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【深層心理の謎】過去のポジティブな思い出に浸ると幸福感を感じるのはなぜ?

2022.12.17

 左手を上げて手首に目を落とすと、その腕時計が当然のように巻かれていた。自分が自分であることを確認する瞬間だ――。

見つかった腕時計を着けて自分を取り戻す

 午前中から区役所に行って用事を済ませると、雲一つない快晴の空の下でこのまま直帰する気になれず、東池袋駅界隈まで歩いてしまっていた。ちょうどお昼だし、どこかで何か食べて帰るとしようか。春日通りを横断すべく赤信号を待つ。

 信号を待つ間、半ば無意識に左手を上げて腕時計を一瞥した。ちょうどお昼だ。……というよりも、腕時計の文字盤を見てささやかながらも嬉しさがこみあげてきた。無くしたと諦めていた腕時計が先日出てきたのだ。この腕時計をこうして再び着けられることは純粋に嬉しい。

※筆者撮影

 信号が青になり歩きだす。ともあれ腕時計が見つかってよかった。完全に諦めていただけに嬉しさもひとしおだ。「おかえり!」と言いたくもなる。

 特別高級な腕時計ではないのだが、20年ほど前に購入したこのダイバーウォッチにはある個人的な思い入れがあり裏蓋には名入れがしてある。

 見つかる前のこの半年ほどは電波ソーラーのデジタルウォッチを着けていたのだが、やはりこの腕時計を着けている自分こそが本来の自分なのだと思えてくる。

 腕時計については苦い思い出もある。ずいぶん前のことではあるが仕事に忙殺されていたある日の朝、もうすぐゴミ収集の時間ということで慌てて部屋の燃えるゴミをまとめて外に出したのだが、テーブルの上にあった腕時計が何かの拍子にゴミ袋の中に落ちてしまっていたのだ。

 その日遅くなってからその腕時計がないことに気づいたのだが完全に後の祭りだった。わりと気に入っていた腕時計だったのでけっこう落ち込んだ。

 そうした苦い経験をしていることもあって、この腕時計についてもそれに近い状況で無くしてしまったのだと完全に諦めていたのだが、先日、長らく使っていなかったバッグを取り出して開けてみると、なんとこの腕時計があったのだ。

 何かの折に外した腕時計をバッグに仕舞っていて、それをすっかり忘れていたのだ。ともあれこうして再びこの腕時計を着けられてよかった。時計と共に自分を取り戻した気分にもなる。

 この腕時計を買った頃の記憶もまたよみがえってくるのだが、まぁいろいろと愚かなところもあったがおおむね楽しかったといえそうだ。

 後にも先にも二度と味わうことのない経験もいくつかあった。当時の仕事仲間とよく行っていた居酒屋や焼肉屋の光景や、ヒットソングのメロディーも思い出されてくる。実はそれほど行動範囲は変わっていないともいえるのだが、仕事の状況は今とは大きく違っていたことは事実だ。

 その意味ではやはりどうしたって昔には戻れないといえるのだが、こうした機会に少し思い出して懐かしさに浸ってみるのも悪くはない。そしてそれは単純な現実逃避ではないようにも思える。

ノスタルジアは“本当の自分”と結びついている

 横断歩道を渡る。最近できたタワーマンションがかなりの存在感だ。なんとこのマンションの地下は東京メトロ有楽町線・東池袋駅に通じている。都電荒川線の東池袋四丁目駅もすぐなので、なかなか交通の便もよい。この辺からなら散歩がてら池袋や大塚まで歩いたっていい。

※筆者撮影

 腕時計の一件をきっかけに20年前の懐かしい記憶がよみがえってきて少しばかりいい気分になることができた。

とはいっても楽しかった思い出に浸ってばかりもいられないのだが、最新の研究では過去のポジティブな思い出に浸って心理的な幸福がもたらされるのは、それが自分が本当の自分と一致しているという感覚である「真正性(authenticity )」が強まるからであると説明している。


 過去への感傷的な憧れであるノスタルジアは、心理的幸福(PWB)を予測または増強します。私たちはそれが少なくとも部分的には、真正性、つまり自分が本当の自分と一致しているという感覚を介してそうなると仮定しました。

 4つの研究でこの仮説の支持を得ました。西洋(米国)と東アジア(中国)の文化を横断する仲介の測定デザインを使用して、懐かしさは真正性とPWBの両方に関連付けられており、懐かしさとPWBのリンクは真正性によって媒介されることがわかりました。

 実験的因果連鎖デザインを使用して、ノスタルジアが米国と中国のサンプル全体で真正性を高めることを示しました。次に真正性がドメイン一般測定でPWBを増加させることを実証しました。

 最後に真正性がPWBにもたらす利点は、ドメイン固有ではなく、ドメイン全体であることを明らかにしました。この研究は懐かしさから真正性を介してPWBへの道を体系的に扱う最初の試みを表しています。

※「ScienceDirect」より引用


 英・サウサンプトン大学、米・ウィッテンバーグ大学、中国・北京師範大学の合同研究チームが2022年6月に「Journal of Experimental Social Psychology」で発表した研究では、懐かしさは真正性を強めることで「心理的幸福(psychological wellbeing、PWB)」をもたらしていると説明している。

 過去の楽しかった思い出に浸ることは、ややもすれば現実逃避の誹りを免れないのだが、研究チームによればノスタルジアが自分という存在の真正性を強めるケースにおいて、心理的幸福に結びついていることを報告している。

 約2400人(約50%がアメリカ人、33%が中国人、17%がイギリス人)が参加した4つの実験のうちの1つでは、ノスタルジアとPWB、そして真正性の関係が確認され、真正性は「自分が本当の自分と一致しているという感覚」と定義された。

 2番目の実験ではノスタルジアが真正性を強めることが実証され、3番目の実験では、真正性がPWBを増加させることがわかり、最期の実験では真正性がすべての幸福の要素(社会的関係、活力、能力、人生の意味、楽観主義、主観的幸福)でPWBを増加させることが判明した。

 懐かしい思い出でちょっとした幸福感が得られるのは現実逃避というよりも、自分が自分であることの確認ができるからであるということになる。

 20年前に買った腕時計もまた単に懐古趣味で着けているというよりも、その腕時計を着けている自分こそが“本当の自分”であると感じられるからであるともいえそうだ。

お得なランチメニューの刺身定食を味わう

※筆者撮影

 路地を進んだ突当りは道が左右に伸びるT字路になっている。右に伸びる通りの少し先には渋い日本家屋の飲食店があった。寿司屋だ。海鮮系なら今の気分にぴったりだ。

 店先に置かれた立て看板にランチメニューが記してある。「ちらし」に「鉄火丼」、「刺身定食」、「まぐろ寿司」が選べるようだ。刺身定食がいいかもしれない。入ってみることにしよう。

 寿司屋としかいいようのない渋いインテリアで、年季の入った木製カウンターが厨房を囲んでいる。奥のほうに小さなテーブル席もあるようだが、メインはこのカウンターなのだろう。先客は1人で明らかに常連さんのようだ。

 カウンター席に着かせていただき、まさに大将という呼び方がぴったりの60代半ばくらいの男性店主に刺身定食をお願いした。見たところこの大将が1人で切り盛りしているようだ。

 続けざまにお客が2人入ってきた。いずれも近くの会社で働いているに違いない中年男性だ。だいぶカウンターは埋まってきていて、アクリル板などは設置していない店ではあるが、あと1人、2人来たらだいぶ窮屈にはなりそうである。まぁその時はその時だ。

 目の前の台の上に刺身が盛られた皿が置かれ、続いてご飯の丼に味噌汁が入ったお椀、漬物の小皿とヒジキ煮の小鉢が置かれる。

 自分でそれらの皿やお椀を手元に置いてから食べることになる。食べ終わった際には食器類をカウンターの高台の上に置くようにとの但し書きの紙が箸入れ箱に貼られていた。

※筆者撮影

 自分で皿を並べ終えたところで、さっそくいただくことにしよう。マグロの赤身からつまんでいく。刺身は見た目以上に量があって食べ応えがある。急がずにゆっくり食べよう。

 食べながら腕時計を見る。昨日まで着けていたデジタルウォッチではないのだ。愛着のある文字盤を再び眺めることができて本当によかった。いやもちろん時間をチェックしているわけだが、一般的なオフィスワーカ―の昼休憩はもうすぐ終わりそうである。

 自分も会社員時代は広い意味でのオフィスワーカーであったが、昼休憩は任意で取ってよい環境だったので食事の時間はあまり気にしたことはなかった。

 だがそれだけにランチの時間帯のお得なメニューにありつくことが少なかったのはやや悔やまれることかもしれない。しかしまぁそもそもその頃は昼の食事については基本的には無頓着であった。

 とすればむしろ今のほうがいろんなお店のお得なランチメニューを楽しめる機会に恵まれているのかもしれない。今日のような快晴のお昼時にはなおさらのこと、こうして美味しくてお得なランチを楽しんでいきたいものである。

文/仲田しんじ

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