『漸く』は、普段ビジネスやプライベートで使う文章ではあまり見かけない漢字です。近代文学や古い文献を見ると、使われていることもあるでしょう。一体、どう読むのでしょうか?読み方や意味を解説します。語源や英語表現、主な文例も見ていきましょう。
「漸く」とは?
『漸く』は書き言葉として使うケースが多く、初めて見たときは読み方に悩む人が多い漢字です。さんずいに斬るという形からも、読み方や意味を想像しにくいといえるでしょう。まずは、漸くの意味や読み方について解説します。
「漸く」の意味は「やっと」「かろうじて」
漸くは、『ようやく』と読みます。一般の会話表現で使われるときは、『やっと』『どうにか』『なんとか』と表現されることが多いでしょう。かしこまった場面や関係性では使われることもありますが、聞く機会があまりなかった人もいるかもしれません。
漸くには、『かろうじて』という意味もあります。かろうじては漢字で『辛うじて』と書き、達成が難しく辛いことをどうにかやり遂げたという意味です。
『漸く』は時間経過や労力の意味合いが強い言葉ですが、かろうじてにはそれ以外の意味もあります。かろうじてはギリギリの点数で試験に合格したときや、危ない状況をすんでのところで逃げ切ったような場面でも使われる言葉です。
「漸く」の語源は「水を斬る」
漸くに使われている『漸』の字には、いくつかの由来があります。水を意味するさんずいと『斬る』を組み合わせた漢字であることから、水の流れを変えて(斬って)導いていく様子を語源とする説があるようです。
そのほか、昔中国にあった『漸(漸水)』という川の名前が由来とする説もあります。川の名前から、少しずつ進んでいく意味が生まれたようです。川の流れや、川が広がっていく過程に関係しているのかもしれません。
漸には、水が染み込むという意味もあります。一説によると、『斬』の成り立ちは『車を作る際に木を切る様子』です。切った木材に水がゆっくりと染み込むところから、『次第に』という意味が生まれたとする説もあります。
「漸く」は英語で「finally」
漸くという言葉を英語にする場合、『finally』『barely』『gradually』などの単語が該当します。finallyは、ついに・とうとう、という意味です。結末やフィナーレを意味する言葉でもあり、ポジティブな印象を与えます。
barelyは、不可能と思われたことが何とか達成されたときなどに使う単語です。日本語の漸くとは少しニュアンスが異なり、どちらかというと『かろうじて』に近い言葉といえるでしょう。
graduallyは、次第に・だんだん、という意味で使われ、時間の経過を表す言葉です。ちなみに古文や近代文学では、主に次第に夜が明けていく様子などを『漸く』または『漸う(やうやう)』と書くことが多かったようです。そのため、graduallyは漸くの意味として古くから使われることの多かった、時間経過を表す英訳といえるかもしれません。
「漸く」と読み間違えやすい「暫く」「悉く」
漸くは、『○○く』という読み方をするほかの単語と読み間違いやすい言葉です。暫くや悉くといった、読みにくい単語の読み方や意味も知っておきましょう。
「暫く」の読み方は「しばらく」
暫くは『しばらく』と読みます。暫は、少しの間・あまり長くない時間、といった意味を持つ漢字です。長い時間経過やゆっくりと進む意味を持つ『漸く』とは、使い方が異なります。主な例文を見てみましょう。
- 暫くお待ちください。
- 暫く見ない間に変わったね。
- 暫く経ってからもう一度おかけ直しください。
暫くと漸くは使う場面が異なり、前後の文章を見て読み方を判断できます。ちょっとした時間を意味する場合は、『しばらく』が使われていると考えましょう。
「悉く」の読み方は「ことごとく」
悉くは、『ことごとく』と読みます。『尽く』も同じようにことごとくと読み、どちらも同じ意味合いです。悉には『すべて』『何もかも』『全部』といった意味があります。例文を見てみましょう。
- 悉く失敗に終わった。
- 悉く思った通りにいかない。
- 悉く予想とは違うことが起きた。
悉くという言葉は、主に悪いことが起きたときに使うことが多いといえます。本来悪いことにだけ使われる言葉ではありませんが、一般的な会話で「悉くラッキーなことが続いた」「みんなに悉く喜んでもらえた」と言うと、違和感があるかもしれません。
「漸く」の使い方
「漸く」を使う3つのシチュエーション
『漸く』を使うシチュエーションは複数あります。よく使われるパターンは、以下の三つです。
- 長い間望んでいたことがついに叶う
- 苦労してやり遂げる
- かろうじて、やっとのことで
「長い間戦乱の世が続いたが、漸く苦難の時期が終わった」のように、長年望んでいたことが叶うときに『漸く』という言葉を使うことは多いでしょう。「これまで何度も失敗が続いたが、漸く成功した」には、苦労や苦難がありながらも、目標を達成する意味が込められています。
そのほか、漸くは『かろうじて』『やっとのことで』というニュアンスで使うことも可能です。 例文としては、「大変な事故に巻き込まれたと聞いたが、彼は漸くたどり着き、バスの時間に間に合ったようだ」のようなものがあるでしょう。
『かろうじて』と『漸く』は完全に同じ意味ではないため、漸くを使う場合は時間経過や苦労を伝えるときに使うのが無難です。『かろうじて』を使う方が伝わりやすいパターンもあります。
「漸く」を使った文例
主なシチュエーションのほかにも、漸くという言葉を使うシーンはあります。まずは、会話文として使うときの文例を見ていきましょう。
【会話文1】
A:主役のC君は、一体いつ来るんだろうね。待ちくたびれたよ。
B:漸く来たみたいだよ。
【会話文2】
A:漸く、あの問題が片付きそうなんだ。
B:そうか、それはよかった。
では、メールや文章では、どのように使うのでしょうか。主な例を見ていきましょう。
【例文1】
A商事から注文があった商品が、漸く入荷いたしました。
【例文2】
1月18日に、漸く新店舗がオープンします。
ビジネス・プライベートを問わず、書き言葉で『漸く』を使うときには、ひらがなを使う方が読みやすく親切でしょう。長い時間経過や苦労をイメージさせるため、気持ちを伝えたいとき以外は使わない方がよいケースもあります。
構成/編集部