スマートスピーカー「Amazon Echo Show」を活用した日本郵便の見守り事業はどこまで浸透するか?
2022.12.08■連載/阿部純子のトレンド探検隊
地域とのつながりが強い郵便局の見守りサービスにスマートスピーカーを活用
スマートホーム化が進む中で、音声操作ができるAmazonのAI音声認識サービス「Alexa(アレクサ)」は3年間で2倍以上利用者が増加、日々の暮らしを便利にするだけでなく、離れて暮らす高齢者を持つ家族の見守り機能としても年々需要が高まっている。
スマートスピーカーのAmazon Echoにディスプレイが付属した「Echo Show」が、高齢者の見守り用のデバイスとして好評で、発売2年間で150%成長(国内)している。
Amazonではスマートスピーカーを利用しているユーザーにアンケートを実施。約80%がスマートスピーカーの利用用途として、子どもや高齢者の見守りに使いたいと回答。「Echo Show10」のカスタマーレビューでも「実家の母はビデオ通話ができるため電話を使わなくなった。カメラ機能が付いているので家の中も確認できる」、「認知症介護の救世主になるかも」、「テレビ電話として活用し、家族の写真も常時アップして見せているので喜ばれている」など、大画面のスマートスピーカーデバイスが、高齢者と家族の繋ぐ役割を担っていることがうかがえる。
日本郵便が2022年1月から提供を開始した「スマートスピーカーを活用した郵便局のみまもりサービス」は、Echo Showのデバイスを活用した高齢者向けの見守りサービス。日本郵便のキャラクター「ぽすくま」を起用し、高齢者が違和感なく使えるサービスを目指している。
「高齢化社会の課題に貢献するため、2017年から郵便局のネットワークを使った見守りサービスの提供を行ってきました。全国に2万4000ある郵便局が、それぞれの局の近くに住んでいる高齢者の方を月1回訪問し、話を聞いたり、写真を撮ったりしてご家族に報告するサービスを実施しています。
このサービスにデジタルを活用できないかと検討し、2019年から複数の自治体で、アレクサを使った業務サービスの実証実験を行っており、今年1月からサービス提供を開始、北海道から愛媛まで12の自治体で利用されています」(日本郵便 地方創生推進部 担当部長 小川晃弘氏)
日本郵便では過去にタブレットを使った見守りサービスの実証実験を実施したことがあったが、身体機能の衰えがある高齢者では、画面が見えづらくアイコンのタッチがずれてしまう、肌の乾燥によりタッチしても反応しない、通知が来てもタップを重ねてアプリにたどり着くのに苦労するなど、継続的に使うには難しいという課題があった。
その点、ハンズフリーで音声操作のみで使えるインターフェースのアレクサは高齢者でも簡単に使いこなせることができ、定期アクションの設定もできるため、使っている高齢者もストレスなく使えるのが大きな利点だった。実証実験に参加した人は80歳以上が多かったが、80%の人がスマートスピーカーは生活に馴染んでいると回答したという。
利用者の自宅にAmazon Echo Showを置き、個人の生活リズムに合わせて体調確認、服薬の確認を定期的に行う。見守る家族はLINEで「ぽすくま」を友だち登録し、写真とか動画メッセージを送ると高齢者のスマートスピーカーに表示。体調等の確認もLINEを通じてできる。ネガティブな回答が高齢者の利用者から来たときには毎日21時に通知。毎週日曜日には1週間分の情報を知らせる機能も付いている。
「体調や服薬の確認を繰り返し聞くと、問診のようだと感じる方もいるため、クイズや今日は何の日というような情報を伝える機能も作りました。達成スタンプも組み込み、楽しみながら生活状況の確認をさせていただける機能も付けています。また、家族からメッセージや写真などを送ることができて、家族間のコミュニケーションにも役立てています」(小川氏)
郵便局の見守りサービスのプレイヤーとして地方自治体を想定。地域、災害の情報、介護予防に資する対象動画を複数の利用者に一斉配信、または個別配信することが可能。配信の際はウェブ上の管理ツールから簡単送ることができ、利用者の意思を確認することも可能。
「地方では見守りが必要な高齢者には情報が伝わらないことがあるとわかりました。行政防災無線を補完する情報伝達として、また、元気な高齢者へ介護予防の動画を配信するといった様々な形で利用されています。
自治体からすると見守る必要がある方が多くおられる中で、一覧性を持って確認できるので、優先順位をつけて対応できることに高い評価をいただいています。地域によってはボランティアが1人で何人も受け持つこともあり、そういった方に対しての管理画面を提供することで、優先順位をつけて見守り体制をサポートしています。
地域にはスーパーマーケット、診療所、地域包括支援センター、交通会社など様々なプレイヤーがいて高齢者をサポートしており、地域の各プレイヤーに私たちのシステムをプラットフォームとして使っていただき、地域全体で利用者、高齢者を支える取り組みを支援していきたいと考えています」(小川氏)
音声のインターフェースで高齢者も簡単に使えてビデオ通話で家族とつながる
「アレクサが高齢者やそのご家族のために有益な機能を提供できる利点は、音声のインターフェースで高齢者にも簡単に使えるということ、スマートフォンを活用した見守りと生活を便利にするツールとして使えること、ビデオ通話で家族と繋がるということの3点です。
ハンズフリーでの音声操作を毎日楽しく使っていただくことは重要で、さらにエンターテイメントにも活用できるのは重要な機能のひとつ。『演歌をかけて』『昭和○○年代の音楽かけて』など、自由な言葉で自分の好きな音楽を聞いていただけることができるのもアレクサのメリット。直近ではカラオケ機能をアップデート、カラオケに行く前に自宅で練習するという使い方もできます。
ビデオ通話は家族の繋がりを促進します。Echo Showデバイスを高齢者と見守る家族が使うことで、ハンズフリー、音声操作の利点を活かし、忙しい夕食のタイミングでもEcho Showで会話をすることで、あたかも一緒に食事をとっているような体験も可能になります」(Amazon Alexa インターナショナル事業開発本部 本部長 澤田大輔氏)
見守りのほか、スマートホームを活用した便利設定も高齢者の生活を手助けする。「おやすみ」と声をかければ一斉に消灯したり、就寝中にトイレに行く場合も、声掛けで電気をつけることができ安全面にも寄与する。
また、セキュリティカメラを組み合わせることで見守りの強化も可能。インターンフォンが鳴ったとき、訪問者を確認することが離れた家族でもできるようになる。
一方で、スマートスピーカーが応えられる内容というのは非常に多岐に渡るため、使い勝手が良すぎて何か使っていいかよくわからない、前に何を聞いてどうやって答えるか覚えていられないといった意見が、高齢者のユーザーから寄せられている。
澤田氏がヒントのひとつとして挙げたのが「実家スマートホーム化情報」https://joho.st/sh/ にある「実家スマートホーム化を成功させるためのコツ」。
アレクサの近くにカードを置いて、そのカードの中に「今日は何の日か教えて」、「アラームかけて」というような簡単な発話を書き込んだものを置いておくというもの。このようなアイディアを活用することで、高齢者でもより使いやすくなる。
【AJの読み】“アンビエントインテリジェンス”で今度こそ日本郵便の見守り事業は軌道に乗るか?
Amazonの澤田氏は、人の存在を察知して反応する電子環境「アンビエントインテリジェンス」の進化について言及。アレクサも呼びかけに反応するだけでなく、部屋の状態、ユーザーの状態を察知することによって、自発的に行動する機能にスキルアップしている。
Amazonではアンビエントインテリジェンスを搭載したデバイスを提供することで、便利な暮らし、高齢者の見守りに役立つ生活基盤作りを目指している。
地域とのつながりが強い郵便局は高齢者見守りを担う重要なプレイヤーでもある。今年11月に総務省郵政行政部が発表した「郵便局に求める地域貢献アンケート調査結果(速報版)」では、協定を締結するなど郵便局と何らかの協力関係にあると回答した自治体は全体の84%で、郵便局と協力してすでに取り組んでいる分野で最も多かったのは「地域の安全・防犯・見守り」だった。
日本郵便では、タブレットを利用者宅に設置する見守りモデルを断念し、郵便局員が端末を持って高齢者宅を訪れ状況を家族に伝える事業モデルに縮小したという過去があった。高齢者にも使いやすい音声操作のデバイスの導入で、今度こそ見守り事業が軌道に乗るか、今後の動向を注視したい。
文/阿部純子