どうやって作ればいいのか?
ところで、ビオトープをやっていると、野外にある湿地のように、時には外からトンボやカエルなどがやってきて、居着くこともある。
メダカを育てている場合は捕食リスクがあるので一概に嬉しい事例ではないとする向きもあるが、こういった生き物がやって来るほどには、環境が安定している証であるため、管理する側にとっては誇らしい事例と言える。
より自然に近い状態のビオトープを作るにはどうすればいいのか。
これについて見解を伺ったところ、田んぼの土を流用するという方法を教示いただいた。
所有者に断って、田んぼから土をもらってくることで、この時期からでも春先に向けて埋土種子を活用するビオトープづくりをするという手段があるというわけだ。
田んぼの土の中にはさまざまな植物の種子が混ざっており、どのような植物が発芽するかを春以降に確認する楽しみが生まれる。
それだけでは見た目に寂しいのであれば、別途購入した植物を置いてもいいかもしれない。
ただ、基本的に田んぼの縁を思い起こしていただけると分かるように、かなり色んな植物が生い茂るもの。今のうちに、所有者に断りを入れ、土を貰って準備しておくのも悪くない。
また、地域によってはこの田んぼの土の中に、色んな生き物の卵が混入している場合もある。
ひょっとするとそれらも、春先には孵化して活発に動く姿を見せてくれるかも……。
ただ、場合によっては土の中に、外来種の植物含まれる可能性があるため、在来の植物にこだわりたいという方は注意しておくべき。
もう一つ、田んぼに限らず河川などでも管理者はいるものなので、断りなくあちこちから土を採取して持ち帰ろうとするとトラブルに発展することもある。
事前に採取したい土のある場所の管理者は誰なのかについて、しっかり調べておくことも大事だ。
環境を整え、段差処理をすれば小さな生態系が機能しやすい!
さらに、ビオトープ管理士会からの提案として、自宅のビオトープに段差処理を設けるという方法も提示いただいた。
段差処理というのは文字通り、ビオトープと外の世界を行き来するためのスロープ状の陸地を用意するというもので、これによってまずカエルなどが自宅敷地内のビオトープに集まり、そのまま滞在する多様性の空間にすることが期待できる。
それだけでなく、仮にトンボがビオトープに産卵していた場合、孵化したヤゴが成長していくと、最終的には水面から出て脱皮することになる。
彼らの成長の最終段階を後押しする上でも、水面に出る手段を確保することは重要と考えられる。
近年ではSDGsというワードもよく耳目にするところで、これには「持続可能な開発目標」という意味合いがある。そのSDGsが掲げる17の目標の中に「住み続けられるまちづくりを」という項目がある。
住み続ける社会を維持するためには、まず環境の維持も重要。
個々人がそれに向かう過程においては、自宅で実践する、より本来の意味合いに近いビオトープの維持という取り組みがきっかけで、子供だけでなく、私たち大人も一緒になって自然環境への理解が深まることに繋がる。
ちなみに、筆者の自宅ではベランダにビオトープを設置しているが、アマガエルなど、いつの間にか棲み付く生き物も多い。
さらには導入した覚えのないミズムシ、ケンミジンコ、ミズカマキリなどを見かけることもあり、毎年5月から10月にかけては頻繁にアシナガバチが水分を補給しに休憩に訪れる。
こういった様子を見ていると何とも癒される上に、自然と生き物についての理解も深まる。
ちなみに、筆者宅のようにベランダでビオトープを楽しむ世帯は数多いが、お子さんがいらっしゃる場合は注意が必要となる。
最近では幼児がベランダに置かれたものに上がり、柵を乗り越えて転落するという事故が相次いで報じられていたのは記憶に新しい。
幼児のいる家庭では、ビオトープの置き場所に十分配慮が必要になる。
むしろビオトープを楽しむ場合、庭などがある場合はやはりベランダでなく庭先で楽しむ方が好ましい。こうすることで、より生き物との出会いは地続きとなり、さらに多種多様な動植物との接点が生まれることに繋がるためだ。
ベランダや庭先でのビオトープは身近な場所で、誰にも邪魔されずに思う存分植物や生き物を観察できるメリットがある。が、やはり自然の大きさと、そこが許容する大規模な生物環境に敵うものはない!
自宅でのビオトープは自然を知るための入口という観点を持ち、暖かくなったら外に出て、存分に自然を観察・満喫することをおすすめしたい!
筆者も今年の春から秋にかけては、ほぼ毎日外に出てさまざまな発見をした。
野外で見る植物や動物の様子を目に焼き付けることは、大変良い刺激になり、また自然についての知識も身に付き、自分の人生が豊かにもなる。
知っていて自慢できる知識というわけではないけど、やっぱりそこにある植物や、目の前にいる生き物の名前が分かるというのは、悪くないものだ。
(公財)日本生態系協会から、 ビオトープを家庭で楽しんでいる方に向けたメッセージ
ビオトープをご家庭で楽しまれている方へ
ビオトープには様々な魅力がありますが、そのひとつは四季折々の変化を見せ、しかもそれが植物、昆虫、動物などが織りなす総合的なものであるという事でしょう。
環境が整えば、水辺にはトンボやカエルが、樹木には鳥やセミが、草地にはバッタやカナヘビなどが訪れます。
昔から日本で生きている在来種は、当然ですが日本にある植物を食べたり利用したりして生きています。
本来の自然環境を楽しみたい方は、なるべく在来の植物を使われてはいかがでしょうか。
また、これはSDGsや30 by 30(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として守っていく世界目標)の一助となる行動です。
お庭やベランダの小さなビオトープも、生きものを介して近くの川や森、学校や公園などのビオトープとつながり、ネットワークすることで地域全体の自然を豊かにしていきます。
(公財)日本生態系協会のFacebookでは、「学校・園庭ビオトープを作ろう!」というテーマで、ビオトープづくりのワンポイントアドバイスを掲載していますので、ぜひご覧ください。
今は冬…次の春に向けて、今やれる準備をこなしておこう!
ということで、今回は冬の間に読んでおきたい家庭におけるビオトープの話題をつらつらと書いていったところであるが、先に紹介したとおり、来年の春に向けてこの時期からできることとしては、田んぼの土をもらってきて備えるというものがある。
冬場のうちにこうして準備をしてみたり、暖かくなったらどういうビオトープのレイアウトを構成すべきかイメトレをしておくことで、春には早速行動に起こすことが可能。
自宅で行うビオトープは非常に面白いし、自然に目を向けるきっかけとして十分に機能するので、植物や動物が好きな方で、庭やベランダのスペースに余裕があるという方はぜひ挑戦していただきたい。
ちなみに、ビオトープの定義は意外と広いもので、水辺以外にも、草地や樹林等も含まれる。様々なタイプのビオトープづくりに思いを広げていくことも楽しい。
また、既にビオトープを自宅で楽しんでいるという方は、来年以降も引き続き実践していただき、来春以降は屋外に出て水辺をじっくり観察し、植物の植え方の参考にしていただければさいわいである。
文/松本ミゾレ
【取材協力・監修・画像引用元】
(公財)日本生態系協会
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