東大、フランス国立研究所、MENSA(全人口の上位2%の知能指数を持つ人が入会できる国際グループ)などで世界のさまざまな「頭のいい人」を見てきた脳科学者・中野信子氏。そんな中野氏が「物忘れを防ぐ『検索タグ記憶法』」「『誰かのために』が脳に快感と若さをもたらす」「挫折がなくなる『やらないことリスト』の作り方」など、仕事や勉強、人生がうまくいく脳を活用した31の習慣を解説した著書が『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』です。
本稿ではこの本から一部を再編集、「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している少し意識を変えるだけで、誰にでも今日からできるコツをお届けします。
中野信子著/アスコム
『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』
貴族家系であるがゆえに味わった苦労の連続
イスラエルのヘブライ大学で言語学を教えている、イタリア系ユダヤ人のSさんは、20ヶ国語を操る天才。歴史や宗教にも造詣が深く、何を聞いても何でも知っているという感じで、「本物の博士というのは、こういう人を指すんだろうなあ」と思わせる人です。
また、Sさんは爵位(伯爵)を持っており、イタリアとイスラエルに自宅があります。人懐っこく、とてもフランクなので、あまり貴族っぽくは感じないのですが。
こんな風に彼を紹介すると「家柄が良く、資産にも恵まれているから、学問を存分にやらせてもらえたのだろう。天才になって当然だ」と思う人も多いかもしれません。
ですが、Sさんの少年時代は、恵まれたものではありませんでした。
確かに爵位持ちではあるのですが、彼は幼い頃に両親を失っています。その後、養父母のもとで少年時代を送るのですが、それはとても過酷なものだったと聞きます。彼が自由にできる財産は一銭たりともなく、不条理な扱いを耐え忍んで、生きていかなければならなかったそうです。
貴族社会のことは私にはよくわかりませんが、本来、彼が継ぐべきものを狙う大人たちから自分の身を守っていくというのは、並大抵の苦労ではなかったでしょう。
彼の学者としての能力、また彼の現在の地位や資産は「家柄が良いから得られた」あるいは「親から与えられた」というようなものではなく、彼がたゆまぬ努力をして、着実に築いてきたものなのです。
どんなに悪い人からも学ぶという攻めの姿勢
Sさんは厳しい少年時代を送ってきたにもかかわらず、その明るさや負けない性格をねじ曲げられることなく、逆境に耐えて学問の世界で成功できたのは、なぜだったのでしょうか?
私は、彼の強さの秘密は「人のことを悪く言わない」という一点に尽きると思います。
「人のことを悪く言わない」という姿勢は一見、受け身的ないわゆる「草食系」のように思えるかもしれません。でもこれは、ちょっと見方を変えてみれば、「どんな状況にあっても、それを拒絶せず、自分の成長の源にしていく」という力強さがなければできない生き方であるともいえます。
むしろ逆に、どんな人からも、自分の血肉となるものを貪欲に吸収していこうという、究極の「肉食系」なのかもしれません。
Sさんは、逆境にあった少年時代に、どんな人からも学んで、自分の力にしていこうという、能動的な「攻め」の生き方を身につけたのです。これは困難に立ち向かうとき、誰のことも傷つけずに戦うことができる、最善の方法といえるでしょう。
これは、どんなに悪い状況でも、何か別の物事のせいにしないということでもあります。何かのせいにするというのは、例えばこんな感じです。部長が短気だから、せっかくうまくいっていた案件も途中でおじゃんになってしまった。自分はもともと運が悪い男だから、いい上司に恵まれない。今日は出勤するときに階段でつまずいたから、契約がうまくいかないんだ……、などなど。
現状否定よりも現状の有効活用を考えよう
でも、こういったことは、誰にでも同じような確率で、誰の身の上にも起こることではないでしょうか。こうしたことに原因を求めて、つまらない時間を過ごすのは実にもったいないことです。
その時間をもっと、「現在の状況から何か得られるものはないか?」「もっと良くしていくには、どうすればよいか?」と考えることに使うほうが、ずっと楽しいし、得なのではないでしょうか。こう考えることで、どんな状況にあっても、希望を持ち続けることができるのですから。
希望を持ち続けるということは、ずっと脳を若々しく保っていく上でも重要なこと。これは、脳科学の研究でも実証されていることです。
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脳のパフォーマンスは使い方や習慣次第で大きく変わります。「世界で通用する、本当に賢い人たち」が実践している『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』を参考に脳の上手な使い方を学んでビジネスに活用してみてはいかがでしょうか。
中野信子(なかの・のぶこ)
1975 年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授。著書に『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『空気を読む脳』『ペルソナ脳に潜む闇』(講談社)、『キレる!』『「嫌いっ!」の運用』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。