ペットと暮らすということは、最後まで面倒を見ること。これを高齢者がすべて担うのは大変
生き物を飼育する際、一番大切なことは管理する生き物を看取るまで、出来る限りストレスをあたえず、健康な状態で生きてもらうこと。
どんなペットを育てていても、これが大切になる。
逆に言ってしまうと、高齢になると、最後までお世話が出来るかどうかも不安視される。
現在日本でもっとも多く飼育されているペットは猫だが、高齢者が新たにペットとして猫を迎える場合には、後見人を見つけておくなどの準備も必要になる。
ただ、現在では全国各地の保護猫団体が、“永年預かり制度”と呼ばれる、高齢の方でも保護猫のお世話係に挙手出来る仕組みが徐々に浸透しつつある。
今回は、この仕組みを発案し、さらなる制度の普及を進める、NPO法人ツキネコ北海道の代表・吉井美穂子さんにお話を伺った。
永年預かり制度という単語に馴染みのない方にこそ、ぜひ記事を確認いただき、この仕組みのメリットに触れていただければさいわいである。
始まりは2012年。「猫をレンタルしたい」という不思議な要望がきっかけ
松本 全国的にも徐々に認知されつつある永年預かり制度ですが、これをツキネコ北海道さまが発案された時期と、その経緯について簡単に教えていただけますでしょうか?
吉井さん 2012年にご来店いただいた方から「猫をレンタルしてほしい」のお申し出が永年預かり制度誕生のきっかけになりました。
詳しくお話を聞くと、ご主人を亡くされたばかりで猫と暮らしたいけれど最後まで面倒を見る自信がないとのこと。
当時、保護施設も狭く預かりボランティアさんも少なかったことから『まずは預かってみませんか?』と猫を託したところ大変喜ばれました。
ご商売もされており生活面に於いても時間の余裕もある方だったので、猫風邪に感染した猫の医療費まで負担してくださいました。
そのようなシニア世代の方がまだまだたくさんおられるのではないか、年齢で猫を飼うのを諦めさせてしまうのか、と疑問に思ったところから、発想の転換により「猫を預けて、面倒が見られなくなれば戻してもらえばいい」と思い永年預かり制度を構築しました。
シニア世代は時間にも経済的にも余裕のある方が多く、テリトリーを大事にする保護猫達がシェルターにて多頭飼育で過ごすことよりも、ご家庭で過ごすことのほうが猫にとってははるかに幸せなことなのです。
年齢や家族構成、男性、女性、持ち家があるなし等より、猫が暮らせる環境を見極め、その人にあった猫をマッチングさせることに焦点をあてています。
猫を飼いたいと希望する方、猫を飼育する場所が無い団体や個人ボランティア、なんといっても1〜2匹で生活したい『猫』にとってもみんながwin -win -winになる画期的な制度なのです。
「永年預かり証」の発行で、万が一の事態にもSOSを出せる仕組みを構築
松本 私自身も、高齢者になった際にはこのような制度を利用したいと考えているのですが、もしも自分が急に倒れた場合、家にいる預かり猫が心配です。
永年預かり制度を使って猫と生活している方と、ツキネコ北海道さまとはどのぐらいの頻度で連絡を取り合っているのでしょうか?
また、万が一の際にツキネコ北海道さまにフィードバックがなされる仕組みはございますか?
吉井さん 基本的にこちらからご連絡を取ることはありませんが、LINE交換できる方はお願いしています。
少しケアが必要な方がおれば(認知に少し心配がある、ご自身の体が不自由など)、たまにお電話差し上げる程度でほとんどこちらからは行いません。
現在、高齢者の健康寿命を伸ばす観点から研究されている某大学の先生達と連携を取りアンケート調査も行っているところです。
殆どの利用者さんが自分の飼い猫として愛情持って飼育したり、看取りをしてくださっています。
吉井さん また「永年預かり証」を発行し、室内に貼っていただき何かあった際は猫についてはツキネコ北海道へご連絡いただくように記載しています(筆者注:上記画像がその見本。預かり主は自宅内の目立つ場所に貼っておくことが求められる)。
実際に永年預かり制度を実行すると、猫も人も嬉しい事例が目白押しだった!
ではここで、ツキネコ北海道さまが2012年から永年預かり制度を運用してみて直面した永年預かり制度に関する具体的なエピソードを、吉井さんにお聞きしたお話の中から引用させていただきたい。
永年預かり制度のパンフレットモデルになって頂いたKさんの場合
若い猫が良いとトトちゃんを選んだKさん。
トトちゃんは北海道道南地域から保護された野良猫でした。
モデルをお願いした時に楽しそうに遊ぶ姿を見て安堵したことを覚えています。
困ったことがあると心配そうにいつも電話をくれました。
先日その寿命を全うしたトトちゃん。
Kさんもかなり落ち込まれていましたが、また同じ地方の猫を引き取りたいとご家族と共に新しい出会いを待ち焦がれています。
認知症状があったSさんの場合
猫を託してから1日に何度も電話をかけてくるようになったSさん。
流石に心配になり訪問してみました。
家の中は猫のグッズやおもちゃやオヤツで溢れていました。
担当のヘルパーさんに連絡を取って相談したところ「猫のことばかりお話しされていて、猫との生活は問題無いと思います」とのこと。
ヘルパーさんと連絡を取り合い見守りすることにしました。
猫は地方で飼育放棄された“たんげつ”ちゃん。
そんな折り、Sさんが救急搬送されたとのことで直ぐに駆けつけました。
救急隊員さんが窓を開けて入った為、猫が逃げてしまったとのこと。
スタッフと共に周りを捜査しながら捕獲器をかける準備をしていました。『にゃ〜ぁ〜』
裏手の物置からか細い鳴き声が!
人馴れしているたんげつちゃんは、ちゃんと物置の隅でまんじりともしないで1日過ごした様です。
当団体に戻ってきたたんげつちゃんは、あまり猫が好きで無いためにストレスを感じていました。Sさんは退院後、再度預かることを希望されたので、またヘルパーさんと相談してお願いすることになりました。
うちより絶対可愛がってくれるSさんがいいもんね!
永年預かり制度で5匹を看取ってくださった久野さんの場合
高齢者施設で働くほどパワフルな久野さん。
多頭飼育崩壊などで保護されたFIVキャリアの猫を中心に引き取り、手厚いケアをしてくれました。
特に歯肉炎など口内環境が悪くなる猫達が辛くない様にと、高額な医療費も惜しまずに140キロ離れた札幌まで通院してくださることも……。
1匹1匹を看取ってくださり久々に猫のいない生活になりました。
「少しお休みしたらまた迎えに行くよ〜」と、魅力的なお人柄でボランティアさんや里親さん達との交流も多く、猫を通て新しい人との交流も楽しんでいる久野さん。
今度はどんな猫達との生活が待っているのかな?
パワフルで多趣味な川口さんの場合
永年預かり制度の紹介動画などでその魅力を遺憾なく発揮されている川口さん
音楽好き、絵や書を嗜み会話が大好きなKさんですが、同居する息子さんとの生活は殆ど会話が無いとのこと。
元々は犬好きでしたが80代と年齢的にも犬の飼育は無理と判断されて当団体を訪ねてくれました。
多頭飼育案件から引き出した甘えたがり猫の、ももちをお願いしました。
長毛のももちちゃんを膝に抱えていつもいっぱいブラッシングしてくれます。
(筆者注:上記画像が川口さんと、全力で甘えるももちちゃん)
と、上記のように複数の猫ちゃんが、ツキネコ北海道から永年預かり制度に賛同する方の家に移り、そこでのんびりした生活を送っていることが分かる。
どうしても保護猫シェルターでは、収容頭数が増えてしまうと、建物の規模によっては猫たちの縄張りが被ってしまい、それがストレスの元にもなってしまう。
多数の猫がシェルターで里親さんを待ち続けるよりも、永年預かり制度を利用してもらう方が、猫にも、保護団体にとっても負担は減ることに繋がる。
永年預かり制度はシニアだけが対象ではない。里親になるのが難しいと判断された方も、まずは相談してみることからはじめてみては?
松本 最後になりますが、日本は今後ますます超高齢化が加速していきます。
一方で安全な環境で飼育される猫ちゃんたちは、年々その平均寿命も伸びております。
ツキネコ北海道さまの提唱する永年預かり制度は、全国的にも波及されているところですが、読者のみなさまに向けて、保護猫を預かることについての素晴らしさをPRしていただけますとさいわいです。
吉井さん 永年預かり制度の対象者はシニア世代だけとは限りません。
金銭的に猫を飼うことが難しい。精神的な不安があり終生飼育できる自信がない。頼れる家族、友人がいない等々、様々な理由がある方のご相談もお受けしています。
厳しい譲渡条件を掲げて猫の譲渡を狭めるより、1日も早く、落ち着いて暮らせる場所を見つけてあげることが私たちの仕事であり使命だと痛感する日々です。
この永年預かり制度を初めてからの譲渡頭数は300匹になり、前年度は譲渡数の20%がこの制度を経ております。(永年預かり制度について)今までリスクを感じたことは全くありません。
全国にこの制度が広まることを願っています。
このように、吉井さんには永年預かり制度について具体的な数字を併せて実績を丁寧に説明していただいた。
厳しい譲渡条件を提示することも、もちろん後々のことを考えれば大切なこと。
ただし、独身男性NGを掲げたり、週に何度も電話で猫の状況を報告する義務付けがあるなど、条件が厳し過ぎて譲渡がそもそも成り立たないケースも各地で見受けられる。
他の保護団体では円滑に里親になることが出来なかったという方であっても、ツキネコ北海道では違う展開が期待出来る。
「ちょっと年齢的、体力的に他所では厳しい」と思って猫と暮らすことを諦めている方は、一度ツキネコ北海道に相談だけでも持ち掛けてみていただきたい。
適切に飼育出来る環境さえあれば、きっと前向きに永年預かり制度の対象者として見てくれるはずだ。
またツキネコ北海道では永年預かりだけでなく、各地から救出した猫たちの譲渡活動も熱心に行っている。
近隣にお住まいの里親希望者の方も、ぜひコンタクトをとってみては?
文/松本ミゾレ
【取材協力】
NPO法人 ツキネコ北海道
ツキネコ北海道運営「ツキネコカフェ」
定休日:毎週火曜日
営業時間12:00-18:00(予約制)
札幌市中央区北6条西25丁目1-6
TEL 011-641-8505