わが社の来季の目標がDX(Digital Transformation)の推進に決まった。
「デジタルを効果的に活用し提供ができるよう、ビジネスや組織の活動・内容・仕組みを戦略的、構造的に再構築して行こうじゃないか!」と社長は張り切って叫んでいる。
社内では情報システム部門が忙しそうにしているが、人事の我々をはじめ、他の部署の人たちは、遠い国の話の様でいまひとつ、ピンとこない。
DXを基礎から学びたい我々に、「DXとは何か?」「どうしてDXが必要なのか?」「日本のDXの現状は?」「必要なデジタル技術は?」「成功事例の特徴は?」「どうDXをすすめるべきか?」などのDXの気になる疑問、すべてに答えてくれたのが「1冊目に読みたいDXの教科書」(SBクリエイティブ発刊、定価1540円)である。
DXのエキスパートである著者の株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所・荒瀬光宏先生に、DX推進のポイントについて聞いてみた。
そもそもDXとは何か、から学ぶ教科書
――新刊書はこれからDXを学ぶ我々に最適です。紙面の半分でフルカラーの図解をおこない、目で見て分かりやすい構成になっています。
荒瀬先生 すべてのビジネスパーソンがDXを学ぶ「1冊目」として本当におすすめできる、DXの教科書です。忙しい人でも理解しやすい様に、80項目すべて、見開きで解説しているので、通勤や休憩時間などのスキマ時間に読むことができます。
そもそもDXって何か?という基本的な内容から、企業がDXを推進する目的、また、DXを推進するためには何をすればよいかというプロセスまで、わかりやすく図解で説明しているので、デジタルアレルギーのある人でもわかりやすく理解できるようになっています。
DXは企業が変化に応じて生き残るために必要な概念
――荒瀬先生はDXが企業が環境の変化に適応して生き残るために必要な概念であると訴えています。特にデータやデジタル技術の活用を前提に業務を再設計する重要性を強調されています。すでに設計部門でのBOMなど、うちの会社はデータ管理化されたシステムの構築をしてきたのですが、なぜ今になってさらなるデータ化が必要なのでしょうか?
荒瀬先生 BOMやデータを管理するシステムは、これまでも重要ですが、これからはそれ以上に重要になります。その理由は、顧客の属性や行動データを取得することにより、ビジネスをとりまくすべての活動や事象をデータ化することができるからです。
製品の製造から販売までがデータ化されることにより、様々な価値を顧客に高速に提供できる可能性が生まれます。個人個人に最適な提案やインターフェースの提供などです。また、過去のデータが蓄積され、利活用できる状態になっていれば、消費者のみならず、法人顧客にとっても、そのサービスが離れ難いものになることでしょう。
このようなデータを活用した顧客エンゲージメントを高めることこそ、データ全盛期に企業が追い求めるべき競争の原理です。その競争の原理を満たすことにより、企業は顧客のエンゲージメントを獲得することができます。
エンゲージメントとは、顧客がそのサービスやブランドから離れたくないという気持ちを醸成することです。なぜこれが重要かというと、デジタル主体のサービスや産業においては、ビジネスモデルは簡単に模倣されますが、顧客エンゲージメントは、誰にも模倣できないためです。ですから、データをどのように顧客にとっての価値に変えるかが重要と言えます。
モノづくりからコトづくりへ
――なるほど、ではうちみたいな会社で、DXを推進するために一番大切なことは何でしょうか?
荒瀬先生 製造業の皆様が特に意識すると良いのは、これまで組織をあげて徹底的に進めてきたモノ作り能力をいったん離れ、コトづくり能力を磨くことです。
コト作りの概念は、顧客にとって、より上位の目的達成に貢献することとも言えます。モノ作りは、往々にして顧客にとっては、やりたいことを実行するための部分最適に過ぎません。いままで自社が提供してきた価値ではなく、その価値が必要とされた「顧客が実現したいこと」全体という1つ上のレイヤーを満たし、顧客が実現したいコトを支えるパートナーとなることが重要です。
そのためには、顧客の実行したいプロセスを徹底的に支援するデジタルサービスを設計し、データが蓄積されるほど顧客に価値が還元される仕組みを作ることが重要です。
社員教育がDXのカギに
――最後にDXで大切な社員の意識改革について教えてください。
うちの社の様に情報部門以外のピンと来ていない総務や人事の人々に、どうやって意識改革を進めたらよいでしょうか?
荒瀬先生 組織でDXに取り組む際に重要なのは、現場の1人1人の意識です。現場や顧客を知っている1人1人がどう何を変えるべきかをしっかり考えることが必要だからです。
もちろん、現場の1人1人が行動を変えるためには、中間管理職や役員のマネジメントも変えなければなりません。そのためには、役員や経営者自身が、環境の変化と自業界に起こる再編の方向性を認識して、自社の進むべき方向性を指し示す必要があります。
つまり、意識改革を最初にするべきは、経営者を筆頭とする役員の方々であり、中間管理職であり、現場の皆様です。ですから、これらの皆様が同じ体系で学び、同時並行的に、自身の組織のあるべき姿を構想し、整合性をとっていくことが必要です。
このような体系化や整合性をともなわない教育をしてしまうと、いつまでたっても、組織全体が同じ方向に進みませんので、どのような社員教育をするかが、DXの成否を分けると言っても過言ではありません。
――ありがとうございました。
日本が世界の第一線で活躍するためにも、DXへの関心はますます高まっていきそうだ。
著者・荒瀬 光宏 さん
慶應義塾大学法学部、グロービス経営大学院卒。国内の多くの企業および地方自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を研究してきた立場から、DX成功の要諦について実践的なノウハウを所有する。これからの環境認識をベースに将来のあるべき姿、経営戦略を検討し、その戦略を実現できる組織体制、文化、マネジメントへの変革を図る全社変革プロジェクトを得意とする。
文/柿川鮎子