米国の〝利上げのピーク〟を過ぎれば1ドル=110円まで振れる可能性もある
2022年11月末現在では円安が一段落し、1ドル=138円10銭に。ピークに比べて10円以上も円高に振れた。しかしこれは、さらなる円安拡大の通過点にすぎないのだろうか。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英さんは、次のように見ている。
「現在の円安は、米国が利上げ政策をとっているのに対し、日本は利上げしていないために金利差が生まれていることが原因。『ドルと円なら、預けて利息が多くもらえるドルで持とう』と多くの人が考えているわけです。つまり、円安が落ち着くには、米国の姿勢が変わる必要があります。しかし最近、米国の利上げ政策にピークアウトの兆しが見えてきました。まだ天井というわけではなく、もう一度、1ドル=150円台になる可能性はあります。しかしながら、160円までいく可能性は低いです。むしろ、米国の金利上昇がピークを越えれば、今度は円高に振れていくでしょう。2023年のうちには1ドル=120円程度、2024年末までだと1ドル=110円よりも円高になる可能性さえあります」
円安による悪影響がメディアで大きく報じられたため、多くの日本人は「日本経済は今、大変な局面に陥ってしまった」と思っているかもしれない。だが、木内さんによれば「諸外国に比べれば、日本経済は安定しているほうだ」という。
「経済全体では円安・物価高はマイナスに働きますが、政府が行なう29兆円の追加経済対策が追い風になっています。日本経済はコロナショックから脱却しようとする力が強いのです」
株価の下落も〝耐えた〟と言っていい。下の表は、米中貿易摩擦が起きた2018年と2022年との平均株価の下落率を比べたもの。2022年の日経平均の下落率は米国よりも低く踏みとどまっていることがわかる。
ただし、経済の成長は世界全体の潮目に従わざるを得ないもの。日本以外の先進国では軒並み「利上げ+大きな株価下落」が起こっており、日本経済もそれに大きく引きずられると、木内さんは話す。
「2023年を展望すると、前半は株式市場に逆風が吹き荒れ、景気後退の局面となりそうです。輸出に頼っている日本では、他国以上に悪影響を受けるかもしれません。ここはぜひ日本企業に踏ん張ってもらい、2023年末から2024年へとつないでほしいところです」
※内容は取材時(2022年11月)のものです。
2022年の日本経済は〝耐えた1年〟だった
海外投資家は「お買い得日本株」を狙っている?
世界全体として株価は下落基調だが、その中でも日本の下落率は小さいほう。海外の投資家視点では、円安・日本株安は日本円を安く調達して株式投資できるため、日本株はダブルで「お買い得」だと見ているようだ。
【話を伺った人】野村総研 木内登英さん
金融ITイノベーション事業本部エグゼクティブ・エコノミスト。内閣の任命により、日本銀行政策委員会審議委員(2012年7月~2017年7月)として、日本の金融政策決定に携わった。膨大な知識を裏づけに国内外の経済動向を正確に捉えた解説に定評がある。
取材・文/久我吉史
※内容は取材時(2022年11月)のものです。
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