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【深層心理の謎】その時に聞いている音が視覚に影響を与えるのはなぜか?

2022.12.22

 バイクの排気音が聞こえてきた。大型単気筒エンジンならではの重厚なサウンドを響かせ、山手通りに繋がる道路から下りてくる大型バイクのシルエットが見えた――。

“ビッグシングル”の重厚な排気音を響かせるバイク

 練馬で乗った西武池袋線を椎名町駅で降りた。少し歩くつもりだ。夜7時半を過ぎている。道すがらどこかで軽く夕食にしてみてもいいだろう。

※筆者撮影

 駅の南口を出て通りを進む。本格的な冬はまだまだ先という感じだか、日が落ちればだいぶ寒くなってきた。それでも風がないので歩くのはまったく問題ない。

 後ろからやってきて追い抜いていったバイクは、前輪が2輪の3輪スクーターだった。ネットなどでは見かけていたが、実物を間近に見るのは初めてかもしれない。

 そもそもバイクに乗らなくなってからというものの、ニューモデルなどの情報にはすっかり疎くなってしまっている。街中のバイクにも以前よりはあまり注目しなくなっていることは否めない。

 離れて見るグレーのカラーリングの大きな車体は高級感があってなかなか所有欲をそそられるバイクといえそうだ。てっきり250㏄かと思っていたら、緑枠のあるナンバープレートなのでけっこうパワーもあるということだろう。

 そんなことを思っているうちにその3輪スクーターは少し先の十字路を左折していき見えなくなった。

 スクーター軽快な排気音が聞こえなくなってくると、奇遇にも今度は“ビッグシングル”の重厚な排気音が前方から聞こえてきた。

 山手通りから分かれる脇道を下りてくる車体が視界に入ってくる。大排気量単気筒エンジンのレトロ感のあるサウンドを聞くのもまたかなり久しぶりのことだ。

 新車登録台数などのデータからも明らかなのだとは思うが、スクーターやスーパーカブ以外のバイクを見かけることがますます少なくなっている。東京都内でそう思えるくらいなのだから、ちょっと郊外へ行けばバイクなどほとんど走っていないのだろう。

 バイクの排気音が前から近づいてくる。視線を前に向けると思わず目を疑った。遠目で大型バイクに見えていた車体は、小型自動二輪の中でも特に小さい、猿の英語名で知られるバイクだったのだ。

 我ながらなんという見間違いなのか。しかしその独特の排気音は紛うことなくそのバイクから発せられているものだった。それもそのはずで、こちらに近づいてくる車体をよく見るとなかなか目立つ太いマフラーに交換してあった。

 “ビッグシングル”ではなかったのだが、なかなか味のある排気音を響かせてバイクが通り過ぎていった。

音声が視覚認識を変え得る

※筆者撮影

 換えたマフラーの排気音で大型バイクだと誤認したのは仕方ないのないことだともいえるのだが、遠目に見た時のバイクは確かに大型バイクのようにも見えた。

 音を聞いて大型バイクだと思い込んでしまったことが見間違いの原因なのだろうか。最新の研究では、我々の視覚認識はその時に聞いている音に影響を及ぼすことが報告されていて興味深い。サウンドによって見間違いが生じることはじゅうぶんに起こり得るというのだ。


 自然な音がノイズの多い視覚入力とペアになっている心理物理学的タスクを使用した2つの実験で、あいまいな視覚オブジェクトの表現が付随音に関連したオブジェクトの視覚的特徴に向かってシフトすることを実証しました。

 一連の対照実験で、これらの効果は決定や反応の偏りによって引き起こされたものでもなければ、事前の期待によるものでもないことがわかりました。

 代わりにこれらの効果は、知覚自体の間への視聴覚入力の継続的な統合によって引き起こされました。

 加えて私たちの研究結果は、視覚オブジェクトの知覚体験が自然な聴覚コンテキストによって直接形作られ、視覚世界に関する独立した特徴的な情報を提供することを示しています。

※「SAGE Journals」より引用


 スイス連邦工科大学ローザンヌ校とカリフォルニア大学サンディエゴ校の合同研究チームが2022年9月に「Psychological Science」で発表した研究では、視覚認識は単独で実行されるのではなく事前の知識とコンテキストに依存し、音声が視覚認識を変え得ることを報告している。

 ある種の「鳥」を遠目でかつ視界不良な条件で見るとある種の「飛行機」と見間違えることがあるかもしれない。

 しかし耳が聞こえる状態で見た場合、たとえばカァー、カァーと鳴きながら飛ぶカラスを、ジェットエンジンの轟音を響かせて飛行する戦闘機と見間違えることはあり得ない。

 ではもし空にカァー、カァーという鳴き声が響いている状態で静かに飛ぶ戦闘機を目撃したらどうなるのか。

 これを検証するために研究チームはモーフィング技術を用いて鳥と飛行機の図の中間画像をいくつか作成した。つまり鳥と飛行機の要素が半々の中間画像に加えて、鳥に寄った中間画像と飛行機に寄った中間画像がいくつか用意されたのだ。

 実験参加者は適時、鳥の鳴き声か飛行機のジェットエンジン音を聞かされた状態で画像を見せられて、その画像がどちらであるかを報告したのである。

 収集したデータを分析した結果、鳥の鳴き声が再生されている状態では鳥の視覚認識が優先され、より素早く鳥の画像を認識し、さらに中間画像を鳥であると認識する傾向が強まっていたのである。これはもちろん飛行機でも同じ結果であった。

 続いて音声を再生するタイミングが参加者の意思決定中と、画像が表示される直前というバージョンでも実験が行われたのだが、どちらにおいてもこの現象は起きないことが確かめられた。つまり音声と画像が同時に表現されている時のみに起きる現象であることになる。

 さっき見た2台目のバイクは確かに排気音と車体をほぼ同時に認識して大型バイクであると見間違えてしまっていた。独特で重厚な排気音のサウンドが視覚認識に影響を及ぼし、たとえ一瞬であれ認識される車体のサイズを変えていたということになりそうだ。

町中華店でシイタケ入りの生姜焼きを賞味

 山手通りの下を潜り抜けて反対側の住宅街に出た。左に伸びる路地を進む。

※筆者撮影

 通りの左側にコインランドリーと銭湯がある。銭湯の入口周辺のファサードが黒を基調にしていてお洒落というかシックだ。この銭湯には入ったことはないのだが、ここにずっと前からあることは知っていた。それまではもっと素朴な外観だったのだが、最近リニューアルされたということなのだろう。

 ここはサウナもある銭湯なので、昨今のサウナブームに乗って他所からも人が集まっていそうである。

 そういえば落合駅近くの早稲田通りから区検通りに入ってすぐのところにある銭湯もリニューアル後がらなかなかの人気を集めているようだ。けっこう前から都内の銭湯は減りつつあるわけだが、サウナを設けてリニューアルすることができればチャンスはあるのかもしれない。

 通りのさらに先の右手には酒屋があり、店先に置かれている椅子に座ってタバコを吸っている人の姿があった。ひょっとすると銭湯を出てきたばかりの人がここでタバコを吸っているのだろうか。

 その先の路傍には小さな電光看板が置かれている。どう見ても飲食店のものだ。店の前にはノボリも立っている。近づいていくとノボリには「らーめん」と記されていて町中華の店であることがわかる。この先歩いても目白駅周辺までは飲食店はないだろう。入ってみるしかない。

 自動ドアを開けて入ってみると、それほど大きくないテープルが4卓ある小ぢんまりとした店内だ。先客には常連らしき中年のカップルがいてお酒を飲んでいた。2階にあがる階段もあって、団体客は2階に上がることになるのかもしれない。

 当然想定できたもののやっぱりなかなかのアウェイ感であったが、お店の人に好きな席に着くようにと促され、テーブル席の1つに座った。テーブルそのものは4人掛けではあるとは思うが、卓の一角が店内の柱の出っ張りにかかっているので3人掛けになる。

 コップの水を持って来た店員さんに、店内の壁に貼り出されている写真付きのメニュー中から豚肉の生姜焼き定食をお願いする。何だか最近は生姜焼きばかり食べている気もするが、当然だがお店ごとにいろんな出来栄えで興味深い。

※筆者撮影

 入口の天井近くに架かっている液晶テレビで流れているバラエティ番組をぼんやり眺めていると生姜焼き定食がやってきた。ボリュームがあって食べ応えありそうだ。ご飯と中華スープ、小皿には漬物も盛られている。さっそくいただこう。

 生姜焼きには豚肉もたっぷり入っているが、いろいろと具沢山でシイタケも入っている。一番最近でシイタケを食べたのはいつのことなのかを思い返してみるがちょっと見当がつかない。居酒屋のお通しの煮物や、弁当の副菜の具材にシイタケが入っていたような気もするが、それも確たる記憶ではない。

 エノキダケやブナシメジなどはたまにスーパーで買ってきて味噌汁などに入れて食べたりもするが、シイタケはなかなか意識的には食べることはない。天ぷらや串揚げを好んで食べるほうではないのでなおさらだ。したがってこうした機会に食べられるのは単純に有難い。

 お客が入ってきた。黒いダウンジャケットを着た40歳前後くらいの男性でボトムズはスウェットパンツにクロックス系のサンダルだ。地元の常連客なのだろう。湯上りのような赤らんだ顔をしていて、七三に分けた髪もドライヤーで乾かしたばかりのような脂っ気のなさで、明らかに銭湯帰りだ。

 男性は席に着くなり、ラーメンとチャーハンのセットに加えて生ビールを注文した。風呂上がりに飲むビールは格別だろう。今度は自分もあの銭湯のサウナで汗を流してからここでビールと生姜焼き定食を食べてみたいものである。さてこのお客は届いた生ビールの最初のひと口をどんな表情で飲むのか、不謹慎ながらも何気なくチェックしてしまいそうだ。

文/仲田しんじ

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