■連載/阿部純子のトレンド探検隊
猿払村の廃棄ホタテ貝殻から作った日本初の環境配慮型ヘルメット「HOTAMET」
北海道猿払村と大阪市の甲子化学工業は、水産系廃棄物のホタテ貝殻を再利用した環境配慮型ヘルメット「HOTAMET(ホタメット)」を、12月14日から「応援購入サイト Makuake」にて先行予約販売を開始した。
ホタメットは、甲子化学工業と大阪大学 大学院工学研究科の宇山浩教授のチームが共同で開発を行った、ホタテの貝殻と廃プラスチックを組み合わせた“オールごみ由来”の新素材「カラスチック」で作られた製品だ。
国内の水産物で輸出額が最も多いのがホタテで、日本最北の村である北海道猿払村は天然ホタテの水揚げ量がトップクラスの国内有数の生産地。その一方で、猿払村が位置する宗谷地区では、ホタテを加工する際に水産廃棄物として年間約4万トンの貝殻が発生しており、その有効活用については長年の課題となっている。
「2021年にはホタテ貝殻再利用を目的とした輸出が途絶えて、地上保管による環境への影響や堆積場所の確保などが地域の課題となっていました。ホタテの貝殻も村を支える重要な資源と捉えて何か新しいことができないかと模索していたところ、エコプラスチックの研究・製造をしている甲子化学工業さんから、廃棄貝殻を使用したプロダクトを一緒に作りたいとお話をいただきました。このお話をありがたく受け止め、共に再資源化の取り組みを始めました。
外敵から身を守るという役割を終えたホタテの貝殻が、廃プラスチックと共に作り出されたホタメットに生まれ変わり、ヘルメットとして人々の頭を守る存在になることで、持続可能な社会の実現に寄与できると考えています」(猿払村 伊藤浩一村長)
ホタメットの開発・製造を行っている甲子化学工業は1969年創業のプラスチックメーカー。持続可能な社会が叫ばれる中、石油由来プラスチックを活用する企業の責務として「プラスチックの良さ、悪さを理解し、社会に良い影響を与える」活動を積極的に行っている。
新型コロナが拡大した2020年には大阪大学と共同で約20万個のフェイスシールドを全国の病院に寄付。また、同社の技術を活かし、卵の殻にプラスチックを混ぜたエコ素材の取り組みをSNSで発信していた際に、猿払村のホタテ貝殻廃棄問題を知り、約1年かけてカラスチックを開発した。
「ホタテ貝殻は、有償で処理業者に引き取られて処分されていますが、野積みとなる場合も多く、異臭や環境への影響が心配されており、ホタテや牡蠣の産地共通の課題となっています。近年の統計ではリサイクル比率が高いとの報告もあり、漁礁や建築資材、肥料等、多方面においてリサイクルが進められてきたものの、恒常的で有効な利用法はまだ確立されていないのが現状です。
当社ではホタテ貝殻の主成分が炭酸カルシウムであることに着目し、新素材の材料となるのではないかと考え、猿払村に貝殻を無償でご提供いただき、新素材の開発に着手しました。新素材『カラスチック』はホタテの殻とプラスチックを組み合わせた名の通り、ホタテ貝殻と、工場で生産する際に出る端材などの廃プラスチックを約30〜50%ずつ組み合わせた、オールごみ由来の新素材です。
新品のプラスチック100%利用と比較して、最大で約36%のCO2削減を実現。石灰石由来のエコプラスチックと比較して、約20%のCO2削減が可能になりました。
ホタテの貝殻の成分である炭酸カルシウムは樹脂に混ぜると耐衝撃性、曲げ弾性率が向上することが知られており、強度となる曲げ弾性率は通常のプラスチックと比較して約33%向上するなど、環境への負荷を減らすとともに、耐久性も備えた素材です」(甲子化学工業 企画開発部 南原徹也氏)
自然界の仕組みを応用し、技術開発に活かす「バイオミミクリー(生物模倣)」に基づき、ホタテ貝の構造を模倣した、特殊なリブ構造をデザインに取り入れている。その結果、少ない素材使用量でありながら、リブ構造が無い場合と比較して、約30%も耐久性を向上。貝殻のようなフォルムは見た目の美しさも維持しながら、機能的にも考慮されたデザインになっている。
ホタメットは猿払村のある宗谷地区と内浦湾地域のホタテ貝殻を使用。リサイクルすることも可能で、回収したヘルメットを粉砕し、一部にプラスチックを使って物性を確保したうえで循環利用することができる。
同社では初のヘルメット製品とのことで、販売目標は年間1万個。海にまつわる色を揃えたカラーバリエーションはCORAL WHITE(白)、SAND CREAM(ベージュ)、DEEP BLACK(黒)、OCEAN BLUE(青)、SUNSET PINK(ピンク)の5色。価格は4800円。
猿払村内では約270名が漁業に従事しており、日常的にプラスチックヘルメットを着用している。ホタテ漁は危険と隣り合わせであることから、ホタテ漁師の安全を守るヘルメットをホタテの貝殻から作れないかという発想から生まれたのがホタメットで、2023年春よりホタメットを試験的に導入していく。また、防災用品としての備蓄、一般販売も順次展開する。
「ホタテの貝殻の本来の役割である外敵から身を守るという考え方をベースに、近年は異常気象により災害リスクも高まっていることから、ホタテ漁師の方々だけでなく、村民の方々の身を守る防災ヘルメットとしても活用いただきたいと考え、製品化に至りました。
漁師や村内の防災備品として使っていきますが、道内外に関わらず各企業や他の自治体でも、ヘルメットの更新時期にぜひご検討いただければと思っています」(南原氏)
【AJの読み】外敵から身を守る役割を終えたホタテの貝殻が人々の頭を守るヘルメットに変身
猿払村は来年1月で開村100周年を迎える。総面積590k㎡で北海道の村としては最も広く、全国でも二番目の広さ。日本有数の水揚げ量を誇るホタテを中心とした漁業と、牛乳やバターの酪農が基幹産業。北に約6㎞、南に約8㎞の直線道路が伸び、全線に渡りガードレールや電柱が1箇所も無い「エサヌカ線」はライダーの聖地とも言われる、幻の魚と称されるイトウが生息する川など、人口約700人の小さな村だがたくさんの魅力がある。
ホタメットは貝殻を模倣したリブ構造によりデザイン性も高く、かつ強度も上がっているのが特長。ベルトで調整可能でサイズ対応は頭囲 53~62cmと小学生や女性でも使える。Makuakeにて現在先行予約販売中で、本販売は2023年3月の予定。
また、猿払村のふるさと納税の返礼品としての導入も予定しており、猿払村ふるさと納税大使を務める長州力さんからメッセージが寄せられた。
「どうですか?似合っていますか?このヘルメット、ホタテにそっくりでしょう!貝殻のようにみなさんの頭をきっと守ってくれますよ。かぶってみな!守るぞ!」
文/阿部純子