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緑と人が溢れる場所へ、ハンガリーで話題の「廃墟バー」に学ぶ再生と共生

2023.01.04

ハンガリーの首都ブダペストでは、今「廃墟バー」がトレンドになっている。その中でもブタペストの廃墟バーといえばここ!というのがユダヤ人地区にある「シンプラ カート(Szimpla Kert)」だ。

工場に跡地をそのまま利用するサステナビリティ

ブタペスト初の廃墟バーとして登場したのが2001年。最初は他の場所にオープンしたのだが、2004年に現在の場所であるブダペストの街中の小道に面した古い工場跡地に移動した。

といっても更地にして新しくこのスペースを作ったのではなく、工場の建物の一部や枠組みなどは修復することなくそのまま利用し、違う空間に生まれ変わらせたのだ。

Szimpla Kert

工場だった時の壁に打ち付けられている様々な看板。それが逆にいい「味」になっている

この「シンプラ カート」、じつはバー数軒の集合体。まるでフードコートのように2つのフロアに10軒ほどのバーが入っている。

それぞれのお店はドアなどで仕切られている訳ではなく、客は好きな場所で買い、好きな場所に座る。カウンターの近くに座席がある場所もあるし、オープンスペースに並ぶテーブル席もある。

それぞれのバーやオープンスペースのコンセプトは一見バラバラに見える。ガラスの入っていない窓枠、ドアのない出入口、壁一面には落書きのようなアート、どこかで使われていたピアノの一部、古びた樽やバスタブ。

それぞれのスペースの雰囲気には全く統一性はなく、荒れ果てた感じもするが、全体的に見ると「廃墟」という点が共通しているからかお洒落な感じにまとまっている。そして次のスペースには何があるんだろうかと、敷地内を全部見て回りたくなる不思議な魅力がある。

廃墟バーの中にたくさんあるバーカウンターの1つ。廃材で作られたカウンターが無骨ながらカラーリングされた木材と合わさって温かい感じになっている

その珍しさや、独特な空間の持つ魅力に惹かれた観光客にも人気で、どこで写真を撮っても絵になるため、カメラ片手に敷地内を探索し記念撮影をする人たちは後を絶たない。

むき出しのレンガと無造作に飾られたポスター、そしてあたたかな照明が居心地のいい空間を生み出している

「廃墟」と「植物」の意外なマッチング

この「シンプラ カート」の「廃墟」以外のもう一つの特徴が「緑」を多く取り入れていること。敷地内には多くの植物も置かれ、解放感があり緑溢れる空間も広がる。

たくさんの観葉植物が置かれたスペース。半透明のアクリル板の天井もあたたかな雰囲気を醸し出し、さながら「温室カフェ」といった雰囲気

奥の「温室」的なエリアと一続きになっている「半アウトドア」的なスペース。「廃墟」というだけでなく置いてある家具もリサイクルされているものが多くバラバラだが、どこか「大学の旧校舎のたまり場」といった雰囲気でくつろげる空間となっている

無機的な「廃墟」と有機物の「植物」。硬質な「廃墟」とやわらかな「植物」。一見正反対な両者が見事にマッチングしている様子は不思議にも思える。

だがよくよく考えれば人の行き来が途絶え見捨てられた「廃墟」に最初に生えるのは「植物」で、意外と関係性はいいのかもしれない。植物に覆われた廃墟を探検するという「ゾクゾク感」もある。テナントも訪れる人々も、その心地よい刺激のようなものを共有している。

コミュニティーをつなぐ「イベントスペース」の顔

シンプラ カートでは多くのイベントも定期的に開催されている。映画上映、ライブミュージック、アート展覧会、フリーマーケットなどがあるが、一番よく知られているのは、毎週日曜日に開催されているファーマーズマーケットだ。

30~40の売り手がテーブルを並べ、都市にいながら生産者たちと直接コミュニケーションを取れる場所になっている。売り手はすべて生産者で、彼ら自身がつくったものを売っている。

主催するシンプラ カートは販売者を厳選し、できるだけ多くの種類の商品が揃うようにしている。野菜やフルーツ、ハチミツやジャム、チーズ、スパイス、パンなどその種類は幅広い。ファーマーズマーケットを開催するだけではなく、シンプラ カートでつくられる料理の材料もそのほとんどは彼らから購入したものだ。

シンプラ カートの取り組みはそれだけではない。人手の多いファーマーズマーケット開催日に合わせてライブ演奏が行なわれるだけではなく、毎週違う目標を持つ非営利団体も参加し、子供向けのイベントや、ゲーム、習い事などを提供している。

そしてその非営利団体たちはファーマーズマーケットで販売されている野菜などを使って料理を作り、その売り上げをそれぞれが支援する地域の団体に寄付している。

ここでのファーマーズマーケットは生産者と消費者とを直接つなぐだけでなく、来場できない人たちも大きなコミュニティーと一員とみなし間接的に恩恵が行き届くように配慮されている。

昼間は自然光がふんだんに入るが、夜になるとカラフルにライトアップされる。どことなく昔の遊園地を想い出させる華やかさ

廃墟だからこその「再生」と「共生」

シンプラ カートはライブミュージックを提供したりアート展覧会を開催したりするのは「来場客へのサービス」だけでも、主催者を利する「客寄せ」だけでもない。

ミュージシャンやアーティストなどに発表の場を与えることもその目的の一つ。つまりシンプラ カート側も含めた「win-win-win」な関係だと彼らは考える。

ジプシー音楽が有名で音楽が「劇場」や「宮廷」といった特別な場所だけでなく常に「身近」にあったハンガリーでは、名もなき芸術家をサポートする伝統が今もしっかり息づいているのだ。

一度は人々から見捨てられた「廃墟」だが、だからこそそこは緑あふれる「再生」の場にふさわしい。そして「無」だからこそ、だれもが輝ける「共生」の場にもなれる。

そんな「骨太な思想」がこのシンプラ カートという「廃墟バー」からは感じられた。だからこそつくられて数年で泡のように消えるのでなく、もう20年も愛されつづけ、周囲に同様の廃墟バーを生みだすまでになったのだ。

「廃墟」という「見た目のユニークさ」に飛びつくだけでなく、「廃墟とはなにか?」「廃墟を活かすにはどうしたらいいか?」と根底からとことん考えるハンガリー。

東ヨーロッパの一国として少し西側から遅れたような感じだったのは過去の事。サステナビリティなどを取り入れ発展し続けているエネルギーは今では西側よりもあるのを感じる。張りぼてだらけのバブル経済の崩壊後に「失われた30年」を迎えようとしている日本が学ぶべき点も多いのかもしれない。

文・写真/バレンタ愛
2004年よりオーストリア、ウィーン在住。うち3年ほどカナダ・オタワにも住む。長年の海外生活とトラベルコンサルタントなどの経験を活かし、2007年よりフォトライターとしても多数の媒体に執筆、写真提供している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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