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次世代CPU「Snapdragon 8 Gen 2」から読み解くスマートフォンの進化と主導権争い

2022.12.17

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、クアルコム社のイベント「Snapdragon SUMMIT」にて発表された次世代CPU「Snapdragon 8 Gen 2」について話し合っていきます。

次世代ハイエンドチップセット「Snapdragon 8 Gen 2」発表

房野氏:クアルコムが開催したイベント「Snapdragon SUMMIT」にて、2023年に発売されるハイエンドスマートフォンの多くに搭載されるであろう、「Snapdragon 8 Gen 2」が発表されましたね。石川さん、石野さんは現地で取材されていましたが、簡単にポイントを教えていただけますか?

房野氏

石川氏:Snapdragon 8 Gen 2の特徴としては、「カメラ」「AI」「ゲーム」などがあげあられますが、まず注目したいのが、これまでの同イベントは「Snapdragon Tech SUMMIT」という名前だったのに、今回は〝Tech〟が取れた。。それぞれの機能も、カメラは「Snapdragon Sight」、AIは「Snapdragon Smart」、通信関連は「Snapdragon Connect」といったように、「Snapdragonブランド」を推している。クアルコムの人もいっていたけど、もうスペックを語っても伝わらないので、それよりも「ユーザー体験」をアピールしています。

石川氏

石野氏:今回は、これまでにも増して数字じゃなくて体験を伝える方向でしたね。

石野氏

房野氏:クアルコムはかなり中国を意識してイベントを開催しているとのことですが、ユーザー体験を重視し始めたのも、対中国的な戦略なのでしょうか。

石川氏:Snapdragonのイベントはハワイで開催されますが、もともとなぜハワイなのかというと、中国のマスコミや関係者を呼びたいからです。今回はコロナの影響もあって、中国からは来ていませんでしたけどね。

珍しいのは、こういったイベントは普通朝からやるのに、Snapdragon SUMMITは現地時間の午後1時から開催されている点。中国の朝に時間を合わせています。我々は日本から行っていますが、日本向けにアピールしても、ターゲットはシャープとソニーくらいで、世界的なシェアは少ないので、クアルコムとしては、中国のOPPO(オッポ)やXiaomi(シャオミ)にいかに買ってもらえるかを重視しています。

石野氏:ちなみに、中国でSnapdragon SUMMITを中継している会場は、「中国のハワイ」と呼ばれている場所なんですよ。わざわざ中国国内でハワイに近い場所を用意しているわけで、「クラルコムってどれだけハワイが好きなんだよ」とも思いましたね(笑)

房野氏:「中国のハワイ」に人を集めて中継しているんですね。

石野氏:そうみたいです。こだわりすぎていて衝撃を受けましたね。Snapdragon 8 Gen 2に話を戻すと、石川さんがおっしゃった通り、スペックの話はほとんどなかったのが印象的です。「CPUが○○%高速化」のような、定番の見せ方も、最後にちょっとしただけで、なにができるのかを重視しています。カメラでいうと、「セマンティックセグメンテーション」という、シャープやアップルがやっている機能について説明していて、これを使えば、人物と空と芝生のそれぞれに最適な処理ができる、これからビデオ撮影にも使えるようになる、といったように、なにかと実例を出しています。

あと、ソニーのセンサーを使うとこんなことができる、サムスンのセンサーを使うとこんなことができる、といった話もありましたね。

石川氏:今回、ソニーの人もイベントに登壇して、センサーとチップがいかに連携するかという戦いになってきていているので、開発の段階から、お互いに意見を出して作っているみたいです。OSやハードウエア、チップを連係させているアップルに対抗するために、部品の開発から垂直統合モデルとしてやっていく必要があります。

一方で、クアルコムとしては、ソニーとサムスンを天秤にかけている状態。ソニーはというと、クアルコムと仲が良い一方で、対抗メーカーのメディアテックともうまくやっているし、表には出ないけどおそらくアップルとも仲が良い。各社、表では仲が良いけど、意外とライバルとして競い合っています。

石野氏:アップルの場合は、チップや端末を自分たちで作りつつ、カメラセンサーはソニー。かなりの規模で発注していることもあって、当然カスタマイズをかけているので、Aシリーズ(iPhoneに搭載されているチップセット)との最適化を散々やっています。

このアップルに他メーカーが対抗しようとすると、端末数がiPhoneよりも少ないので、カスタマイズといった要望をソニーがなかなか受けてくれない。そこをクアルコムが担当することで、Androidスマートフォン全体の底上げには繋がると思います。

房野氏:Snapdragon 8 Gen 2がユーザー体験を強く打ち出していますが、スマートフォンでの体験はどれくらい変わるのでしょうか。

石川氏:例えば、ゲームをしている時に水の反射がすごくきれいに映るといった機能が紹介されています。

石野氏:見た感じは結構変わりますよね。

石川氏:変わりますけど、別になくてもゲームはできる(笑)

法林氏:ゲームはなんのためにするのかという話だよね。今のグラフィックはもともとすごいので、必要かといわれると難しい。

法林氏

石川君、石野君もいっていた通り、今パフォーマンスの話ばかりをしてもユーザーが付いてこないことは、クアルコム自身もわかっているので、ユーザー体験を打ち出している。例えばGoogle Pixelシリーズの「消しゴムマジック」のような機能が、今後Snapdragon を搭載したスマートフォンならどれでもできるようになるかもしれない。グーグルが「Googleフォト」の機能として追加するかは疑問だけど、環境として、チップセットやイメージセンサーなどをセットにして、トータルでコントロールできるようにしていくと、ユーザー体験が良くなっていく可能性はあります。

房野氏:AI機能の強化もポイントのようですが、具体的にどのような機能がありますか?

石野氏:カメラの話があるのと、音声認識機能がかなり強化されていますね。すごく長い質問でも、しっかりと解析できるようになります。

法林氏:完全にグーグルのTensor対抗だよね。クアルコムが頑張れば、ほかのメーカーのスマートフォンでも、似たような機能が使えるようになる。

石野氏:面白いのは、グーグルは先にソフトウエアがあって、それを動かすためのチップを作ったけど、クアルコムはチップだけを作って、ソフトウエアは他メーカーに任せている。攻め方が違います。

石川氏:アップルやグーグルはハードウエア、ソフトウエアの両方をやっているので、そこに対抗するのは大変だよねという話ですね。

房野氏:グーグルといえば、2021年から自社開発チップをPixelに搭載しています。ほかにも、メディアテックのCPUを搭載する端末が増え、「脱クアルコム」のような動きも見られていますが、この辺りはいかがでしょうか。

石野氏:そうですね。実はSnapdragon SUMMITの数日前に、メディアテックもハイエンド向けのチップを発表してますし、Google Tensorも無視できない状況です。あと、クアルコムはアップルのモデムを作っていますが、それもいつ切られるかわからない。収益的には昔ほどの安定感はないかな。

石川氏:スマートフォン単体で見るとそうなんだけど、今回もARグラス向けのチップが発表されていたり、今後車関連の発表もあるはず。ARグラスのサイズ感で通信をして、省電力で動かすとなると、やっぱりSnapdragonのチップということになるでしょうし、車でもコネクテッドカーをやるのであれば、Snapdragonが強い。クアルコムとしては、スマートフォンをやりつつ、いかに他のデバイスをやっていくのかが重要。ここで足りない要素がブランド力なので、今回の発表のようにSnapdragonブランドを推していくことで、「あれもこれもSnapdragon」という環境を作っていきたいんだと思います。

石野氏:そうですね。通信キャリアと同じで、スマートフォンだけでは儲からなくなってきているので、いろいろ手を広げていきたいということでしょう。

房野氏:Snapdragonとしては、スマートフォンのリファレンスモデルも作っていますが、今後自社でイヤホンのような別のデバイスを展開することはないのでしょうか。

法林氏:クアルコムが何で儲けている会社なのかという話です。昔はいろいろやっていましたが、自分の会社で作って売りに行くという時代ではなくなってきていています。例えばカメラはソニーと協業してやっていますが、スマートフォンにはカメラが欠かせないもので、カメラの性能によってスマートフォンの価値が変わるからこそです。他社との結びつきは大切で、イメージセンサーでいうとサムスンもいるし、チップセットでいうとメディアテックもいるので、強い人同士でちゃんと結びついていこうねという考え方です。

房野氏:PC業界でいうと、インテルに一時期ほどの勢いがなくなっているように、Snapdragonにも同じような印象があるのですが、いかがでしょうか。

法林氏:おっしゃる通り。行き詰っているのでしょう。いまPCを買う時に、搭載CPUがインテルの第何世代かがわからない、気にしていないという人が多い。PCを購入する際に、CPUで選ばなくなって、気が付いたらAMDが勢いを増してきた。グラフィック周りも、ゲームをするならNVDIAだろうと、良いグラフィックボード買う人が増えた。CPUにそこまでの性能を求めなくなったので、デスクトップ型のものではなくて、モバイル向けのCPUでも十分という人が増えている。

この図式をスマートフォン業界に当てはめると、性能で勝負してきたクアルコムとしてはまずい。だからこそ、今回のイベントではユーザー体験を強く打ち出してきています。ただ、厳しいことを言ってしまうと、クアルコムがユーザー体験を提供しているわけではなくて、メーカーやキャリアが提供している。そこにコミットできるのかという話ですね。

石野氏:あと、面白いところでいうと、アップルでCPUを作っていた人が、やめた後に設立した会社をクアルコムが買収して、PC用のCPUを作ったりしている。今後スマートフォン向けのチップも開発するといっていて、種まきはしている状態です。

房野氏:ちなみに、Snapdragon 8 Gen 2を搭載した最初のスマートフォンは、いつ頃、どのメーカーから出ますか?

石野氏:2022年中という話をしていて、すでにVivoが端末を発表しています。イベントではSnapdragon 8 Gen 2で使える、Wi-Fi 7に対応したスマートフォンが年内にXiaomiから出ると言われていたので、これも間もなくだと思います。

法林氏:スマートフォンだけがWi-Fi 7に対応してもあまり意味ないけどね。ルーターなども対応しないと。そもそも、現行のWi-Fi 6Eもそこまで普及していないし、スマートフォンを使って劇的に速度が変わるのかという問題もある。

石野氏:僕は自宅のルーターをWi-Fi 6に変えましたが、速度はともかく、安定性がすごく上がっている印象があります。ルーターが全然落ちなくなりましたね。

ハイエンドスマートフォンの買い方、売り方が変わる?

石川氏:Snapdragon 8 Gen 2搭載スマートフォンへの期待もあるけど、Snapdragon 8 Gen 1が余っているという話もある。コロナで在庫が足りなかった時期には、調整をかけたおかげでなんとかなったけど、世界的に消費マインドが落ちてきているので、とにかくスマートフォンが売れなくなってきて、逆に余っている状態です。

石野氏:半導体不足とはいわれていますが、半導体は「足りない」か「余る」かのどっちかになってしまいますよね。

石川氏:スペックの低いチップは足りていないけど、ハイエンドスマートフォン向けチップは余ってしまいます。

法林氏:世界的にスマートフォンの需要が落ち込んでいるからね。

石川氏:そうですね。なので、2023年は在庫調整のような動きが見られるかもしれません。ただ、チップが余ることに加えて、売れ筋はミドルクラスなので、ハイエンドチップを搭載したスマートフォンを、複数年売るような流れが来ています。日本は過去の在庫を処分してしまうけど、海外では複数年売る形、要はアップルと同じことをやろうとしている。iPhone 14が出た後に、iPhone 12やiPhone 13を買うようなものですね。

石野氏:Xperiaも、「Xperia 1 II」を長く売っていたりしましたね。

Xperia 1 II

石川氏:ハイエンドスマートフォンといっても、最近は進化の幅も狭いので、毎年新しい物を買うのではなくて、「Galaxy Z Fold4」が出たら、安くなった「Galaxy Z Fols3 5G」を買うといった動きも増えていくかもしれません。

Galaxy Z Fols3 5G

房野氏:キャリアとしては、古い機種の価格を改定して売るということですね。

法林氏:そうなんだけど、現実的には、継続販売をしていると必ず価格が下がるというわけではなくて、部材の関係もある。極端な話、世界有数の有機EL工場が火災で燃えちゃいましたなんてことがあったら、当然販売価格は上がりますよね。何が起こるかはわからない。

房野氏:スマートフォンの買い時が難しくなりそうですね。

法林氏:そうだね。いろんな意見があるけど、要はモデルによる差が激しいから難しい。iPhoneでいえば、iPhone 13 ProとiPhone 14 Proの値段差が大きいけど、機能差はそこまで大きくないから、iPhone 13 Proを買うという選択はありです。

石川氏:先日発売された「Leitz Phone 2」だったら、価格は上がるけど2世代目のほうが良いだろうし、Galaxy Z Foldなら、4世代目じゃなくて3世代目でも良いかもしれない。

Leitz Phone 2

法林氏:ただ、Galaxy Z Foldは2世代目と3世代目を比べると、防水やFeliCaに対応した3世代目なんだよね。モデルごとの進化を理解してもらわないといけない。

石川氏:そうですね。なんでもかんでも最新じゃなくてもいい時代になるかも。

法林氏:ただ、業界にいる我々が「最新じゃなくていい」といい出すと、市場的に崩れていく気はする。かつてのPC業界がそうで、スペックを比較するばかりになった。どんどんつまらなくなっていく。クアルコムが今回「ユーザー体験」といっているのは、PC業界の失敗を見ていたからでしょう。あとは、クアルコムの尻に火をつけるためにも、メディアテックやアップルのような、対抗勢力に頑張ってもらわないといけません。

石野氏:メディアテックはグイグイ来ていますよね。特に安い端末のシェアはかなりメディアテックが取っていますし、それを活かしてハイエンド向けにも手を出してきている。クアルコムも決して安泰じゃないです。

石川氏:メディアテックのようなメーカーが頑張ってくれれば、クアルコムは値段を下げざるを得ないので、結果として競争が盛り上がってくれればいいですね。

石野氏:クアルコムはCPU、GPUというよりはモデムの会社で、キャリアとのIOTをがっつりやって、いつでもスマートフォンと繋がるという環境を作るのがうまいのが、PCのチップほど簡単に崩れない要因の1つではあります。通信技術に強いので、4G、5Gの先進的な機能を最も早く取り込むのはクアルコムだったりする。キャリアとの結びつきも強いので、キャリアが採用するスマートフォンは結局Snapdragon搭載モデルのほうが楽だよね、という話にはなりがちです。SIMフリーが中心の国で、メディアテックが良く伸びているのは、こういう理由もあります。

法林氏:国ごとにキャリアのネットワークの作り方は違うからね。

石川氏:そうですね。アップルがモデムをやるといっているけど、相当難しいと思います。クアルコムに話を聞くと、周波数の組み合わせは何億通りとあるので、ちゃんと動くようにするためには、ノウハウや特許の積み重ねが必要です。

法林氏:ただ、アップルとしてはそこに踏み込んでいかないと、先がない。実はアップルはやらないといけないことが多くて、モデムもそうだけど、スマートバンドのような製品もないし、AIももっと頑張らないといけない。

石野氏:Siriをやってはいますけど、Siriだと家電を全然動かせないんですよね。

法林氏:結局、アメリカを中心としたローカルサービスでしかない。アップルはいまだに日本語化されていない部分がチラホラあるくらいです。

房野氏:Snapdragonを語る上では、モデムが重要だということですね。

石野氏:そうです。今回搭載されているモデムは、AIがいろいろ処理を最適化してくれるらしく、「パケ詰まり」のような現象も解消できるかもしれない。ミリ波の電波が弱いところでもつかみやすくできるらしく、5Gのエリアが広がったように感じるかもしれません。

石川氏:結局、メディアテックがどれだけ頑張っても、通信の分野でこのようなことはできない。コネクティビティはクアルコムにとって重要だし、これがスマートグラスやスマートカーにも効いてくるはずです。

いまでも2G、3Gを使っている国は多いので、これらがある限りはクアルコムの天下は揺るがないのかなと思います。2G、3Gがなくなったら、アップルなどにもチャンスが来るかもしれません。

石野氏:ミリ波のエリアが広がるというような部分を見ていると、まだまだクアルコム強いなと感じますね。キャリアが喜ぶポイントを良くわかっているなと思います。

……続く!

次回は、キャリアの決算発表について会議する予定です。ご期待ください。

法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦

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