過酷な環境に晒されつつある現代のビジネスパーソンの悩みは多い。だが、日々直面する課題の中には、私たちの人生をより豊かにするためのヒントが詰まっているという。異色の経歴を持つVTuberの短期集中連載、大好評第2回!
※「教えてかなえ先生」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME2・3月号に掲載されたものです。
怒りへの処方箋
すぐに怒鳴る上司とどうつきあえばよいのでしょうか。仕事ができる人なので理不尽でも反論ができず、フラストレーションだけがたまります。
【結論】怒れる上司を利用して「分析力」を養おう
簡単に「転職しろ」なんて言うのは無責任
さて、今回は他者が自分に向ける怒りの受け止め方と、怒りを向けてくる相手に対して沸き起こる怒りへの対処法について考えていくのですが……まず、このお悩みを送って来られたということは、おそらく転職も難しい状況なのでしょう。
「嫌なら離れろ」「転職しろ」というのは、とても耳心地のよいスパッとした回答ですが、同時に無責任な回答でもあります。転職は今後のアナタの人生を大きく変えかねないイベントであるにもかかわらず、「転職しろ」と言う人の多くは自身の〝アドバイス風の発言〟に責任を持ちません。「失敗しても自己責任でしょ」なんて言われるのは目に見えています。
そこで、今回はそんな上司とつきあわざるをえない、という前提でお話しします。
そもそもアナタの上司は本当に優秀ですか?
さて、「仕事ができる」というアナタの上司は、本当に優秀な人材なのでしょうか? 単純に数字だけで見ると、そうかもしれません。しかし、「会社にとって有益な人材か」と考えると、どうでしょう。仮に〝残業をものともせずバリバリ働く上司〟だったとしても、休息を削って仕事をしていれば定時退社よりも高成績となるのは当然です。残業代を含めた時間給に換算すると、当該上司はむしろ労働生産性が低い人材となりそうです(会社にもたらす利益額によりますが)。
また、自身の感情を抑えられず、部下のモチベーションを下げる言動をとる人間を人の上に立たせる時点で、アナタの会社は「数字の高低でしか成績評価できない残念な組織」かもしれません。
上司はアナタのご主人様でありません。威圧によって意見が言えない状態は、確実に会社の利益を害しています。しかし、このような困った人は社会にずいぶん多い──そんなジレンマの中、このような困った人とうまくつきあうためには「怒りを因数分解する力」を身につけることが非常に重要になってきます。
怒りは第2次感情。心が〝消化不良〟を起こしている
ここで少し「怒り」という感情について考えてみましょう。
怒りとは原始的な感情であり、「喜び」「驚き」「悲しみ」「嫌悪」「恐れ」などの文化や年齢にかかわらず誰もが同様に表出させる「基本情動」と呼ばれるもののひとつです。「怒り」を覚えることは誰にでもあることで、おかしいことではないのです。しかし、社会的には「怒り」をあらわにすると、しばしば問題視されてしまいます。
ただし、これも適切に言語化するならば、「対人場面において怒りが喚起された際に適切な対処ができない」ことが問題になることが多いだけで、正しい怒りへの対処法を身につけることは、ビジネスパーソンにとって必要なスキルのひとつといえるでしょう。
そして、怒りへの対処法を身につけるうえで重要なのは、怒りには「先行する不快感情が存在する」ということです。心理学の世界において怒りとは「第2次感情」とみなされており、先行している感情があると考えられています。
例えば、重要な会議で自分が遅刻している場面を想像してください。ここで「ごめんなさい。電車が遅延したので10分遅れます」と事前に相手に伝えている状態と、何も告げないで参加は、どちらが怒られそうですか?
後者のほうが怒られる可能性が高いですよね。原因を考えると、例えば「会議を軽視しているように感じた」「通勤途中で事件や事故に巻き込まれたのでは? と不安になった」など、怒りに先行するネガティブな感情がありそうです。
怒りは複雑な感情にみられがちですが、このように状況と先行する負の感情を適切に把握することで、怒れる鬼もただの人間だということがわかるようになります。
それでは今回のアナタの困った上司について考えてみましょう。この行動が出る前に必ず怒りが喚起されていそうです。
まず、(1)いつ、(2)どのような場面で(通常場面なのか、特定場面なのか)、(3)誰に対して(自分だけなのか、誰でもなのか)、怒りが喚起されていそうか冷静に観察してみてください。メモか何かに「行動観察」と称して書き出して冷静に相手の行動を分析してみるのもおもしろいかもしれませんね。もしかすると、上司もさらに上司から激しく営業成績のことで叱責されて、それに対して部下に八つ当たりしているだけなのかも。
実は、他者を観察して正確な分析を行なうことは、思考の視野を広げることにつながり自己分析能力も上げることにもなるのです。
人間は様々な場面で「社会的比較」を行ない、共通項の多い他者を自己と比較させて客観的に自分を理解しようとします。正確な他者を分析する能力は、自己分析の結果をより確度の高いものにしてくれるのです。
もしかしてパワハラかも?無理と思ったらすぐ撤退を!
「怒りを回避する方法」を探るよりも、「怒りを受け止めたうえで、うまく処理する方法を身につけること」が肝心です。おそらくアナタの上司はそれが下手なのでしょう。そして、アナタ自身も上司と接して自分自身の中に生まれた怒りの処理方法に思いあぐねてしまい、相談を寄せてくれたのだろうと思います。まさに不快感情の消化不良状態です。
それに向き合おうとするアナタの意志はすばらしいと思いますが、食べ過ぎると戻してしまうのと同じように、モヤモヤをため込んでしまうとうっかり誰かに向かって吐き出して相手を傷つけてしまうことになるかもしれません。
怒りの因数分解とそのために必要な行動観察や分析は、あくまでも消化を助ける手段のひとつにすぎません。危険から離れることも大切なスキルです。心が壊れそうな状況なら、無理せずに転職などで危険から逃れることも選択肢から外さないでくださいね。
怒れる人を目の当たりにしたら「この人はなぜ怒るのだろう?」と考えることで、他人の怒りに対処できるようになるばかりでなく、自身の怒りを把握しコントロールする習慣にもつながる。
犯罪学教室のかなえ先生
元少年院の先生で、犯罪心理学や教育犯罪学の知見からニュースなどを解説するVTuber。近著に『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』。
©夢乃とわ SDイラスト/紀羅わたり
※「教えてかなえ先生」は、雑誌「DIME」で好評連載中。本記事は、DIME2・3月号に掲載されたものです。
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