『木偶』という言葉には、いくつかの意味合いや読み方があります。『木偶の坊(でくのぼう)』という言葉もあり、変わった読み方をする単語です。一般的な意味や、類義語・対義語についても見ていきましょう。木偶にまつわる豆知識も紹介します。
「木偶」とは
木偶という言葉には、複数の読み方や意味があります。まずはそれぞれの読み方や意味について見ていきましょう。使い方によって意味合いが変わるケースもあります。
たくさんある木偶の読み方
木偶には読み方が複数ありますが、一般的な読み方は『でく』です。
ただし、『木』を『で』と読み『偶』を『く』と読んでいるわけではありません。二文字以上の熟語が組み合わさった場合には、熟字訓という読み方が生まれます。あくまでも、『木偶』と二文字で書かれたときだけ通用する、特殊な訓読みと考えておきましょう。
その他に『もくぐう』『ぼくぐう』と読むケースもあります。また、木偶の当て字として『にんぎょう』を用いた小説もいくつか存在しますが、現在ではこの使い方はあまり見られません。
木偶の一般的な意味
本来、『木偶(でく)』の意味は、木彫りの人形です。そこから派生して、一般的には『操り人形(のような人)』や『役に立たない人』を指します。
人形は誰かが動かすときだけ、移動や身ぶり手ぶりを表現できるものです。動かしている人間が離れると、何もできません。人形のように突っ立っているだけで何もできない人、気が利かずぼんやりしている人に対して使われることが多く、悪い意味で使われるケースが多いでしょう。
『木偶の坊』と表現されることもあり、木偶の坊には『役立たず』『無能』などの意味があります。『坊』は『坊や』『忘れん坊』などにも使われるように、人を指す言葉です。
木偶の坊という言葉は、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』で使われていることもあり、知っている人も多いでしょう。
「もくぐう」「ぼくぐう」の意味
木偶を『もくぐう』『ぼくぐう』と読む場合、一般的には木彫りの人形そのものを指します。古代中国では木彫りの人形が副葬品として使用され、主に戦国時代の墓から出土しています。
このように、中国の副葬品を指す場合は『木俑(もくよう)』と呼ばれることもあります。朝鮮半島にも似たような木彫りの人形があり、『木偶(モグ)』と呼ばれているようです。
『木偶人(もくぐうじん・ぼくぐうじん)』という表記の仕方もあり、この場合は木偶の坊のような『役に立たない人』という意味も持ち合わせています。
「木偶」の類義語や反義語
木偶という言葉には、類義語や反義語があります。近い意味の言葉や反対の意味を持つ言葉を知り、使い方の違いを知っておきましょう。主な類義語と反義語を紹介します。
「木偶」と意味が似ている言葉
木偶には、似たような意味合いの類義語があります。
例えば『傀儡(くぐつ・かいらい)』は、本物の操り人形や、操り人形のように使われている人を意味します。人形を指す場合には『くぐつ』、操られる人を指す場合は『かいらい』と読むのが一般的です。
平安時代の頃に書かれた書物では人形を操る旅芸人の集団や操り人形を『傀儡子(くぐつし)』と呼んでおり、枕草子にも『傀儡』という表現が見られます。
人間を指す言葉としては『唐変木(とうへんぼく)』があり、気が利かず偏屈な人の意味です。木偶の坊と同じように、気が利かない人に対する軽い悪口として使われます。
木偶の坊は『ぼんやりとしていて人形のような人』という意味で使われ、唐変木は『変わり者や気難しい人』に対して使うことが多いでしょう。
「木偶」と反対の意味を持つ言葉
木偶を『ぼんやりとして気が利かない人』の意味で使う場合、反対の意味を持つ言葉があります。
例えば『切れ者』は才覚に優れ、頭の回転がよい人のことです。『敏腕(びんわん)』にも似たような意味があり、素早く正確な処理を行う能力を持っている人に対して使われます。
『腕利き』『凄腕』なども、処理能力に長けた様子を表す言葉です。木偶の反対の意味を持つ言葉には、褒め言葉として使えるものも多いでしょう。
「木偶」に関する豆知識
操り人形としての『木偶』は、世界各地で使われています。中国の操り人形や、日本の伝統芸能についての豆知識を見ていきましょう。
中国の操り人形芸
中国古来には、木彫りの人形を使い物語を演じる『傀儡戯』が行われていました。木彫りの人形そのものの歴史は古く、湖北省荊門市で発見された春秋戦国時代の墓からも木偶が出土しています。
傀儡戯は600〜1000年頃に中国で王朝を築いていた唐・宋の時代に発展したといわれ、現代でも中国各地で多くの人形劇が行われています。
指人形を操る『布袋木偶戯』や、マリオネットのような『提線木偶戯』など、劇の種類は多様です。年代を追うごとに独自の発展を遂げたと考えられるでしょう。
日本では徳島伝統の阿波木偶が有名
徳島県では、伝統芸能として『阿波木偶箱まわし』と呼ばれる人形浄瑠璃を演じています。箱まわしは人形芝居の一種で、ひとりで箱に入れた人形をかつぎ、人形を使って演じるスタイルです。年明けの行事や、人気演目を演じる目的で人形が使われます。
明治時代の頃には大道芸として人気を集め、芸人が家々を回って箱まわしを演じていたといわれています。徳島県内には人形劇のビデオ上映や人形そのものを鑑賞できる阿波木偶人形会館もあり、伝統芸能を肌で感じることもできるでしょう。
構成/編集部