東大、フランス国立研究所、MENSA(全人口の上位2%の知能指数を持つ人が入会できる国際グループ)などで世界のさまざまな「頭のいい人」を見てきた脳科学者・中野信子氏。そんな中野氏が「物忘れを防ぐ『検索タグ記憶法』」「『誰かのために』が脳に快感と若さをもたらす」「挫折がなくなる『やらないことリスト』の作り方」など、仕事や勉強、人生がうまくいく脳を活用した31の習慣を解説した著書が『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』です。
本稿ではこの本から一部を再編集、「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している少し意識を変えるだけで、誰にでも今日からできるコツをお届けします。
中野信子著/アスコム
『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』
自分のしてきたことを見返すと自信が湧いてくる
前項で「やるべきこと」リストと「やらないこと」リストの話をしました。他にも、このように書き出すことで、成果をあげたりやる気を出したりする方法があります。私の周囲にいる優秀な何人かが実践していたことです。
一つは、「自分の努力の記録」。そしてもう一つは、「目標を数値化すること」。以上の二点です。どちらも、ノートなどに自分のことを書き留めることになります。
一つ目の「自分の努力の記録」ですが、記録するというのはモチベーションを維持する上でとても重要なポイントです。記録をつけることで自分の努力を可視化でき、やろうと思っていることが長続きするのです。
手帳でもスマートフォンでも紙のカレンダーでも何でもいいので、とにかく努力の記録をつけます。すると、頭がいつも、目標の達成を意識するようになるのです。
目標達成をいつも自分に意識させるというのは、前項のチェックリスト作成と同じ効果を生みます。ただ、やったことの記録をつけておくことは、別のメリットもあります。それは、あとから努力の痕跡を見返したときに、「自分はこんなにやってきたじゃないか!」となって励みとなります。すると自信が湧いてきて、挫折を防ぐこともできるのです。
例えば、遅くまで残業して、終電で帰宅した週末の夜に勉強をしたとします。泥のように眠りたい欲求をかろうじてこらえ、もうろうとした頭で半分眠りながら問題集を開いたとします。目が覚めたら朝だった……というようなときでも、なんとか問題集を開いて一問でもやったという記録を残しておけば、自分が頑張った足跡として、後々確認することができます。それが、「自分はこれだけやれたんだ!」という自信につながっていきます。
努力したことを書き留めると冷静に自己分析できる
努力の痕跡を残すことは、本番で結果が出た後の心のケアにも役立ちます。
惜しくも期待していたものからは程遠い結果が出た……、となってしまったとき、あなたはどう感じるでしょうか? きっと残念な気持ちになり、「努力しても無駄だったんだ」「私には才能なんてないんだ!」と、やけっぱちな気分になるのではないでしょうか。
そんな状態では、周りの人がどれだけ励ましてもなぐさめても、かえって逆効果になってしまうことも。「私には才能なんてないんだ」と思って落ち込んでいるときに、無神経な言葉で励まされることほど悲しいことはありません。また、そうした「いら立つ自分」にも嫌気がさしたりして、二重に悲しくなることもあるかもしれません。
でも、自分がどんな努力をしていたか、どのようなアプローチをして、実際にどれだけの時間を割いていたかを、一つ一つ記録に残しておけば、どんな結果が出ても、冷静に自分と向き合えるはずです。「意外に、自分のココが改善できる余地があったのではないか」なんていうポイントが、ゴロゴロ出てくることもあります。そして気分も新たに、次のチャレンジができるのです。
これまでの行動を振り返れば目標に向かってブレずに進める
次のチャレンジは、同じ目標でなくともよいのです。例えば、TOEICで800点は取れなかったとしても、「750点までは取れたから、次はフランス語検定を受けてみようかな?」と、別の新しいことに挑戦する。全部、あなたの自由です。
ポイントは、目標を達成できなかった(できないかもしれない)ことで、あなたの意欲が削がれてしまうことを防ぐというところにあります。
また、「自分はこれだけやった」が見えていないと、他人の続けている努力や、他人が出した成果などが気になって、自分のやるべきことから心が離れてしまうことも起こりがちです。
他人のことが気になり始めたら、記録ノートを見直して、「自分のやっていることは間違いない!」と確認するのです。そうすれば、目標に向かってブレずに進んでいくことができます。
言うまでもないことですが、「努力したこと」だけに満足してしまって、目標を忘れてしまうのはもってのほか。あくまでも、新しい自分になるために、記録を取っていくのだという意識が大切です。
数値化することで目標と現状との距離がわかる
二つ目の「目標を数値化すること」ですが、自分にプレッシャーをかけるもとになるものですから、なかなか最初は設定することが困難でしょう。目標数値が高すぎると、ウンザリします。逆にあまり低すぎても、張り合いがありませんので無意味です。
適度な難しさであることが、モチベーションを維持する秘訣です。例えばテレビゲームでも、簡単にクリアできるゲームなんて、いったんクリアしてしまったらつまらなすぎてもう二度とやらないでしょう。また、ゲームがあまりにも難しすぎる場合にも、やる気が起こらないですよね。
自分が「クリアできる」とわかっているラインよりも、ちょっと背伸びしたあたりがちょうどいいでしょう。これを、目標数値を設定するときに「基準」として考えてみてください。
数値化しない目標というのは、達成したかどうかがよくわからないため、取り組みづらいものです。そのうち、何をしたらいいのかわからず、焦りばかりがつのっていくことになります。
「その目標にどれだけ近づいたのか」または「どこが自分にとって難しいポイントなのか」などは、数値を設定しなければ見えてこないことが多いと思います。あくまで数値を設定するのは、「何が何でも数値を達成する」とやっきになることではなく、目標と現状との差をちゃんと知っておく上で重要なのです。
目標とは、あなたの人生の質をより良く変えていくための道具です。最終到達地点ではなく、自己を高めるための起爆剤と考えたほうがいいと思います。
資格取得マニアのような人も、世の中にはたくさんいます。彼らの中には、資格が欲しいから試験を受けるのではなく、何か一つの目標に向かって走る自分が好きだから、そうしている人も多いと思うのです。
行きすぎはどうかと思いますが、適度な目標は、より楽しく、より質の良い人生を生きるために、大切なことだといえるでしょう。
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脳のパフォーマンスは使い方や習慣次第で大きく変わります。「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』を参考に脳の上手な使い方を学んでビジネスに活用してみてはいかがでしょうか。
中野信子(なかの・のぶこ)
1975 年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授。著書に『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『空気を読む脳』『ペルソナ脳に潜む闇』(講談社)、『キレる!』『「嫌いっ!」の運用』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。