東大、フランス国立研究所、MENSA(全人口の上位2%の知能指数を持つ人が入会できる国際グループ)などで世界のさまざまな「頭のいい人」を見てきた脳科学者・中野信子氏。そんな中野氏が「物忘れを防ぐ『検索タグ記憶法』」「『誰かのために』が脳に快感と若さをもたらす」「挫折がなくなる『やらないことリスト』の作り方」など、仕事や勉強、人生がうまくいく脳を活用した31の習慣を解説した著書が『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』です。
本稿ではこの本から一部を再編集、「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している少し意識を変えるだけで、誰にでも今日からできるコツをお届けします。
中野信子著/アスコム
『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』
ライバルの良いところをとことん吸収する
フランスの研究所時代に一番仲の良かった同僚、アルジェリア出身の女性研究者Fさんの話をしましょう。
彼女は、アラビア語はもちろん、フランス語、英語、ドイツ語の4ヶ国語を話し、Ph. D.(英語圏での博士号)を持つ才女。今はパリ郊外の感じのいい町(パリ市内を東京23区と考えると、吉祥寺くらいにあたる場所)に住み、同じく研究者でフランス人であるご主人と、かわいい双子の女の子がいます。
研究者として新しい分野に意欲的に取り組む積極性が彼女の持ち味で、何か新しい案件があると、上司はいつも彼女を頼りにしていました。研究者として優秀であったのはもちろんですが、女性として、人間としての魅力がある人で、チームのムードメーカーとして大きな役割を果たしていました。まさに才色兼備というのはこういう人のことをいうのでしょう。
Fさんは、ライバルを見つけるのが得意でした。
ライバルを見つけたとき、相手の足を引っ張ろうとして、そのライバルの良くない点を何とかして探し出して、けなしたり悪口を言ったりすることがあるかもしれません。
でも、Fさんは違いました。ライバルを見つけるやいなや、その人の良い部分に目をつけて、その良い部分を自分にも取り入れよう、自分もできるようにしよう、と取り組むのです。これが、Fさんのすごいところです。
脳は休ませすぎると働きが悪くなる
Fさんは優秀な人なので、すぐにそういう目標が達成できてしまうのがまたすごいところなのですが、それゆえに、ライバルも彼女のことを意識するようになることが多くありました。なので、Fさんもなかなか刺激的な日々を送っていたみたいです。
彼女はもともと、何か目標を見つけて戦うということが好きな性格なのだろうと思います。その生まれつきの性格をうまく使って、自分を高めることに役立てていたと見ることもできるでしょう。
パナソニック(旧松下電器)の創業者・松下幸之助は「ライバルが強くなければ自分も強くならない」と言ったそうです。確かに人間というのは、共に強くなる相手がいないとどうしても慢心してしまって、「この辺で十分だろう」とだらけてしまうものです。
脳というのは大量にエネルギーを消費することもあり、ずっと戦い続けている状態に耐えられるようには作られていないので、すぐに休もうとする性質を持っています。でも、あまり休みすぎると、今度は戦えない脳になってしまいます。うつを引き起こすもとにもなりかねません。休むことも大切ですが、上手に脳を戦わせてやる工夫も必要なのです。
ライバルの話をすると、「他人と比較するな」というアドバイスが時々出ます。
でもこれは、「他人と比較したときに、ネガティブな気持ちになるな。落ち込んで他人の足を引っ張ろうとするくらいなら、比較するな」という意味なのではないでしょうか。他人との比較も、本当は大事なことだと私は思います。
他人と比較する場合は「何を比較し、それをどのように捉えて今後どうするか」ということが重要となります。また、自分で立てる目標が客観的に見て低い目標であるなら要注意です。「低い目標」を達成したときの満足感は、目標と同じように「低い」ものなのです。結局は、低い自己評価につながってしまいかねません。
良い成果を出すことがライバルへの最高のリベンジ
今の自分にとって、最高のライバルを見つけてください。そのライバルと戦える自分に誇りを持ちましょう。
また逆に、誰かにライバル視されることがあったとしたら、それはとても光栄なことです。そのライバルが、足を引っ張ってきたり、攻撃したりしてくるような面倒な相手であったとしたら、それと戦うのはしんどいことですが、ひるまずに思う存分こちらも戦えばいいのです。そうして戦っているうちに、自分でも気づかないうちに、どんどん力がついていくのです。
とはいっても、相手をおとしめたり、攻撃したりするのに精力を注ぐのでは、泥仕合になるだけで自分に何も残りません。
Fさんはいつも、「最高のリベンジは、最高の仕事をすること」と言っていました。これもまた素敵な言葉です。彼女は思う存分戦いながらも、その一方で、ライバルが存在することの価値を知っていて、敵に感謝できる人でもあったのです。
内村鑑三の著書『代表的日本人』の中で紹介されていますが、日蓮宗(法華宗)の宗祖である日蓮は「方人(かたうど=味方のこと)よりも強敵が人をば善く成しけるなり」と言って、味方よりも敵の存在に感謝する姿勢の大切さを述べています。
私たちも、日蓮と同じ日本人として、積極的にライバルを見つけて、自分を磨いていきたいものです。
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脳のパフォーマンスは使い方や習慣次第で大きく変わります。「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』を参考に脳の上手な使い方を学んでビジネスに活用してみてはいかがでしょうか。
中野信子(なかの・のぶこ)
1975 年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授。著書に『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『空気を読む脳』『ペルソナ脳に潜む闇』(講談社)、『キレる!』『「嫌いっ!」の運用』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。