ギリシャ神話を語源とする『パンドラの箱』は、故事成語として日常的に使われます。パンドラの箱の用例や類義語、英語での表現を解説した上で、同様にギリシャ神話を語源とする『アリアドネの糸』『トロイの木馬』についても紹介します。
「パンドラの箱」の語源はギリシャ神話
『パンドラの箱』はギリシャ神話のエピソードを語源としており、故事成語としても使われる言葉です。ギリシャ神話で語られるパンドラの箱に関するエピソードや、故事成語としての意味・例文を紹介します。
「パンドラ」とはどんな人物?
『パンドラ』は、ギリシャ神話に登場する人物の名前です。ギリシャ神話のパンドラは、粘土から造られた人類最初の女性です。プロメテウスに罰を与える目的で、ゼウスがヘファイストスに造らせました。
パンドラの意味は『すべての贈り物を与えられた女性』であり、その名前の通り、パンドラは美貌をはじめとするあらゆる魅力を神によって授けられました。一方で、その内面には『恥知らずの心』『虚言』などの性質が入れられていました。
プロメテウスの弟であるエピメテウスがパンドラを妻としたことにより、人類は以後、すべての不幸の原因となる女性とともに暮らさなければならなくなったとされています。
故事成語「パンドラの箱」の意味は?
このパンドラによるエピソードこそが、パンドラの箱です。ゼウスの命令によって人間界に送り込まれたパンドラは、絶対に開けてはいけないと強く言いつけられた『箱(実際は壺)』を持っていました。
『開けてはいけない』という言いつけよりも好奇心が勝ったパンドラは、その箱を開けてしまいます。すると箱の中からは、考えうるすべての災い(犯罪・病気・不幸など)が飛び出し、以後人間はこれらの災いとともに生きていくこととなりました。
パンドラが慌てて箱を閉めたところ、箱の中には『希望』だけが取り残された、というのが、ギリシャ神話で語られたエピソードです。
このエピソードから、パンドラの箱は『さまざまな災いを引き起こす原因となるもの』という意味の故事成語として使われます。
「パンドラの箱」を使った表現を紹介
故事成語としてのパンドラの箱は、具体的にどのように用いるのでしょうか。例文とともに確認しましょう。
- 例の取引に関する話題はAさんにとってパンドラの箱なので、絶対に聞いてはいけない。
この場合、パンドラの箱は、災いのもとの象徴として用いられています。『相手の機嫌を損ねること』『触れない方がいいこと』という意味と考えましょう。
- 注意していたのに、うっかりBさんに言ってはいけない彼の名前を出してしまい、パンドラの箱を開けてしまった。
『取り返しのつかないことをする』という意味で、『パンドラの箱を開ける』という表現を使うケースもあります。
「パンドラの箱」に関わる各種情報
パンドラの箱にはいくつかの類義語があり、もちろん英語でも使われる言葉です。三つの類義語の意味・例文とともに、英語での表現についても例文と一緒に確認しましょう。
類義語は「タブー」「禁忌」「禁句」
『タブー』は『言ってはいけないこと・やってはいけないこと』という意味です。『この会社でC社の話題を出すのはタブーである』『最大のライバルチームに移籍することはタブーです』といった使い方をします。
『禁忌(きんき)』の意味は、『忌み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりすること』です。『この国では、女性が肌を露出するのは、宗教上の禁忌を破る行為になる』のように使います。
『禁句』は『使ってはいけない言葉』という意味です。聞いた相手の気分を害さないために避けるべき言葉で、『彼の前では結婚は禁句です』のように使います。
英語では「Pandora’s box」
パンドラの箱は、英語では『Pandora’s box』という表記です。そもそも日本語の『パンドラの箱』は英語から転じているので、『Pandora’s box』の意味や使い方は日本語と同様です。
英語においても『さまざまな災いを引き起こす原因となるもの』という意味でも使われます。
【例文】
- Eventually, he opened a Pandora’s box.(ついに彼はパンドラの箱を開けてしまった)
- It might be a Pandora’s box for her family.(それは彼女の家族にとってのパンドラの箱かもしれないな)
ギリシャ神話を語源とするその他の表現
パンドラの箱と同様に、ギリシャ神話を語源とする故事成語は多々あります。その中で、よく使われる二つの言葉について、由来となるギリシャ神話のエピソードと意味を確認しましょう。
「アリアドネの糸」の由来とその意味
怪物ミノタウロスを倒すために、テセウスは迷宮に入ろうとします。しかし、迷宮内は非常に入り組んでいるため、脱出する方法に悩んでいました。
すると、アリアドネという少女が糸を張りながら迷宮内を進み、帰りはその糸をたどって戻ればいいと教えてくれました。そのアドバイスに従い、テセウスはミノタウロスを倒し、無事に戻れたのでした。
このエピソードから、故事成語としての『アリアドネの糸』には、『困難な状況から脱出する際に、道しるべとなりうるもの』を意味した比喩表現として使われます。
「トロイの木馬」の由来と用例
強固な守りを誇る『トロイ』を攻めるために、ギリシャは一計を案じ、内部にギリシャ兵を忍ばせた巨大な木馬を準備しました。
木馬をトロイ城内に運び入れることに成功すると、潜んでいたギリシャ兵がトロイの城門を開け、多くのギリシャ兵が場内になだれ込みトロイの陥落に成功したというのが、ギリシャ神話のエピソードです。
マルウェア(悪意のあるソフトウェア)の一種である『トロイの木馬』は、安全なプログラムと見せかけユーザーを油断させた上で、システム内部に侵入します。
その後、システムに不正にアクセスできるルートを勝手に作り、別のコンピューターウイルスをダウンロードしてユーザー情報を盗むといった行為を働きます。
こうした挙動がギリシャ神話のトロイの木馬に似ていることから、この名前で呼ばれるようになりました。
構成/編集部